(1からのつづき)

<驚くべきT医師の言い分>

しかし、S男さんは、2度目の入院から数年後のこと、ネットで薬について徹底的に調べ始めた。そして、調べれば調べるほど、T医師の処方がどれほどいい加減なものだったか、Cp換算2000以上というのがどれほど危険なものなのかを知るに至ったのだ。

そこからS男さんとT医師の薬に関するやり取りが始まるわけだが(S男さんは1ヵ月に2度ほど病院に行き、そのたびにT医師に迫った)、T医師の弁明というか言い逃れは、まさに開いた口がふさがらないようなものだった。

例えば、「なぜ入院中にメジャーが何種類も出ているのか」と質問すると、T医師は「恐怖心が強かったから」と答えたという。しかし、それは入院前からわかっていたはず。入院してメジャーで鎮静はおかしい。さらにS男さんが突っ込むと、T医師はこう答えた。

「私は非常勤だから」

非常勤は初診のころから知っていることなのだ。まるで自分は悪くないと言いたいような発言だった。

退院時に頓服だったメジャピンを定時薬と頓服として処方しているのは主治医であるT医師なのだ。


 このことに限らず、以前の処方についてもいろいろ追及すると、T医師の言い分は「あれは私が出した薬ではない」というものだった。非常勤で、週に一度しか診察をしていないから、(自分のいない間に)「えーと、あれを出したのはどの先生だったかな」ととぼけるような受け答えをする。

 そして、診断はあくまでも強迫性障害。しかし、処方は統合失調症に対する処方なので、それを問うと、なぜかT医師は怒鳴ってしまい話にならない。強迫性障害といって譲らない。統合失調症というと怒鳴り出すのだ。

また、S男さんが薬についてあまり知らないときに過去にどんな薬がでていたのかを訊ねると、急に「SSRIなんか出していない!」「マスコミで(副作用について)いろいろ騒いでいるでしょう!」と怒鳴ったという。しかし、薬局で調べると、ずっと処方されていることがわかった。

後になってそのことを問い詰めると、「あれはK男君のことではなく、他の人のことを言っただけ」とわけのわからない言い訳をした。


SSRIを処方し続けたことへの不信感から、S男さんが

「先生、アクチベーションシンドロームって知っていますか?」と訊ねると、

「処方した時から知ってました」という。

「でも、野村総一郎さんがそれを言い出したのは2009年ですよ」

「いや、2009年から知っていました」と何のためらいもなく前言を翻す。

またあるときは、こんなことも言い出した。

T医師「SSRIはK男君には合わないのは経験上わかっているんです。だからSSRIはこれからも出しません」

「でも、先生は発売してすぐにSSRIを出していたじゃないですか、経験上わかっているとはどういうことですか」とS男さんが迫ると、

T医師「いや、あれは私が出した薬ではない」と答える。

別の日には「あれは他の人のことを言った」や「鬱の人に対して言った」と答えたりもする。

ほとんどがこんな調子で、責任転嫁、もしくは不誠実な受け答えで話をうやむやにしてしまうといった対応しかしていない。

 さらに、薬の副作用で手の震えが出てくると、「調子が良くなってきている証拠」と以前T医師が言ったことがあるので、S男さんは錐体外路症状が出ている他の患者さんのことを、「皆さん調子がいいから、あのような状態になっているということですよね、先生」と迫ると、何も答えなくなってしまった。

S男さんがT医師に減薬をしたいと申し出ると、マックス処方だったコントミンを「一気に切っても大丈夫」と言われたという。もちろんその頃はそれがどれほど危険であるかを知っていたので、そんなことはしなかったが、薬についてまったくの無知であることを改めて確認した気持ちだった。



<T医師の妻>

T医師の妻も同じ精神科の医師で現在はクリニックを開業しているが、その頃は夫婦でこの病院に勤めていた。T医師が休みのとき、妻がK男さんに関して横から口をはさむことがあった。

まだ治療が始まって間もない頃のことだ。アルバイトを始めたK男さんに「あなたは社会性がないから、バイトは辞めなさい」と言ったという。そこでK男さんはアルバイトを辞めたが、そのことで精神のバランスを崩したのか状態が悪くなり、T医師にそれを告げると「まあ、今じゃなくてもバイトはいずれ辞めたでしょう」という返事だった。

しかし、それから何年か経ったとき、T医師は「やっていたら、よかったかもね」と言ったというのだ。

さらに妻は、この病院にK男さんが1回目の入院をすることが決まったとき、S男さんに「なぜ、他の病院に入院させないのか」といきなり言ってきた。S男さんが「ずっと主治医をしてもらっていますからお願い致します」と言うと、妻は「あなた方家族の考えていることが理解しがたい」と言ったという。

そこでS男さんが「先生がもしご自分の息子さんが暴れたらどうしますか?」と訪ねたところ、「私の息子は暴れたことがないので知りません」と言って、先に診察室を出ていってしまった。

あきれ果てたS男さんがT医師に、妻にどうしてそんなことを言わせておくのかと問い詰めると「連れあいだから言えません」という返事。

のちにS男さんがT医師に「息子さんにも同じ治療ができますか? Cp2000で一生行くと息子さんに言えますか?」と尋ねたこともある。

T医師は「病状にもよる」と答えたそうだ。

この女医も現在開業しているクリニックのHPにはたいそうなことを掲げているが、T医師同様、言っていることとやっていることの間には相当な開きがあると言わざるを得ない。



<診断の揺れ>

診断についても、S男さんが突っ込むとT医師の見解はさまざまに揺れ始めた。

「強迫性障害の人で暴れる人はいないらしい」S男さんが言うと、T医師は「確かにいません」と今頃になって平気で言うのである。そして「パニック、PTSDだったのかも」と言い放った。

さらに、こんなことも言い出した。

じつは、K男さんはこの病院にかかる前、短い期間、別の病院を受診して、統合失調症の診断を受け、抗精神病薬を処方されていた。その後T医師の病院に転院したわけだが、T医師も最初の処方はメジャーを含む前処方を引き継いでいたのだ。が、すぐに「強迫性障害」と診断が変わり、処方も前記のようなものになった。

S男さんは「なぜ最初にメジャーを処方したのか」T医師に訊ねた。するとT医師は

「いや、私は今までずっと統合失調症を疑っていた」と答えたという。統合失調症の薬が処方されているから弟は統合失調症なのではないかと訊ねるたびに、怒鳴って否定をしていた医師が、見解をコロッと変えて、こんなことを言い出したのだ。

さらにT医師は「私は統合失調症が専門なので」と言った。

つまり、統合失調症が専門なので、最初から統合失調症を疑っていたというわけだ。しかし、17年間、診断はずっと強迫性障害で、強迫性障害としての治療を続けてきたのである。暴れたのも強迫性障害のせいだと言い切ってきたのである。

 あるときS男さんが「弟は強迫性障害ではなく発達障害の二次障害ではありませんか」と訊ねると、

「そうです、強迫性障害ではありません」と答えたこともある。しかし、なぜか、発達障害の二次障害というとひどく怒る。

しかし、ある日のこと、T医師は「発達障害の二次障害です」と言い切った。

もうこうなると、滅茶苦茶としか言いようがない。



<T医師の勤める病院>

 この病院には他に10人ほどの医師がいるが、他の医師も似たり寄ったりだったとS男さんはいう。

 T医師がいないとき、他の医師に診てもらったところ「Cp2000、大丈夫ですよー」と軽く言われた。T医師にそれを伝えると「大丈夫、これで一生いきますよ」と同じ意見。そして、このことを後で問うと、例のごとく「あれは私の言ったことじゃない」という展開である。

どうやらこの病院は多剤大量処方が常態化しているようで、S男さんが薬局の薬剤師に訊ねると、薬剤師いわく「もっとひどい人もいますよ」「この病院には会話の通じない方がたくさんいますので、薬の話はしないのですよ」と言ったという。

入院患者も20年30年という人が多く、ほとんどが錐体外路症状を呈し、前傾姿勢で小股歩行の状態である。

入院前、病院の前でK男さんが暴れ始めてしまったとき、医師はそれを横目で見ながら車で通り過ぎてしまったこともある。

 S男さんがいう。

「こんなことは何度もありました。患者をさげすむような対応で、あまりに心がない……

                           (つづく)