(1からのつづき)



隔離をするに当たってのお知らせ


ア、他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合

イ、自殺企図又は自傷行為が切迫している場合

ウ、他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合

エ、急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合

オ、身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場         合

カ、その他





そして、()に○が付けられていた。

自分が何をしたのだろう? 器物破損? 他の患者への暴力?

看護師にしつこく説明を求めた、それを迷惑行為とされたのだ。


 その日の午後2時過ぎに夫と母親が面会にやって来た。病棟での出来事、隔離室のこと――しかし、ひろみさんとしてみれば、家族に心配をすでにかけている、その上さらに心配させるようなことは言えなかった。大まかに話したものの、あとは「大丈夫、大丈夫」と元気を装う。

 そして、5時、3人の看護師が迎えにきて、ふたたび隔離室へ。


 結局、隔離室には10日間いた。

 隔離室での生活(生活などというものではないが)日中は、ごはんを運んでくる人、掃除の人がやってくる。そして風呂は週に2、3回。

「でも、私は隔離室のトイレでは絶対にしないと、監視カメラがあるところでできるわけがないです、看護師に宣言していましたから、ときどき見回りの看護師に頼んで隔離室の外にあるトイレに行くことができました。そのときに他の患者の様子を見たりして……」


 何度も心が壊れそうになった。もう生きて帰れないと何度も思った。

結果的には10日だったが、それは結果にすぎず、いつ出られるかわからない中での戦いだった。

 それでも、ひろみさんの心を救ったのは、家族が毎日面会に来てくれたこと。

「それがなかったら本当に潰れてしまっていたかもしれません」



服薬拒否


入院中、ひろみさんは薬を頑強に拒否したという。まだ生後間もない子供がいる。母乳で育てていたひろみさんとしてみれば、薬を飲むわけにはいかなかった。まして、どのような薬なのか説明も一切ない。

しかし看護師は「主治医の指示だから」とどうしても飲ませようとする。

「主治医って誰のこと?」

 実際主治医といわれる医師にまだ会ったこともなく、実際会えたのは、入院して何日もたってからだった。

 その主治医がようやくやってきたとき、医師は「檻」の外から「こんにちは」と言い、2、3言話して帰っていった。それだけで、病気の説明も薬の説明も何もなかった。

 そして、看護師は「薬を飲まないのなら、注射をする」と告げた。

 抵抗しても身体を抑えられるだけなので、仕方なく(男性の看護師は怖くてどうしても嫌だったので)女性の看護師ならいいと注射を受けた。

あるいは、廊下で注射をされたこともあった。何の注射かの説明もなく、いきなりだ。体中から力が抜けていき、その場に座り込んだが、そのときも廊下に放置された。まるで、突然、強姦に襲われたような恐怖と理不尽な気持ちでいっぱいになった。

 その後も薬について説明がないので、看護師といつももめた。

 一方、家族はひろみさんが隔離室にいることを知って、こう思ったようだった。「こんなところに入れられるほど病気が悪いのか」と。そして、病気を治すため「薬を飲んでくれ」と説得された。

 入院して数日経つと、理由があって飲めないことを理解してくれる看護師も出てきたので、その人を騙して薬を捨てたりするのは性格上嫌だったし、嘘をついて信頼をなくしてもいいことは何もないと思ったので、納得してからなら飲んでもいいと思った。

しかし、入院して一週間してもまだ薬の名前すらわからない状況だったのだ。ただ、薬を飲まない患者は退院できないということも何となく感じ取り、葛藤は続いた。



薬の名前がわかったのは入院して一週間後の診療時。こちらから質問し、医師が口頭で答え、メモを取った。処方されていた薬は以下のとおり。

 ハロぺリドール(抗精神病薬)

 アキネトン(副作用止め)

 ピレチア(抗精神病薬)

 セレガスロン(胃薬)

 サイレース(睡眠導入剤)

ここまでが精神科の薬らしかった。その他の薬は産婦人科の薬だと告げられた。あとから分かったが、上記に加えて

 セフゾン(抗生物質)

 ターゼン(消炎酵素剤)

 パーロデル(抗プロラクチン製剤)が処方されていた。



 入院して、薬の説明書をもらったのが1ヶ月後である。しかも、医師からもらったというより、何度も看護師に頼み、それでももらえないので診療時に主治医に主張し、やっと手に入れることができたのだ。同じ病棟に50人くらい患者がいるが、薬剤の情報をもらっている人は1人くらいしかいなかった。

「それで私は家族にファイルを差し入れしてもらって、その説明書を診察のたびにもっていき、医師に質問をしたりして、極力薬を少なくしようと努力しました」



==================

 それにしても、出産間もない母親に、母乳で育てていることを告げているにもかかわらず、服薬を強制するのは、どう考えてもおかしい。

 服薬された薬は母乳を通して乳児の体内に入り、新生児離脱症候群を発症することは間違いない。

 薬を飲ませるのなら、授乳中止の指導があってしかるべきであるが、それどころかどのような薬を飲むのか、その説明書が手渡されたのが入院後1ヶ月もたってからなのである。

                          (3へつづく)