精神科の受診歴を理由に救急搬送の受け入れや診察を断られるケースが、最近たて続けに報じられた。

ひとつは、昨年末に明らかになったもの。

東京都東久留米市で2009年2月、体調不良を訴えた統合失調症の男性(当時44歳)が救急搬送されずに腸閉塞(へいそく)で死亡した例。

救急隊は2時間半にわたり受け入れ先を探したが、13病院に受け入れられず搬送を断念。「精神科などの専門医がいない」「病床がない」などが病院側の理由だった。

男性はそのまま自宅にもどされた。そして、しばらくした後、再び母親から同じ消防本部に「病院を探してほしい」と連絡があり、消防も探したが見つからなかった。

また、父親が男性の通院先の精神科病院へ行き、治療を頼んだが、「休日で対応できない」と断られた。両親はほかに2カ所の病院に電話で受け入れを依頼したが、これも断られ、結局、男性は腸閉塞で死亡した。



さらに、今年になってから(1月20日)以下のようなケースも明らかになった。

茨城県土浦市で2009年3月、長年精神科病院に通院していた女性(当時49歳)が腸閉塞などで死亡した。連日嘔吐して内科診療所に行ったが、母親が医師に既往症を説明すると「精神科にかかっていた患者さんは分からないことがあるので診察できない」診察を断られた。その後、入院していた精神科病院に連絡をとり、精神科医は吐き気止めの処置をしたが、病名の説明はなかった。死因は腸閉塞と多臓器不全。

女性が最初に訪れた診療所の医師は「記録がないので詳しい経緯は分からないが、症状をうまく伝えられない精神障害者の場合は診察しない」と説明している。入院していた精神科病院の院長は「精神科医が身体疾患を診るのは非常に難しい」と話す。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110120k0000m040133000c.html





薬物治療における副作用の問題

この2例はどちらも、向精神薬の抗コリン作用によって起こるイレウスによる死亡である。

つまり、病気治療のための薬の副作用によって命を奪われたということだ。

もちろん、救急搬送の受け入れ拒否は大きな問題である。が、それを責める以前に、統合失調症の「治療」という名目で、多剤を用い、イレウスをつくり続けている精神科医療そのものに大きな問題がある、ということはまず言っておきたい。

この問題については以前のエントリでも取り上げたので参考にしてください。

http://ameblo.jp/momo-kako/entry-10611351813.html (以下、参照)


1997年に行われた調査では、都立松沢病院の22例(すべてが統合失調症患者で抗精神病薬と抗パ薬を併用)のうち、86,4%に大腸通過時間延長が見られ、73%に巨大結腸症が見られた。そして、22例中8例が結腸の切除手術を受けている。

統合失調症患者が腸の切除手術をなぜ受けなければならないのか?

副作用の強い薬を多剤併用処方されているからである。

少し古い数字だが、1995年に全国21精神科施設の患者2169名の処方実態調査によると、抗精神病薬(抗パ薬を含む)の平均処方数は4.7±2.2剤。

統合失調症患者では5.2±2.1剤。77%が2剤以上の抗精神病薬を処方され、3剤併用が25%、4剤併用が9%を占めているというこの数字!

副作用によるレウスになるのは当然かもしれない。



受け入れ拒否の問題

この2例のように、精神科通院歴が知られると一般の病院での受診が難しくなるという話はときどき耳にする。たとえば、ある人のブログを読むと、インフルエンザの予防接種を受けようと電話予約を入れ、「精神科通院」を正直に告げたところ、3カ所から、断られたそうである。「そのような患者を治療する設備がありませんので」という理由で。

上ふたつの例も断る理由は、似たりよったりである。

要するに、精神科に通院している人は一般科では「避けたい」患者なのだ。なぜなら、何をするかわからないから(暴れる? 騒ぐ? 他の患者の迷惑になる? 話が通じない?)。したがって、対応しきれないから、よそへどうぞ……。

もともとの病気とは別の疾患、副作用によって生じた疾患によって、精神科受診歴があるというだけで、適切な処置を受けることもなく、ひっそりと、苦しみながら死んでいった44歳男性と49歳女性。

精神科病院内での人権問題が、他科の病院でもそのままそっくり繰り広げられている構図である。


以前ブログで紹介した体験談の中にも、向精神薬の副作用で、尿が出ない、生理が止まるという症状が出て、他科の診察を受けた女性がいた。そのときの冷たい対応。

「精神薬なんか飲んでいるからこんなことになるのだ」との看護師の言葉から想像できるのは、精神薬を服用する者への偏見である。


そして、よくよく考えてみると、その偏見には二つの意味があるのかもしれない。

ひとつは、いわゆる精神を患う者への偏見。

そして、もうひとつは、向精神薬というものへの偏見、というより、その作用の恐ろしさという意味での偏見である。

もしかしたら、精神薬を服用している患者には、通常の治療が通用しないかもしれないと、他科の医療従事者は思っているのではないだろうか?

だから、診たがらない、拒否したくなる、のではないだろうか?

つまり、薬漬けにされているであろう体を、一般の救急患者と同じように診ることは、医学的に無理なのではないかということだ。


そういう麻薬指定の多い薬を大量処方しているのが精神科なのである。

その精神科が副作用を診ることもできない。前述の精神科病院院長の言葉、「精神科医が身体疾患を診るのは非常に難しい」のである。

精神科で診た患者がそこで出された薬の副作用で生死の境をさまよっているにもかかわらず、精神科では何もできない。

つまり、患者はまったく新たな身体的病気をかかえた者として、あらたに他科の診察を受けなければならないというわけだ。それはどう考えても不合理である。それならせめて、精神科病床のある総合病院で診てもらう必要がある。横の連携のとれる病院で。

それでもなお、受け入れ拒否はあるかもしれない。

そんな絶望的な思いを抱かせる今回のふたつのニュースである。



ところで、現在、抗うつ剤、その他向精神薬を服用している人は、精神科受診歴を隠して他科の診察を受けているのだろうか?

もし、身体的疾患にかかったとき、どうするか、何か対策を立てているのだろうか?