精神科治療によって被害を受けられた方に、先日、お話を聞くことができた。

彼女は現在28歳。仮にSさんとしておく。

Sさんは、一昨年の1月頃から不眠を覚えるようになった。寝つけず、しかも早朝に覚醒してしまい、日に2時間くらいの睡眠しかとれなくなった。また、頭痛、肩こりもひどい。大学院を修了後、SEとして勤めはじめて2年目のことだった。

仕事は楽しかった。しかし、ちょっとオーバーワークぎみではあった。

5月になり、Sさんは一人で問題を解決しようとした。そこで、会社帰りにでも寄ることのできる最寄の駅前クリニックを受診することにした。そこは内科と併設してメンタルクリニックが入っていた。それがそのクリニックを選んだ理由だった。内科的な問題かもしれない、そういう思いもあったからだ。

院長が出てきて、初診は30分ほど話を聞いてもらった。そして、何の診断もなく、ただ薬を処方された。

ジェイゾロフト 25㎎(抗うつ薬)×2 @1日

マイスリー(睡眠導入剤)5㎎×2

ベタナミン(覚醒作用)10㎎×3

(以上2週間分)
 イミグラン錠(偏頭痛の薬)50㎎ 頓服5回

ロキソニン(鎮痛剤)60㎎ 頓服10回

ミオナール(筋弛緩剤)50㎎ 頓服10回  


こうした薬を彼女は「飲めばすぐに元気になって、バリバリ働けるようになる」と医師に言われ、処方された。

しかし、彼女にうつ症状はなかった。にもかかわらず、抗うつ薬のジェイゾロフトが処方されている。ベタナミンは、仕事中覚醒させるためのもの、という説明を医師から受けた。
 これらを2ヶ月間、彼女は真面目に飲み続けた。しかし激しい吐き気があり、しかも不眠は一向に改善しない。


小さい頃、喘息があったが、Sさんの両親はできるだけ薬に頼らないという方針だったため、彼女は喘息でかなり苦しい思いをしている。年を経て、薬を飲んだところ、喘息の症状が嘘のようになくなった。その経験から、彼女には、薬を飲めば病気は治る、との強い思い込みがあったという。


二ヶ月のあいだ、相変わらず不眠を訴えるSさんに、医師はジェイゾロフトの量を25㎎から50㎎に増量した。

その直後、Sさんはものすごい高熱を出し、家で倒れた。近くの内科に行ったが、原因はわからなかった。

相変わらず吐き気がおさまらず、症状にも変化がないので、彼女はそのことを医師に伝えた。すると、医師は「そんなことでどうする。しっかり仕事をしなさい」と逆に彼女を励ました。


7月、薬が変わる。

SSRIのジェイゾロフトからSNRIのトレドミンへ。それから、睡眠薬のレンドルミン、抗不安薬のレキソタン錠が加わった。全部で9種類。

マイスリーとレンドルミンという処方は、半減期の違いからだろうが、同種の薬の併用である。

そして、うつ症状がないにもかかわらず、抗うつ薬が相変わらず処方されている。


薬が変わって2日ほど経った日のことだ。

会議中に彼女はものすごい焦燥感に襲われた。そして、自分をめちゃめちゃにしたいという抑えがたい自殺衝動を覚えた。幸い、会議室で周囲に凶器になるようなものがなかったからよかったが、何か手にすることができたら、自分を刺していたかもしれない。

Sさんはあまりの自分の変化に恐ろしくなり、会社が終わってすぐクリニックに電話を入れた。

主治医の答えは、「そんなことはあり得ない」。

しかも、忙しいときにそんなことでわざわざ電話をしてくるなというような非常に冷たい対応だった。

1ヶ月後の8月。

「感覚」というものを彼女はまったく感じなくなってしまった。楽しい、嬉しい、悲しい、悔しい、そういった「感情」が自分の中から消えてしまったことに彼女は気がつき、愕然とした。自分が眠いのか眠くないのか、それさえもわからない。空腹感も満腹感も、のどの渇きもわからない。


医師は、それをSさんの病気が悪化したと判断し、薬を増やした。SSRIのデプロメール。つまり、抗うつ薬2種類の処方である。

 

薬を飲み続け、相変わらず、感覚はないままだった。感情が平たんになり、理性だけで生きている感じである。時間の感覚、季節感もない。顔から表情も消えてしまった。


Sさんは主治医に不満をぶつけた。そもそも最初の症状、不眠は仕事で無理がたたった結果だと思うが、医師が患者に「頑張って働け」のような発破をかけること自体おかしいのではないか。

そう言うと、医師は「君には発達障害があるから、仕事もできないんだ」と反論した。

そして、9月になると、ジプレキサが処方された。これは統合失調症の薬である。


11月。Sさんは医師への不信感から、処方薬について自らネットでいろいろ調べるようになる。

そして、知れば知るほど、クリニックへの不信感は深まり、薬の処方についても不満を医師にぶつけた。すると医師は今度は「君は人格障害だ」と新たな病名をつけた。

そして、気がつくと、クリニックの看護師たちが彼女をぐるりと取り囲み、みな口々に「先生は正しいことを言っている」「あんたはいったい何なんだ」「この気違い」と言いながら詰め寄ってきた。

Sさんはクリニックを飛び出して、以来、二度とそこへは行っていない。


会社はその頃から3カ月間の休暇をもらった。同僚にうつ病の経験者がいて、相談をしたところ、休んだほうがいいとのアドバイスを受けたのだ。実際、もう仕事をするのは限界だった。


なぜ、感覚がなくなってしまったのだろう。

それを突き止めるため、Sさんは国立精神神経センターの外来に向かった。いろいろ症状を説明し、では精密検査を受けてみてはということになり、2009年の4月から6月の2ヶ月間入院をする。書類上の病名は、重度のうつ病となった。

ここで彼女は、今の日本でできるすべての検査を受けた。心理検査も受けた。光トポロジー検査も受けた。治療もすすんで受けた。全身麻酔をして電気けいれん療法まで行った。

しかし、失くしてしまった「感覚」は戻ってこなかった。

そして、今もそのままの状態が続いている。

(被害報告1-2 へつづく)