ルマンでの居残りテストでカワサキがスクリーマータイプのエンジンをテストしたらしい。
http://www.motogp.com/ja/node/484819
テストしていること自体は既に公にしているようだ。
カワサキはもともとMotoGPマシン用のエンジンに直列4気筒を採用してきた。
でも、直4エンジンのスクリーマーってどうなんだろう???
以下は、ボク自身が今までに読んだ雑誌やエンジン工学の本からの受け売りだったり、思いこみだったり・・・・
すなわち、内容の信憑性に関しては一切の保証を与えるものではないことを断った上で、ビッグバンとスクリーマーの検証を行いたいと思う。
【ビッグバン】
カワサキがビッグバンと呼ぶ現行タイプも、おそらくヤマハがいま採用しているエンジンも、きっとクランクピンの位相は同じだと思う。
すなわち#1ピンから順繰りに90°ずつ位相がずれているタイプ。
点火順序はたとえばこんな感じだろう。
#1----#4----#2----#3----#1
90 180 270 180
4サイクルの4気筒だから、クランクシャフトが2回転(360°x2=720°)する間にすべての気筒が一回ずつ爆発する計算だ。
【スクリーマー】
通常の市販車に多いタイプが、クランクピン位相が、#1、4が同位相。#2、3も同位相。そして#1、4と#2、3が180°の位相をもつタイプだ。
点火順序はたとえばこんな感じ。
#1----#3----#4----#2----#1
180 180 180 180
180°の等間隔で爆発する。
V4エンジンなどとの違いを想像してもらえると良いのだが、等間隔爆発のエンジンというのは、だいたいにおいて胸の空くような気持ちのいい吹けあがり方をする。気筒数が多ければ多いほどその傾向は強まる。
対して、不等間隔爆発のエンジンはどちらかというトルクフルな特性となることが多い。ギャロップのようなフィーリングと言ったらいいだろうか?
反面、スムーズなノビを得にくいことが多く、この点がV型エンジンを好きな人と嫌いな人に別れる所以だったりする。
等間隔爆発の場合、排気管の集合のさせ方で排気脈動を各気筒に同じように活用できる点や、感覚的に同じインターバルで爆発するというのが、モーターのような伸びやかな特性を与えるようだ。
ちなみにボク個人としてはどちらも好きだ。それぞれに良いところがあり、そのオートバイの目指す目的に合っていれば良いと思う。
どちらが良くてどちらが駄目だという単純な話では無いはずだ。
ボクの友人でヤマハのSRをこよなく愛する人が何人か居る。
単純に機械としての性能で割り切れば、今どき単気筒でバランサーも持たないエンジンなど、論外だろう。
しかし、バイクは感性の乗り物だ。何でも無機的に割り切れるものではない。
しかし、レースとなると話はまったく別だ。
すべてに於いて性能が最優先される。
では何故、現行のカワサキやヤマハが上記のようなノビのある特性を得やすい等間隔爆発のいわゆるスクリーマーを採用していないのか・・・・
その理由は振動である。(ハズだ。)
先ほど、ボクはレースに於いては性能が最優先されると書いた。
しかし、ここで言う性能とはエンジン単体の性能ではない。速く走るための総合的な性能なのだ。
したがって、ある時は重量であったり、ある時はトップスピードだったり・・・・
今回の答は振動にあるとボクは思っている。
スクリーマータイプのエンジン。すなわち180°位相の直4エンジンはエンジン単体で1次慣性振動は理論上「0」である。また1次のカップル振動も無い。
しかし、2次慣性振動が残るのである。
しかも2次振動というのは回転数の2乗に比例して増大する。
最大では1万9千回転とも2万回転とも言われるMotoGPマシンに於いて、この振動は深刻な問題のハズだ。
市販車レベルの回転数や排気量ならば、無視することもできる。ステップやハンドルにバランスウエイトをつけることで共振点をずらすことで妥協もできるだろう。
しかし、高回転を常用するレーシングマシンにとってはごまかせる範囲を超えてしまっているのだ。
かといって2次バランサーを積むことはあり得ない。
2次バランサーはクランクシャフトの2倍速で回さなければならない。したがって、2万回転の2次振動をキャンセルしようと思ったらバランサーを4万回転で回す必要があるのだ。
そんなものを装備するだけのスペースもなければその回転数に耐えるだけの強度をクランクケースに持たせた時点で、エンジンはとてつもなく重たいものになるだろう。
もしも振動源を抱えたまま力ずくでマシンを作ると、エンジンマウントやフレーム本体、排気系などあらゆる部分が振動に耐えられるだけの強度持たなければならず、エンジン本体のみならず、車体のあらゆる部分が重くなっていくのだ。
そこでビッグバンエンジンだ。
難しいことは抜きにして(ボクがうまく説明できないだけなのだが・・・)、結論から言うと、上記のビッグバンエンジンならば、理論上は1次慣性振動も2次慣性振動もゼロになるのだ。
カップル振動は残るが、慣性振動に較べれば、その大きさは微々たるものだ。
したがって、ビッグバンタイプを採用することによって、コンパクトなマシンに仕上げることに成功しているのだ。
ちなみにヤマハのTDMというバイクがある。
これは並列2気筒だが、同じ理由から90°位相のクランクをもつ。
これを二つ並べたのが今のMotoGPマシンのエンジンと言えば何となく想像できるだろうか?
では何故、そうしたメリットを捨ててまでカワサキはスクリーマータイプのテストを続けているのか?
おそらく、上述のようにエンジンの出力特性(単に台上の性能だけではなく、感性面に於いても)がよりよいものを得やすいからではないだろうか?
しかも振動の大きさは大雑把に言えば排気量の大きさに比例する。
正確には、往復運動をするピストンなどの重量や、クランク半径(すなわちエンジンストローク)に比例する。
つまり、昨年からレギュレーションが変わり、990ccから800ccに排気量ダウンをしたことに伴い、潜在的な振動の大きさが若干小さくなったため、スクリーマータイプでも何とか振動が許容範囲に収まるのではないか??? エンジン性能、特性面の良さが生きるのではないか??? ということで開発を続けているように思える。
ちなみにV4を採用するドカやホンダはどうなるのか・・・・というと・・・
たとえば90°V4ならば理論上の1次慣性振動はゼロだ。
また、2次慣性振動は直列4気筒のスクリーマータイプの約0.7倍である。
エンジンが若干前後に長くなる傾向はあるものの幅がつまるというメリットもあるため、これまた「速く走るバイクを作る」という目的のために、2次慣性は我慢?してマシンの幅を狭くすることを選択したのだと言えよう。
同じく「レースに勝つ」ために開発されたマシンだが、そのアプローチの手法は異なる点が面白い。
以上は、ボクの勝手な推論だが、おそらくそれほど大きく間違っては居ないと思う。
こんな風にメカおたく的な視点でMotoGPを眺めるのもなかなか楽しいものである。
以上。
今日の講義を終了する。
起立っ!! 礼っ!!
皆さん、さよ~なら。(さよ~なら)
【今日の補講】
ちなみにビッグバンエンジンと呼ばれ始めたのは、92年のホンダNSR500に採用されたエンジンが最初である。
その野太い排気音から、いつしかビッグバンエンジンと呼ばれるようになったのだ。
ちなみに当時のホンダのエンジンについてはつじつかさ氏の書いた本に詳しい。
「NSR500ハイパー2ストエンジンの探求」
残念ながら、今ではもう新品は手に入らない筈だが、興味のある方は、古本などを探してみてはいかがだろう。