列車は直江津駅に、20分の遅れで到着した。
その影響で、北陸本線への乗り換え時間は殆ど残されていなかった。
急いで渡る跨線橋の途中で、私はあるものに目を留めた。
出張販売の駅弁。
私は駅弁には全くと言って良いほど興味が無い。
味の割には、妙に高額に感じる事がしばしばで、購入をためらうことが多い。
私は何も駅弁を食べる為に旅をしている訳ではなく、乗り鉄活動に駅弁は必要無いと考えている。
車内で駅弁を食べるよりかは、限られた乗り換え時間の間に、ホームで駅そばを胃袋に掻き込んだほうが鉄活として相応しい行為だ。
そして今の時代、車内で簡単な食事を取りたいのであれば、NEWDAYS等でおにぎりかサンドイッチを買ってしまえば、それで事が足りてしまうのだ。
そんな私が、今までの旅で購入した駅弁と言えば、横川駅の「峠の釜めし」くらいだ。
しかしこの時の、おばちゃんが簡易テーブルの上に乗せた駅弁を売っている光景は、なぜか私の目に印象深く映り込んできた。
列車遅延の緊張感から解き放たれた影響からなのか、この時は不思議に駅弁に魅かれてしまった。
僅かな乗り換え時間の間に、私は直江津名物と書かれた「さけめし」を購入、それをおもむろにリュックに入れた。

青い帯をまとった115系の福井行き列車は、直江津を出発してから程なくして、トンネルに突入した。
トンネルを抜けたと思ったらまたトンネル、という感じで、期待したほど日本海の景色は望めなかった。
名立駅を発つと、列車は長いトンネルに入る。
そのトンネルの中で、次の駅を告げる車内放送が入り、列車がスピードダウン。
僅かに明るみのある箇所に、列車は停止した。
ドアが開き、私は下車した。
「筒石(つついし)」

まず気になったのは駅名標。
いつもの見慣れた緑の帯のものとは違い、青い帯をまとっている。
この駅は、JR西日本所属という証だ。
次に気になったのは、ホームの湿度と照度。
普通の地下鉄のホームよりも遥かに湿っぽくて暗い。
相対式ホーム2面2線を構えるこの駅は、ホームがトンネルの中に作られているのだ。

トンネル駅と言えば土合 だが、土合は下りホームのみが、深いトンネルの中に作られている。
一方この筒石は、複線の上り下りの両ホームがトンネルの中にある。
その2面のホームは向かい合わせではなく、互い違いに造られている。
薄暗いホームから出てみると、そこは待合室になっていた。

しばらく進んでみると、上りの階段が表れた。

階段を上ると、上り下りの各ホームへの分かれ道があった。
通路の側面や天井には、苔のようなものがへばり付いている。

さらに進むと、遥か彼方に続く上り階段がそびえ立っていた。
土合の階段がリンクする。

私は一歩一歩、段数を数えながら上り進む。
階段を上りきると、段数は2百数十段あったようだ。
土合の486段に比べれば大したこと無さそうだが、それでも200段の階段を上るのは容易なことではない。
階段を上りきったところで、地上に出てみるとそこには…

駅員がいた。
てっきり無人駅と思い込んでいたので、私は慌ててリュックから18きっぷを取りだした。
そういえばホームにも、駅員らしき人物がいたのを思い出した。
彼はまさか、列車が到着する時間に合わせて毎回、あの階段を駆使して、地上とホームを行き来しているのであろうか?

地上の待合室には窓口もあった。
どうやら駅員は委託らしい。
私と同じくこの駅で下車した、鉄と思われる人が窓口氏に、18きっぷについて尋ねていた。
赤い18きっぷの残数について、聞いていたのであろう。
駅の外に出て、振り返って駅舎を見てみると、何とも殺風景なプレハブ小屋のような佇まいだ。
到底駅には見えない。
駅名標が一応掲げられているが、「これが駅だ」といった説得力は無いに等しい。

期待していた雪景色はそこには無かった。
新潟県全域が、雪に覆われるという観念は誤りであった事がこれでわかった。
折り返しの列車まで時間がある。
私は地上の待合室で、「さけめし」を食する。

食事の後、少し散歩に出かけてみることにした。

駅から少し歩くと、上空に道路が掛けられているのが見えた。
北陸道だ。

さらに歩くと日本海が見えてきた。
ここでも冬の海は荒れ狂っていた。

灰色の空と荒れる日本海。
雪景色とは異なるが、これはこれで、いかにも冬らしい光景であろう。

駅に戻り、直江津方面のホームまで階段を下る。
外から入ってきて気付いたが、ホームは外気より遥かに暖かく感じる。
トンネルの中は寒い、という印象が強いが、良く考えるとトンネルの中というものは、年間通じてあまり気温の差が無いのだ。
だから夏は寒く、冬は暖かく感じられる。
しばらくホームで待っていると、直江津行きの列車が、トンネルの向こうから這いずりこむようにやってきた。
私は列車に乗り込み、次の目的地に向かう。
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