営繕かるかや怪異譚/小野 不由美 | mokkoの現実逃避ブログ

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現実から目を背けて堂々と楽しむ自己満足ブログ

ページ数:268P
発売日:2014年12月

 

雨の日に鈴の音が鳴れば、それは怪異の始まり。
袋小路に佇む喪服姿の女を、決して家の中に入れてはいけない。(「雨の鈴」)
住居にまつわる怪異を、営繕屋・尾端が修繕し、解決する。
心ふるわす恐怖と感動物語。 
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久しぶりの小野主上作品。
立て続けにホラー系を出版しているので、ちょっと心配。
なんせ体調が・・・ね・・・。
出版されて即購入したのはいいものの、ハードカバーなもんで
やはり電車読書にはつらいので、積んでましたが
単行本が続いたので、開き直って単行本消化月間にします(^◇^;)
全6篇の短編集です。

 

営繕とは、建造物の新築と修繕、また模様替(リフォーム)なども含む。
「かるかや」とは、山野に自生するススキに似た多年草。
屋根を葺 (ふ) くために刈り取る草 

 

「奥庭より」
亡くなった叔母から受け継いだ町屋。
ふだんまったく使わない奥座敷に通じる障子が、
何度閉めても――開いている。
障子の前には、障子を塞ぐように箪笥まで置いてある訳は・・・

 

「屋根裏に」
古色蒼然とした武家屋敷に住む母親は言った。
「屋根裏に誰かいるのよ」。
最初は息子も嫁も孫娘も見えなかったのだが・・・

 

「雨の鈴」
袋小路の奥に建つ古屋を祖母から受け継いだ。
雨の日に、傘も差さずに喪服の女がトボトボと歩いていた。
時折、帯締めに下げた鈴がチリンと鳴る。
女の向かう先は・・・

 

「異形の人」
亡くなった祖父の会計事務所を継ぐため、家族で郷里に帰った父。
思春期真っ只中の真菜香は、何もかもが嫌だった。
あるときから、見知らぬ老人が家の中のあちこちにいるのだが
家族の誰も見ていない・・・

 

「潮満ちの井戸」
かつて祖母が住んでいた古屋を譲り受け住んでいたが
庭いじりに目覚めた夫は、使えないはずの古井戸を
改修し、庭の水やりに使うようにした。
しかし、庭木は枯れ始め・・・

 

「檻の外」
離婚して、娘と一緒に戻って来たものの、出戻りは
歓迎されず、古い借家に住まうことになったのだが
修理歴のない車を格安で手に入れたものの
常にトラブルが絶えず・・・

 

 

あぁ~・・・なんて優しいホラーなのでしょう。
やはり小野主上のホラーはいい。
怖がらせて放置はしない。
また何か起こりそうな嫌な余韻を残さない。
恐怖する被害者?の怪異体験を淡々と綴り
事の起こりを掘り下げ、解決に導く。

 

本作の解決とは、ゴーストハントのように
調査や浄霊・除霊といった事はしません。
建物に纏わる怪異を営繕するのですから
リフォームする事によって怪異を治める。

 

本作に登場する家や町はとても古い。
元々いわくつきの建物もあったりする。
古いものや町には、それなりの歴史がある。
積み重ねられていくうちに、ルールや教えが
言い伝えられ、迷信として語り継がれる。
個々の家でも、住んでいた人の歴史がある。
それらが歪められたことで発生した怪異を
修繕という方法で避ける。

 

かるかやの尾端さんは。霊能者ではない。
昔ながらの大工さんなんかは、縁起を担ぐというか
方位とか風習に詳しかったりする。
尾端さんも若いけれど、そういう部類の人で
建物に優しい人なのでしょう。

 

派手なキャラではありません。
物語の最後の方に登場して、サクっと修繕方法をアドバイスして
怪異との折り合いをつけてしまう。
被害者?が納得できるのなら、それにこしたことはない。

 

全て壊して作り直すのではなく
あくまでも修繕することで受け入れる。
優しい余韻が心地よいホラーでした。

 

それにしても主上の雨の描写はやはり美しい。