- 天球儀文庫 (河出文庫)/長野 まゆみ
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ケンタウリ・プロキシマ。
“星の名前”を教えてくれた宵里という名の少年は、
いつもアビを魅了してやまない。
ソォダ水のはじける音、天使の枕、流星群の観測…
秋の新学期から、翌年の夏期休暇まで、
二人が過ごした一年足らずの日々を描く。
幻の初期作品四冊が、今一冊になって甦る。
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月の輪船、夜のプロキオン、銀星ロケット、ドロップ水塔
以上、4作を収録。
月の輪船を知らずに単行本で買ったのはいいけれど
他3作が品切れで手に入らなかったので
一緒にしてくれてよかったぁ~
でも装丁は単行本の方が絶対にいいのよね・・・
『月の輪船』
ソォダ水の弾ける音が昔聞いた事のある音だと
気付いた宵里は、アビにその答えを教える為
土曜日に校舎の中庭で開かれる野外映画の日に
仮の映写室となる音楽室に向かう。
ある日、突然聞こえてきた「鳩のように飛べたなら」
ある日、突然現れ、天球儀の星の名を尋ねる少年。
夏の気だるい暑さを残した不思議なお話。
『夜のプロキオン』
時計塔の先端に留まっている雪雲の切れ端は「天使の枕」
冬季休暇を宵里の伯父の家で一緒に過ごす為
プラットフォームを急ぐ二人。
それを阻むのは、アビのコートを掴んで放さないチビ・・・
パパの帰りを待つチビの案内で見に行った
<おもしろいもの>とは・・・
『銀星ロケット』
春なかば。
「銀星(ルナ)ロケット」の打ち上げ日
一緒に見に行く約束を宵里は忘れていた。
原因は訊ねてくる予定の宵里の伯父。
拗ねてくちびるを尖らせるアビ
いつも先を行く宵里の背中を追いかけるアビ。
「気まぐれな春(ルナティック・スプリング)」が起こした
思いがけないいざこざの解決方法は・・・
『ドロップ水塔』
夏季休暇初日。
アビは洋墨壜(インクビン)を倒した事に始まり
船上からペルセウス流星群の流星(ドロップ)を見る為の
乗船切符を失くした。
真っ盛りの夏、追い立てられるような憤りを感じた。
理由はない。ただ、何かか気になる。
何事においても先を行く宵里。
アビはいつになっても追いつけない。
そして・・・夏の終焉
これは初期作品だとわかっているから安心して読めた。
こういうのが読みたかったんですよ!
どこか外国を思わせる建築物や行事。
不思議な出来事と、当たり前の日常と
小さなエピソードの連続だけど全ては貴重なこと。
季節の表現や小物遣いや言葉の選び方が絶妙
言わなくていいこと。今言わなければいけないこと。
思わず口にしてしまったこと。
言いたくても言えないこと。
わかってるのに。わかってるけど・・・
そういうジレンマというか心のヒダの表現が巧みです。
少年の心の描写は、長野さんが一番だと思う。
最後はアビが宵里の背中を押します。
「すっかり忘れてしまって、またいつか
はじめて出遭えばいいぢゃないか」
いいなぁ~甘えてない男の友情。
女の子には無理だろうなぁ。
女の子の思いは脱ぎ捨てて振り返るモンだと思うから。
あぁ~楽しい時間を過ごしました(p^_^q)
ちょっぴり胸が痛くて切なくて・・・
子どもの頃に思いを馳せるのもたまにはいいよね♪
そして、長野ワールド全開の言葉たち
白い夏麻(リネン)の制服
紺青の夜天(プルシアンのそら)
洋墨(インク)の汚点(シミ)
ガラスの付けペンと筆記帳(ノオト)
発火石(ライター)
固体燃料(ソリッド)ロケット
呉藍(くれない)、澄明(とうめい)
腸詰肉(ソオセエジ)
ソォダ水が噴き上げる翠色のビーズ
蜂蜜フレエクをまぶした房型のドーナツ
スヰトピイのかおりでサクサクとした歯ごたえ
妄想が暴走いたしますよぉ~v(〃>∇<〃)v
長野作品の少年達は格別だなぁ~と思っていたら
少年は卵から生まれるに限ると仰る。
なるほどねぇ~
そして後書きから勇気について・・・
「勇気というやつは大して立派な感情からは
できておりません。憤怒が少々、虚栄心が少々、
強情がたっぷり、それにありふれたスポーツ的
楽しさが加わったというだけのしろものです」
by サンテグジュペリ