昨日紹介した楠木新氏の「定年後」という本に次のような件があります。

『(前略)中高年から全く新たなことに取り組んでも、長年の組織での仕事で培ったレベルに到達することは容易ではない。今まで取り組んできた仕事を直接、間接にカスタマイズして社会の要請に応えられるものにすることが力を持つ。

(中略)

会社員の経験が物を言うケースは少なくないのである。』

 

私は今技術系の通訳を中心に仕事をもらっています。有難いことに、何度も仕事をしているクライエントさんやエージェントさんでは、私は技術が分かる通訳者ということになっています。サラリーマン時代はエンジニアだったので、技術関係の話題であれば大抵のことには馴染みがあります。そのことが通訳をする際に非常に有利に働きます。話の内容が理解できるし、先読みができる、分かりやすく言い換えることもできます。先日通訳に行ったとき、パートナーの通訳者の方はわざわざ材料力学の本を買って持参されていました。事前に配布された資料が分からなくて、だから勉強のために買ったのです、とおっしゃっていました。私にとっては、ごく一般的な内容の資料で、読んで理解することに何の問題もありませんでした。

 

定年後の通訳者にとって、サラリーマン時代の経験、技術知識は大いに物を言ってくれています。通訳する時の大きな助けになっています。クライエントさんにとっても、きっと分かり易い通訳になっているのだろうと思います。技術関係の通訳現場で「以前はこの様な仕事をされていたのですか?」と聞かれることがしばしばあります。そんな時は、楠木氏の言われる『社会の要請に応える力』が十分発揮できている状態なのだろうと思います。私に技術的な知識と経験がなかったとしたら、もし、英語力だけで勝負しないといけなかったとしたら、恐らく今のように通訳者として仕事をすることは厳しかっただろうと思いますニコニコ