No.9  現代美術 斉藤文春さん | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の

「彫刻工房くさか」日下育子です。

 

本日は素敵な作家をご紹介いたします。

 

現代美術家の斉藤文春さんです。

 

斉藤さんは、墨と筆で紙に、点や線を置いていくことで空間を表現する作品の制作を

していらっしゃいます。

 

個展のほか、本の装丁、CDジャケットでも斉藤さんの作品や書を目にすることができます。

 

今回は、私が気に入っている斉藤さんの作品のテーマ、制作方法、

作品制作の思いについてインタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。

 

お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。




 

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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

風のかたち・光のかたち

サイズ/H45.0×W45.0cm

制作年/2003年



 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

遊態・点/風のかたち



 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

遊態・点/風のかたち



 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

遊態・点/風のかたち



 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

遊態・点/光のかたち



 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「風の花または雨・II」



 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「そして、空へ」


 

 

 

日下

斉藤さんの制作テーマについて、お聴きしてみたいことがたくさんあるのです。 

制作活動の連続的な意味で、テーマの変遷について、何か流れあるのでしょうか? 

特に私が大好きな作品で『風のかたち、光のかたち』のシリーズと、

最新作の「そして、空へ」への変遷などお聴きしてみたいです。

 

それから、表現している内容はどんなところから着想されるのでしょうか? 

実際にご自身が風景や、空を見ていて感じるものを表現しているとか?

あるいは、概念的、観念的なものを斉藤さんの表現方法に引き寄せているとか? 

私自身は、作品を拝見していると前者のように感じるのですが・・・。


 

斉藤さん

『書』から制作活動にかかわった経験から、書作行為の基となる「点」と「線」だけで

成立する表現をテーマとしています。

初期から約20年間は、主に「点」を中心に制作し、その展開の仕方によって

シリーズ化してきました。

『風のかたち、光のかたち』は、その集大成と考えています。 

白い紙の上に一つの点が表われ、時間とともに次第に増殖し、

同化して生まれるリズム感や浮遊感、余白とのゆったりした緊張関係などを

意識したものです。

 

最新作の『そして、空へ』は、3月の震災を体験した後、それまでの直線的、

鋭角的な「線」のモチーフが一変し、流れゆくもの、表われ・消えゆくもの、 

かすかなものを強く意識する横方向の線がモチーフになりました。

 

特に風景などからの「着想」ではなく、第一義的には、様々な用具・用筆による

「点(線)さがし」に集中します。その後、それらの作品展開を試行錯誤し、

最後にタイトルを考えます。

 

 

日下

作品からは何かしらの情緒を感じるのですが、斉藤さんご自身の制作の意識としては、

本当に「点」と「線」というようなシンプルな造形要素からの表現を

追求していらっしゃるのですね。


 

斉藤さん

仰るように作品から情緒を感じるなど、作品がどういう風に見えるかというのは、

鑑賞者の自由でいいと思います。

ただ作者の態度として情緒は排除するぐらいの気持ちで、その都度「点」と「線」の

新しい在り方を追求しています。

 

自分の制作後、鑑賞がそういった情緒性などを誘発するのは歓迎しています。

でも作者としては情緒性などに答えることは求めていないのです。


 

日下

斉藤さんの作品で私が大好きな作品は、『風のかたち、光のかたち』の一連の

シリーズなのです。この作品は筆の穂先を切り落とした筆の断面で一つ一つに

点をうつことで空間を表現していらっしゃいますね。

一つ一つの点が降り積もったように、墨の濃淡で空間の奥行きが表現されていると

感じます。

 

また『遊態・点/風のかたち』などは淡い点の群れが、お互いに対話しているように

感じられますし、こちらに語りかけて来るようにも感じられます。

 

このシリーズから、最新の『そして、空へ』への変遷について、

少し振り返ってみて頂いてもいいでしょうか?


 

斉藤さん

筆の穂先を切った筆で描いた『風のかたち、光のかたち』の一連のシリーズは

10年ほど続けました。

その後、筆の代わりに割り箸を持ってストロークで描く線のシリーズのかたちを

制作していました。

その線が密集していったり、そこに水打ちをしたりといった展開をしました。  

 

私は2年に1回のペースで個展で作品を発表しているのですが、

個展で3回分ほど線のシリーズが展開して、今回の『そして、空へ』にいたりました。


 

日下

『そして、空へ』は、今回の3月の震災を体験した影響があるとのことですが、

もう少し詳しくお聴かせ頂けますか?


 

斉藤さん

『そして、空へ』を発表した今年夏の個展は、昨年から準備をしていました。

ところが今回の震災を経験したことで、自分としてはそれまで準備していたものでは、

個展はできないと感じました。

もともと準備していたものは、線の斜めや縦のストロークのスピード感を

感じさせる作品群で、『そして、空へ』はそれらの表現の候補のひとつというくらいに

考えていました。

 

けれども震災の経験によって、これまでの強い、堅牢なものがもろさを持っている、

危ういものだと考えざるを得ないところが出てきたのです。 

それで、流れゆくもの、表われ・消えゆくもの、かすかなものを強く意識する

横方向の線がモチーフになりました。

そういうものに、大切なもの、見るべきものを見ていくという考えに変わってきたのです。

 

それで流れゆくもの、表われ・消えゆくもの、かすかなものを強く意識する

横方向の線をモチーフとした『そして、空へ』の作品が生まれました。


 

日下

そうだったんですか。

ところで斉藤さんの表現について、墨・紙・筆、など素材や道具への思い入れや、

それらが表現に結びつくところでのお考えなどをお聴かせ頂けますでしょうか?


 

斉藤さん

『100円の筆には1万円の筆では書けない線が書ける。100円の筆でしか

書けない線がある』が持論です。それぞれの用具の特徴を分析し、持ち味を

しっかり見極めることを心がけています。


 

日下

斉藤さんの作品は、墨・紙・筆、などの素材や道具に加えて

ご自身の呼吸などのコンディションが、強く反映してくるものかと感じます。

 

そういった肉体的な体調、精神的なもの、想いなど、作品に表れる

コンディションの意味の点で、気をつけていること、心がけや想いなどを

お聴かせいただけますでしょうか?


 

斉藤さん

『書』の特質は、「一回性・直接性の表現」なので、体調、呼吸(リズム)が

大きく影響します。私の場合、美術行為としての「水墨抽象」も同様です。

 

ボクシングや野球に例えるならば、シャドウ・ワークや素振り、自分なりの呼吸法を

実践しています。


 

日下

そうでいらっしゃるんですね。呼吸法に興味があるのですが、

斉藤さんはどんな呼吸法を実践していらっしゃるのでしょうか?


 

斉藤さん

何か特別、世で言われている○○法というものではありません。

自分なりの丹田に力を入れたり、抜いたりというものです。  

 

素振りというのは、腕の動き、体の動きでイメージトレーニングをするものです。

筆を持った体をどうコントロールするかということなのです。 

というのは、呼吸が線の強弱や性質に影響を及ぼすので。


 

日下

斉藤さんは、文字を書く書家でもいらして、同時に現代美術家でもいらっしゃると思います。

現代美術として、また絵画的な作品制作をするようになったきっかけは

どんなところにあるのでしょうか?

 

書家、現代美術家それぞれの、ご自身での位置づけや在り様などのお考えや

お気持ちがおありでしたらお聴かせ頂けますでしょうか?


 

斉藤さん

大学のサークルで「書」を始め、「文字」の創作を経験する一方、

「文字」から離れてどのような表現が可能か?を意識するようになりました。

 

「書」と「水墨抽象」は私の中ではパラレルで、車の両輪のようなものです。

互いにけん制しあう関係にあります。


 

日下

『水墨抽象』という言葉が出て来ましたが、斉藤さんの作品は絵画でしょうか、

それとも現代美術作品でしょうか?


 

斉藤さん

書というのは、言葉・文字を書くものです。

それに対して文字を書かない自分の作品を水墨抽象と位置づけています。

水墨というと山水画をイメージしますが、そうではないという意味で『水墨抽象』と

言っています。

私自身は、墨の抽象絵画、墨のドローイングでもあるいはただの抽象画、

現代絵画でも、なんと言われてもOKだと考えています。

 

今度、愛知県豊橋市美術博物館での「明日の日本画を求めて」という展覧会に

入選・発表が決まっているのですが、私自身はそういう『日本画』という枠組みに

出品することもいとわないところがあります。  

 

例えば、異種格闘技のように、いろんな種目の人が同じ土俵で表現を求めて行く場に

出て行くことが面白いと思います。

私自身も自分のスタイルを変えないで出せれば、枠組みや呼び方にはとらわれてません。


 

日下

鑑賞者に向けての想い、メッセージがありましたらお聴かせいただけますでしょうか?

 

例えば、作品を見て喜んで欲しいとか、メッセージを受け取って欲しいとか、

あるいは内省的な時間を味わって欲しいとか・・・。 

そういうものがありましたらお聴かせ下さい。


 

斉藤さん

作品は、文字(=ことば)では語れない何かであって、しいて言えば、

「ことば以前のことば」や「ある状況」などです。

作品鑑賞とは、これまでの人生で目にしたことのない、

あるいは経験したことのない世界や不可思議な状況とのスリリングな出会いだと

考えています。

固定観念を捨てて、ニュートラルな心で想像力を解放したいものです。


 

日下

斉藤さんの今後の展覧会情報を教えて頂けますか?


 

斉藤さん

9/27~10/16まで、SARP(仙台)でグループ展。『そして、空へ』の新作2点出品予定。

11月「第5回トリエンナーレ豊橋・星野眞吾賞展~明日の日本画を求めて~』

(愛知県豊橋市美術博物館)に入選が決まりましたのでそちらで作品発表してきます。


 

日下

おめでとうございます! 斉藤さんは展覧会での作品発表だけでなく、本の装丁や、

CDジャケットなどもされているそうですが?


 

斉藤さん

文字デザインでは、「新茶の紅茶」(仙台)のラベル、三陸フランス料理レストラン

「シェヌー」(塩釜)の店名などをデザインしています。  

 

タイトルデザインでは、辻仁成監督・作曲の映画・CD『天使のわけまえ』や、

劇団IQ150はじめ演劇公演タイトルなどがあります。


 

日下

今日は、たくさんお話を聴かせて下さってありがとうございました。

とても楽しかったです。(感謝!)

 

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斉藤さんとは、私が学生の頃、仙台市在住のダダイスト故・宮城輝夫氏主宰の

『新・寺子屋談義』という美術の談義会で出会いました。

 

その時斉藤さんは、紙に墨で描く、破る、それを再構成するという公開パフォーマンスを

されました。

 

以来、折に触れて作品を拝見してきましたが、今回初めて詳しくインタビューを

させて頂きました。

 

作品の「点」「線」という造形要素そのものを表現にしていくこと、

そのために呼吸など肉体をコントロールするということ、ご自身の表現を語る言葉に

何か一貫性のような、ブレの無さを感じて、とても素晴らしいと思いました。

 

ここまでお読み下さってありがとうございました。



 

斉藤文春さんの作品は以下のところでご覧いただけます。

 

◆ 9/27~10/16まで、SARP(仙台)でグループ展。   

詳細はコチラ ⇒ http://www2u.biglobe.ne.jp/~capri/SARP.html

 

◆ 11月『第5回トリエンナーレ豊橋・星野眞吾賞展~明日の日本画を求めて~』                          (愛知県豊橋市美術博物館)   

詳細はコチラ  

 

◆ 杜のホテル仙台 客室706号室   

詳細はコチラ⇒ http://www.morinohotel.co.jp/art/artist/706.html

 

◆ 「新茶の紅茶」(仙台)(ラベルの文字デザイン)    

詳細はコチラ ⇒ http://www.ganesh.co.jp/

 

◆ 三陸フランス料理レストラン「シェヌー」(塩釜) (店名デザイン)     

詳細はコチラ ⇒ http://www.cheznous.co.jp/top.html