みなさま、おはようございます。
毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
彫刻工房くさか 日下育子です。
本日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家で、宮城県美術館創作室教育普及学芸員の
斎正弘さんです。
斎正弘さん
(”パラサイト”という名前のカッコイイメガネをご愛用です。)
前回の白川美紀さんからのご紹介です。
今日は、第6回『世の中、ナメンでないぞ』の体験談。
斎正弘さんが宮城教育大学在学中の頃に、先生方から受けた影響など、
美術という仕事に携わられる上で基礎になったという体験談をお送りします。
私がとっても面白いと感じたエピソードを、お聴きしたままいくつか紹介させて頂きます。
斎さんは、今から紹介させて頂く体験談から、「自分の尺度だけではわからないものを拒絶せずに受け容れる姿勢」が大切だと学ばれたそうです。
それから、読者のみなさまへ。
斎さんのお話は、直接お聴きすると、感動で目からウロコがボロボロ落ちます!
けれども、私がそれを文章でお伝えしようとすると凄く難しいのです。
私自身、とってももどかしいのですが斎さんから直接お話をお聴きしたら、100倍面白い!と思ってお読みいただけましたら、とっても嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時空(トキ)のかなたをすぎる箱船(フネ)—2001
日下
私は、斎さんの彫刻作品を拝見して、とても、のびのびしているな~と思います。
斎正弘さん
そうですか。僕はのびのびしているのは、私のせいではなく、お父さんとお母さんのせいだと思っているので。育てられ方とか、小さいときは呆れてものも言えない、と本当に言われていたので。
日下
そうですか~。それも、貴重な体験だったのでしょうね。
斎正弘さん
僕が学生の時ですが、絵画Ⅳの合評会で、他の人が具体的な講評を受けている中、
何て言われるかドキドキして待っていると、いつも『ああ、斎君のは斎君のだからな・・・。』の一言で終わってしまうんです。
それを先輩の人からは、『私もいつ、そう言われるかと思ってS.T先生についているのに、アンタは1年生の時から言われて良いわね。』と言われて『はぁ?』と思いました。同じ学費を払っているのに何なんだろう!?と思っていたんです。
日下
確かに、そうですよね。
斎正弘さん
でも、あとから、美術ってそういうものか~と思ったので、そういう基礎的なところでは、S.T先生やS.J先生の影響とかすごく受けていると思うのね。
日下
ああ、そうでいらっしゃるんですか~。
斎正弘さん
S.J先生というのは、かなりのお弟子さんでも画室に入れなかったそうなんだけど、僕が1年生の頃は休みの日に訪ねていくと画室に入れてくれて、聞いたことには何でも答えて教えてくれました。
そこで、絵筆で使い古して毛が3本しかないような筆があって、『これまだ使うんですか?』と聞いたら、『女のヌードでへそをヒュッと描くのに良いんだよ』なんて言われて(笑)、その筆があれば女のへそが描けるんだというのが、専門家は違うな、と思ってびっくりしました。(笑)
日下
ハハハ、ハイ!(私もビックリ!)
斎正弘さん
そういう話を聞いた後に陶芸の授業で、陶芸家のM.Y先生が草花の絵を描く時に、ヤギの毛の筆をもっていて、『花のところをそれでピシピシと描くと良いんだ。』というのを聞きました。
日下
面白いですね(笑)。
斎正弘さん
S.J先生の話を聞いていてそういう話を聞くと、専門家ってそういう風に筆を使うんだ、違うな~と思って感慨深かったんです。
聞いてなければ『ふーん。』で終わったと思いますが。そういう、うんと基礎的な、道具と作家がどう付き合うかみたいなものとか、合評会で『これは才能だから、はい次。』みたいなものには深い影響を受けています。
ここ(美術館の創作室)で仕事をする上では一番大切なことを見せてもらっているというか。
日下
そうですね~。面白いことですよね。
斎正弘さん
実際的には、※T.M先生のモニュメント作ったりするのを一生懸命手伝ったり、
その時にいかに値段をつけるかというのも含めて教わったと思います。
日下
それは素晴らしいですね。私もそういう経験をしたかったですが、なかなか機会に
恵まれませんでした。
斎正弘さん
Ⅰ.N先生は東京の作家だから、値段をつけるときとかまた全く違った計算をしたのを見せてもらったり、やらされたりして、仕事としての美術ではそれらの先生の影響を受けたし、本質的な美術では、最初にあげたS.T先生やS.J先生、先輩のT.Kさんとかの影響を受けています。
※Ⅰ.N⇒ttp://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/A/ide_n.html
S.J⇒ 画家。http://www.angnet.com/gaka/art-3/mk52.htm
日下
はい。素晴らしいですね~。
斎正弘さん
はい。美術って、あんまり一人でやるようなことって無いと思います。知らないうちに他の人というか大人の人たちの影響を受けています。
日下
素晴らしい恩師や先輩の方に出会って来られたんですね~。とっても羨ましい気がします。
斎正弘さん
はい。
例えば、陶芸の授業で夜中の3時に窯に火を入れると、M.Y先生に『じゃあちょっと食事に行きましょう』なんて言われて、みんなで車に乗って国分町の日本料理屋に行くんです。店に着くと先生は、『来ちゃいました~!今日は学生もたくさんいるのでよろしくお願いしまーす!!』なんて言って。(笑) 夜中の3時のみんなヘトヘトになっている時に、こんな大きい皿に今獲ってきたみたいな生牡蠣がたくさんのっていて潮水の味のするのに、レモンを絞ってヒュッと食べるみたいな。それも『ヤバいな・・・、相当高いんじゃないか!?』と思うようなもの、贅沢とか美味いというのを身をもって教えられました。
やっぱり美味いもの食ってないと、本当に美味いものってわからないんですよね。
日下
ああ~、それはすごい体験ですね~(笑)
斎正弘さん
それとは別に、生意気なようだけど、僕が美術の時間にM.K先生に
『何でこういうのがいいって分かるんですか?』と聞いたりするわけ。そうするとM.K先生は『私は君より年を取っているのでたくさん見ているからね。』とか言って。『カクッ。』っときますよね(笑)。
日下
確かにそうですね(笑)。
斎正弘さん
その先生は『見るほかないんです。いいのを見るとかでなくて、見るほかないんです。』と言うんです。
良いものというのも悪いものを見ないと分からないし、とにかくたくさん見ないと分からないということですよね。
日下
なるほど~。
斎正弘さん
良いものというのも、さっき言った牡蠣のように、夜中の3時のヘトヘトになっている時に、今獲って取ってきたみたいな牡蠣を、しかも思う存分食うとかさ、『いやいやこれは、いや~、美味い!』とかっていうのをやっておかないと本当の『美味い!!』ってわからないんですよね。
普通、お母さんの作ったものを『美味いな~!』と思ってたりするじゃない。でも絶対に気づかないような美味さというのが世の中にはあって、次から次へとそういうのがあるから、『ナメンでないぞ!』みたいなのを盛んにいろんな場面で教えられたりしました。
日下
素晴らしい体験ですね~!!
斎正弘さん
それからまた、日本画の授業では、みんなで奥松島に写生に行ったのですが、
僕は写生って心から嫌いなので。
日下
エッ!?そうでいらっしゃるんですか?
斎正弘さん
そうなの。だから僕は、わざわざ奥松島に写生に行ってるのにそこの景色ではなくて、そこにあった『奥松島で見たタンポポの綿毛』というのを描いたのね。
技法的には完全な日本画を描いて出したんだけど、わざわざ奥松島に風景の写生に
行って、提出したのがそういう絵だったので、日本画の先生が困って『どうしたらいいんだべ・・・?』と助手の人に聞いたそうです。
当時の助手の人も素晴らしい人で、『「一番いい点数にしておいたらいいんじゃないですか」と言っておいたからな。』と後から聞かされました。
日下
それは素晴らしい助手の方ですね~。
斎正弘さん
僕はそれを聞いた時に、美術ってそういうもんなんだな、相当優秀で尊敬する先生でも困ることってあるんだなとか、しかも、そういうわけの分からないものが出てきたときに『駄目!』と言うのではなく、『好意的に見るものなんだ~』というのは、すごく今の活動をしている時の基礎的になっています。
日下
あぁ~、それはとっても大切なことなんでしょうね~(感心!)
斎正弘さん
だからいろんな人がいろんなことをやっている時に、僕の知らない事をやっているからとか、技法的に何とかというのではなく、僕が見たこと無いものを見たときにも、ちゃんと敏感に反応出来るようにしておこうというのがあります。
日下
なるほど~(感動!)そういう感性のトレーニングって大切なんですね。
素晴らしい体験談をありがとうございます!!
*************************
斎正弘さんのお話、いかがでしたか?
私が響いた斎さんの言葉は、
『絶対に気づかないような美味さというのが世の中にはあって、次から次へとそういうのがある・・・。』
『そういうわけの分からないものが出てきたときに『駄目』と言うのではなく、好意的に見るものなんだ・・・。』
ということです。
常に自分の尺度の外にも、今の自分には分からないけれど、何か価値のあるものが
あるかもしれない・・・、ということを知っていると、そういうものとの出会いに素直に感動したり、受け容れたり出来るのではないかと思いました。
美術はそういう体験をいっぱいさせてくれる機会、要素が盛りだくさんの分野で、
斎さんはその体験を普及させていらっしゃる方なのだな~と改めて感じました。
今日もここまでお読み下さってありがとうございました。
*************************
◆斎正弘さんのブログ
◆斎正弘さんがかつて主に子どもとの向き合い方を書いたエッセイ
仙台の情報誌に毎月1回、10年掲載されたもののWEB版です。
おとうさんのひとりごと on the web
◆斎正弘さん執筆で、河北新聞夕刊に掲載されたコラムのWEB版
美術、ほんとのところ
◆斎正弘さんの本
『大きな羊の見つけかた』 仙台文庫 987円
仙台文庫
◆斎正弘さんのお話が直接お聴きできる催しです。
※(インタビュー当時のイベントで、現在は開催しておりません)
場 所 基本的に そあとの庭 1階
日 程 2012年9月~2月間毎月2回 第1第4金曜日夜
時 程 18:00 開場。予約者サパー(要予約)
19:00 講義開始。(1時間講義、30分質疑)
20:30 終了
参加料 講義前に軽食をとりたい人は予約した上で1500円。
*講義終了後、各自がその日の話の値段を決め各自寄付。
11~12月 ○美術は本当に生活の役に立つのか具体的に考える。
○ 美術の始め方/始まり方。
1~2月 ○美術を学ぶ理由/学ばなければいけない理由。
○そもそも美術って何ですか?を具体的に考える。
○なるほど、だから美術館か。
:::::::::::::::::::::::::::::
★☆みんなの学び場美術館 作家インタビュー アーカイブス☆★
::::::::::::::::::::::::::
毎月数回、吉日配信
★無料メルマガ【IKUKO KUSAKA E-mail magazine】読者登録は★コチラから★
:::::::::::::::::::::::::::
人気ブログランキングへ ←ポチッとおしてね!
↓こちらも
にほんブログ村 ← ポチっとおしてね!