NO,75 彫刻家 斎正弘さん ③ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の

「彫刻工房くさか」日下育子です。

 


本日は素敵な作家をご紹介いたします。

 


彫刻家で、宮城県美術館創作室教育普及学芸員の

斎正弘さんです。

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
斎正弘さん

 

 

 

前回の白川美紀さんからのご紹介です。

 

白川美紀さん 第1回、  第2回  第3回  第4回  

 

 

本文の前に・・・

学び場美術館では、作家の方々に、あらかじめ作品写真を見せて頂き、インタビュー

させて頂いております。


ところが、斎正弘さんとはインタビュー申し入れの際に、メールでこんなやり取りが

ありました。

 

<2012.8.15 斎正弘さんから日下へ>

 

日下さん、今回の作業に関して、特に問題はありません。(中略) が、唯一にして

致命的な問題があります。

 

僕は、ある考えに基づいて、自分では、自分の作品の映像記録を(ある時期以降)

 

とっていないのです。

 

又、作品自体も、できるだけ手元にとって置かず、大きいものや、受賞したものなども、

 

できるだけ早く知り合いにあげてしまっています。


又、個展での作品も、ある時期から値段をできるだけ安くして、みんなに持っていてもらう

という方向にしています。だから、実際の作品を含め、本当に映像記録(特にデジタル化

したもの)はないのです。

なので、今回の企画は中止を含め、ご検討くださってかまいません。
ご検討を。

正弘。

 

 

<2012.8.16  日下から斎正弘さんへ>

 

 

 

返信ありがとうございました。

 

さて、作品写真データが無い、作品をできるだけ人にお渡しされているとのお話

なのですが、私は逆に、そのことでお話をお聴きしてみたくなりました。

 

学び場美術館のブログでは、美術の多様性を紹介したいと考えております。(中略)

 

斎さんはとても独特なあり方をしていらっしゃるので、 逆に興味をそそられるのです。

 

 

・ ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  

 

 

こんなやり取りから、今回のインタビューは実現しました。


ちりばめるように掲載した斎さんの作品写真は、斎さんがわずかにプリントで

残っていたものをデータ化したり、ご自身のパソコンの中などを一生懸命探したりして

集めて下さったものです。


お楽しみ頂けましたら、とっても嬉しいです。

 

 

 

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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-p

個展 復脚類収集癖会場風景

 



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-n
個人蔵(題名非公開)
 

 

 


日下
ここまで、たくさん目からウロコのお話をお聴かせ頂きました。
そんな斎さんが、ご自身が作家の時はどのように制作していらっしゃるのか、

 

とっても興味深いのですが。

 

 

斎正弘さん

 

 

僕はアメリカから帰って来てから、極力みなさんに作品を持ってもらうということを、

昔からしているのね。

 

 

日下
はい。斎さんはご自身の作品について、
『写真の記録データを残さない、 作品も

 

 

自分の手元には残さない。』そうですが、それはどのようなお考えなのか、

お聴かせ頂けますか。

 


斎正弘さん
美術館の作品を見てもらって分かる通り、
美術って自分で持っているうちは

 

何にもならないのよ。

 

要するにこんなのは自己満足なので、表現というのは出しておいて、それを誰か

 

自分ではない違う人に持っていてもらわないと終わらない、ということです。

 

そういうのはすごくしつけられたし、教育されました。

 

 

日下
それはアメリカで、でしょうか。

 

 

 

 

斎正弘さん
アメリカでも、宮教大でも、外国に行った人というか、
仕事として美術をしているというのは、

 

 

そうだと思います。


美術というのは、それまでみんなが気づかなかったことを、『いや、実は俺もさ…。』

っていうのをやって見せるのが仕事なので、みんなに持ってもらわないといけないので。

だから、最初から値段をつけたりするのも嫌だったけど、でも、みんなに持ってもらう、

というのは思っていました。

 

ただ日本に帰って来たばかりの頃って、東京で展覧会するとバブルでやたら値段が

高くなるんですよね。それでも売れるのはいいんですけど、僕の作品は鉄だから、

すぐに錆びて壊れる、無くなると思っていたんです。

 

そしたら、その頃、デイビット・ナッシュが美術館に来て、木を切って川に置く作品を

制作したんです。それで僕たち美術館側では

『川に置いたら流れてしまいます。』

と言ったら、彼は
『何を言ってるんだ。作品だよ。無くなってしまったということは永遠になったということ

なんだよ。』

と言うわけです。

 

 

日下
へぇ~。(感嘆)

 

 

 

 

斎正弘さん
僕は『しまった!』と思ったんです。

彼は『Gone away means forevre』とか言って、僕は『クッソ~』とか思って(笑)。


僕はそれまで『鉄の彫刻だから壊れてしまうんですよ。』と言っていましたが、

壊れてしまうと明らかにその人の頭の中に残る。頭の中に残る世界というのは、

つまり美術では、無くなるということが永遠になるということだったりする。

 

 

日下
あぁ~。なるほど。そうですね~。

 

 


 

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
アメリカ留学  在学中のスタディ

 



 


斎正弘さん 

彫刻家としては、その時の世界というのを僕はまとめてパッとかたちにするわけだから、

出来るだけ意識的でなく、無意識に出てくるかたちというのを使って制作します。
 

しかも僕の場合は鉄だから、『僕のかたち!僕のかたち!!』というのではなくて、

僕のかたちと『素材の発言・発現』というのを調和させて制作するんですね。

 

 

日下
あぁ~。はい。そうですね~。

 

 

 

 

斎正弘さん
そんな風にある時から、
こっちの抵抗をうんと少なくして鉄に『素材の発言』を
いっぱい

 

 

させながら、僕の方がお話し合いをして作るようにしていったら、益々すぐ錆びて、

益々壊れやすくなる。

 

だから『10年は持ちますから100万円』とはあんまり言えず、かといって本当に

 

すぐ無くなるわけではないので、『絶対に壊れないわけではないですよ。』

と言って安くして、出来るだけみんなに持ってもらって、無くなることは美術が永遠に

なることだと思って、ずーっとそれを実行しているのよ。

 

 

日下
はぁ~。美術に対する考え方と、
素材の両方の理由で作品を手元に残されないんですね。

 

 


それからメールでは、写真の記録データも残さないということでしたが。

 

 

斎正弘さん
それは私はリサイクル主義者でもあり
原理主義者だから『無駄をするな!』という

 

 

考えからです。なので、個展をやって半年ぐらい動かないとバラして部品に

戻してしまうんです。


だから逆に写真を見て、作品を売って下さいと言われても 『もうこれは無いんです。』

ということが以前はあって・・・。だから写真のデータをとらなくなったんです。それで、

僕の作品は写真も作品もあまり残っていないのです。

 

 

日下
そうでいらっしゃるんですか~。
私自身も制作者の一人ですが、作家というのは

 

 

できるだけ作品を残したい、・・・というか記録好きの人って多いと思うのですが。


それは、自分の何か、生きた証しとして残したいという想いがあるからだと思うのですが。

 

 

 

 

 

斎正弘さん
僕は言い方かも知れないけれど、
その時その時だと思っているんです。それをきちんと

残しておいて、あとで何するの?

 

 

日下
うーん。確かに、そうですけれど・・・。

 

 

 

 

斎正弘さん
僕が死んだ時に、『あれー、斎さんのもの何も残ってないね。』
・・・というのが

 

 

僕は好きなの。みんなの想い出に残っているのでいいと思うんです。どうせぴったりと

正しくは伝わらないと思うのでね。
 

いなくなった時に、『斎さんいなくなったね。あれー?』というのを楽しみたいのね。

人間みんな死ぬんだからさ。あんまり余計なものを残さないようにしたいと思っているけど、

でもまだ生きてるからね。まだ余計なものたくさんあるなぁ。

 

 

日下
そうですか~。
斎さんは、腹が決まっていらっしゃる感じがします。ありがとうございました。

 

 



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-m
個人蔵(題名非公開)


 


 

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私は、多くの芸術家にとって、とかく自分の生きた証しとして作品を残そうという考え方が

主流だと思ってきました。


私自身、自分の痕跡が作品として残るということが、何か他の職業に対して
ちょっと優位なことだと考えてきました。


今回、斎正弘さんのお話で、『本当に作品が無くなる時、人の記憶に残る、作品が

永遠になる』というのは考え方としては分かるつもりでいましたが、実践していらっしゃる

ということに、これまた目からウロコがボロボロ落ちてしまいました。


次回は、斎正弘さんご自身の制作、素材との対話についてのインタビュー記事を

届けさせて頂きます。どうぞ、お楽しみに。

 

 

 

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◆斎正弘さんのブログ
 

 

◆斎正弘さんがかつて主に子どもとの向き合い方を書いたエッセイ

仙台の情報誌に毎月1回、10年掲載されたもののWEB版です。

   おとうさんのひとりごと on the web
 

 

◆斎正弘さん執筆で、河北新聞夕刊に掲載されたコラムのWEB版
   
美術、ほんとのところ    

 

 

◆斎正弘さんの本 

 『大きな羊の見つけかた』 仙台文庫 987円

   仙台文庫    

   ブックショップ   
『おとうさんのひとりごと』 

 

 

宮城県美術館
 

 

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