版画家 岡沢幸さん 第1回 | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。


毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。



本日は素敵な作家をご紹介いたします。


版画家の岡沢幸(おかざわ みゆき)さんです。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

2012.6月 晩翠画廊にて、布の作品とともに


岡沢幸さんの作品のテーマ、制作方法、作品制作の思いについて

インタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。


第1回の今日は、おもに制作テーマについてお話をお聴かせ頂きます。


お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。




*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

BUD



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

HIKAGEKARA




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

沢山の意味1104



日下 

岡沢幸さんの制作テーマについてお聴かせ頂けますでしょうか。



岡沢幸さん

作りたいという気持ちが先で、それには理由が無いことがあります。 自分から何が

出てくるのか、その気持ちで手を動かしています。 

その後から、絵を描くことと、これまでの経験が結びつきます。

絵を描くこと、表現したいことと経験が、後から繋がる感じです。

テーマはあまりないけど、「生きる」「ここにいる」そういうことを表現したいと思っています。
人との出会いや、素晴らしい景色を見る、感激するとか。この世の中の自分では

動かせないもの、森羅万象、自分という小さい存在から見たそういうものを抽象的に

表現したいです。

抽象的な方が、見てくれている人の気持ちが入りやすいと思います。 

形が良いとか、しっくりくるとか思うのがシンプルなフォルムなのです。

そういう形の中に細やかなディテールを入れて、複雑で豊かさを表現したいと考えています。



日下
岡沢幸さんは、こどもの頃から絵が好きだったのでしょうか。



岡沢幸さん
好きでした。
でも、それが自分に対して特別なものだとはそれほどは

思っていなかったです。


中学生の頃、運動部に入っていました。 私の行っていた中学校には部活動は運動部

しかなく、ソフトボール部に入っていました。自分は一生懸命なのですが、まわりから見て

一生懸命やっているように見えないらしく、悔しい思いもしました。

それなら自分の好きなことをした方がいいと思い、高校に入ってから美術部に入りました。
進路を決める時に絵を描きたいと思い、仙台美術研究所に入りました。
そこには、私は週に3回通いましたが、
毎日通っている人もいて、そういう人たちの間に

入って、本格的に美術を目指す感覚が強くなってきて、女子美短大に入りました。

短大には油絵、絵画で入学しました。入ったら入ったで仙台と東京の間の

カルチャーショックがありました。
  

価値観が違うと感じました。まわりにはマニアックなことを知っている人がいて、描くこと、

表現することよりも、例えば映画、美術イベントなど文化的なことに興味がわきました。

吸収する時期だったのだと思います。描くこともそれなりに頑張ってはいましたが、

学生時代は作品制作に気持ちが向かなかったなと、今は思います。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

2010 ギャラリー kobo+tomoでの展覧写真より




日下
銅版画はいつ頃からはじめられたのでしょうか?

銅版画に取り組むようになったきっかけを教えてください。



岡沢幸さん
油絵は重ねていく、厚ぼったい、盛り上げていくところがあります。 

そう感じていた頃、女子美短大の時に銅版画の集中講義があり、版画は用紙が素敵だと

思いました。

薄いのにどうしてこんなに深い色が出るのか、ということに感動しました。
油絵と逆、油絵は上に重なる感じですが、
版画は薄い中にしみ込んでいく感じです。

そして用紙に刷られた銅版画には独特の魅力があり、時間の流れのような『時』を

感じることができました。

凹版(おう版)で刷ったときのエンボスのボコボコも面白いですし、

物質的にも腐食して、自分の手から離れて進むところがあります。

銅版画には、自分の中で何かに集中したいときに出会ったと思います。


その後、武蔵野美術学園(武蔵野美術大学の前進の学校)、実技だけの学校

専修学校3年の後に、教務補助を2年間しました。それが終わった年の9月にオランダに

1年間の留学に行きました。

その経緯は、武蔵野美術学園のリトグラフの先生がデン・ハーグの王立美術アカデミー

文化庁研修員として通われていたことがあります。


私が留学した年というのは、日本とオランダの国交400年の年(1998年)でした。

そのご縁で武蔵野美術学園版画科とオランダ王立アカデミーの版画コース両校で

交換展覧展を企画、開催されることになったのです。その展示の際にオランダより教授が

日本を訪ねて来られ、いろいろなオランダのお話を聞き、魅力に触れ、「是非アカデミーにて

版画を勉強したい」という気持ちになりました。


そして教授はオランダ、デン・ハ―グ王立美術学院の願書を持ってきて下さり、

とてもスムーズに入学許可を得ることができ、留学の夢が叶ったのです。

私はその交換展覧展のスタッフというのもあり、すでに、もうマスターしている人というのが

前提にありました。

 

その後、作品の画像を提出して審査を通り、3月の展覧会のあと、9月にはオランダの

デン・ハーグに発ちました。9月にオランダにて交換展覧会が始まるので、私はちょうど

タイミング良く日本からの留学生という感じで行きました。
 
その当時はまだユーロではなく、
当時の通過ギルダーは今よりも物価は安く、
学費も年間20~30万円でした。

現在はユーロで物価も高くなり、どんどん変化したようです。

アジア圏の人にはユーロ圏の学生よりも学費は高いですし、厳しくもなりました。

私は大学も4年生に編入することになり、1年で卒業することが出来たという特別な待遇を


受けることができました。




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
10人の若いアーティスト展

 Gallery inkt(オランダ デンハーグ)2000.1.9~2.4 より



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

2010 ギャラリー kobo+tomoでの展覧写真より




日下 
岡沢さんが2000年にオランダで制作された作品というのは、
かたちが刷毛で

描いたように力強く明快ですね。その後帰国して2005年に発表された作品では、

線というかかたちの際が霧にかすんだような、繊細な造形表現になっていますね。

画面の中にある空気が変わったような感じがします。


ご自身では何か、目指す表現が変わったり、心境が変化したということは

おありだったのでしょうか。



岡沢幸さん
そうですね。オランダで作った作品はリトグラフ(石版)ですが、
版にクレヨンで描いて

製版し刷ります。銅版画のニードルがクレヨンになったという事もあります。


どうして銅版画からリトグラフにいったかというと、オランダという異国の大学という

制作環境で、銅版画の先生よりも、大学のリトグラフの先生がとても自分に

良くしてくれたからということもあります。


『先生』の環境もあって前向きに変えてみていいと思いました。

意思疎通の難しい先生よりも、信頼している先生についてリトを学びたいと思いました。

向こうでは、版画はリトグラフが主流です。版種が変わり、ニードルからクレヨンに変わり、

そのような経緯から力強い明快な表現になりました


自分から出てくるものが素直になったというか、クレヨンになったら明快に形を

描くようになりました。自分からこういう形が出てくるのが新鮮で楽しかったです。

その状態で帰国してしばらくはリトグラフを制作していました。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
記憶の過程

 銅版画   2005年   H60×40cm  



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

アーチ

ドライポイント 2002年 18×25cm




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

風景として

ドライポイント 2002年 H36×W60cm




岡沢幸さん
リトグラフはヨーロッパでは本物の石版を使うのに対して、
日本ではアルミの板を

使うことが多いのですが、アルミ版はどうしても版がつぶれやすいですし、難しいのです。

 
それで何作か制作したあと、作れなくなってしまったのです。

それは自分の年代的なものや心情的なものか、理由は分かりかりませんが、

それまでよりもっと深く考えるようになったのです。

 

それで画面の余白の何もないところにも何か描こうと思いはじめました。

それまで余白のところは、リトグラフのときは余白のままか、ちょっと汚れを入れる程度

でした。銅板だとそれをやりやすかったのです。


ある意味、原点にまた戻ったとも思います。


画材や表現方法を選択する時には自分の感覚とともに、制作する環境や条件により

変わってゆくのだと思います。オランダを経て日本でまた制作する事になり、

もっともしっくり来たのがめぐりめぐって銅版画だったのです。

でも、もし今リトグラフをやったら昔のようにやはり白黒の明快な形をすると思います。

それは素材による感覚の違いやペン先の細かさや黒の出方の違いに影響があると

思います。



*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*



岡沢幸さんとは、10年来の知り合いで、仙台でも精力的に作品は発表をされたり、

ご自身の版画スタジオを開設されたりと、精力的に活動していらっしゃいました。


今回、改めてじっくりと岡沢幸さんの制作への思いをお聴かせ頂きました。

本当にのびのびと、夢中に制作に取り組んでいらっしゃるのが素晴らしいと感じました。


このインタビューは、6月上旬、仙台の晩翠画廊にて開催されていた

『仙台GIRL’S?コレクション展』でさせていただきました。


プライベートでは、10月に赤ちゃんのご出産予定があるそうです。

妊娠中にも作品制作と発表をされて本当に精力的で、作ることが大好きで

いらっしゃるのだなと感じました。私も昨年出産したものとして、とても共感を覚えました。


皆さんもぜひ岡沢幸さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。 



*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*


◆岡沢幸さんの展覧会予定

   展覧会名 picnica hentecos

    日時 2012.8.28~9.23

    会場 岡沢さんの作品展が行われる PICNICA

       ⇒ http://picnica.net/


   展覧会名 Little Cristmas 展

    日時 未定

    会場 晩翠画廊  

       → http://www.bansui-gallery.co.jp/
 



◆岡沢幸さん主催の『ZON版画工房』ホームページ

 ⇒http://zonprint.info/




◆Print's Bag MのBag達
  版画家が布地に模様を刷りすべて手作りのオリジナルのデザインでBagを作っています。

  ⇒ http://blog.goo.ne.jp/printsbagm/




◆岡沢幸さん 経歴


1973   宮城県仙台市生まれ


1993   女子美術短期大学造形科絵画教室卒業

1996   武蔵野美術学園版画科研究科修了

1999   オランダ王立ハーグ美術アカデミー版画コース卒業

1993   グループ展yong artists exhibithion(東京・ギャラリーうえずみ)

1994   グループ展 版画による表現(東京銀座・GALLERY375)

1996   全国大学版画展(東京・町田市版画美術館)
      Art Box 大賞展
      神奈川国際版画アンデパンダン展
      日本版画協会展(東京都美術館・~1998)

1997   個展(東京銀座・ギャラリー伸)
      神奈川国際版画アンデパンダン展


1998   国際版画交流展

      (オランダ・ハーグ・パノラマメスダグ、東京・文房堂ギャラリー)
      オランダ王立ハーグ美術アカデミー 版画コースに留学


1999    オランダ王立ハーグ美術アカデミー卒業展(オランダ・ハーグ)
      internathional contemporary art EXITBORDERS.COM

      (オランダ・アムステルダム)


2000   グループ展 (ギャラリーinkt・オランダ・ハーグ)
       河北美術展 (仙台市・藤崎デパート)
      個展(東京銀座・space Kobo+tomo)


2001   個展(埼玉県東松山市・宗平ギャラリー)           
      版画みやぎ(せんだいメディアテーク・以後毎年)


2002   日韓現代美術交流展(せんだいメディアテーク)
      個展(東京銀座・巷房)
      現在展(いまてん・せんだいメディアテーク・以後毎年)
      新現美術協会展・招待作家賞(せんだいメディアテーク・以後毎年)


2003   個展 (仙台市 ギャラリー青城)
       仙台美術予備校 講師展(せんだいメディアテーク)
      グループ展 (東京都武蔵野市・ギャラリーシティオ)
      日韓現代美術交流展in Busan (韓国釜山市・釜山国際新聞社展示会場)
       東北Asia展 (釜山・乙淑島文化会館/中国へ巡回展)


2004    グループ展 女子美術大学宮城同窓支部展 

      (仙台市・一番町画廊)
      BLOX展 (せんだいメディアテーク・以後毎年~2006)
      個展   (東京都武蔵野市・ギャラリーシティオ)
      カダケス国際ミニプリント展 (スペイン) 
      第二回 手のひらサイズの作品展 (仙台市・ギャラリー五番街)
      個展  (仙台市・カフェ シュバルツ)
       第二回新地ビエンナーレ(福島県相馬郡新地・わくわくランド)


2005    日韓現代美術交流展 (韓国蔚山)
      宮城県美術館創作室公開制作『版で描く 版に描く』 


2006   公開制作作品展『版に描く 版で描く』(宮城県美術館1Fロビー)
      版画みやぎ小品展(仙台市 ギャラリーJ・2007年)
      個展 (仙台市・cafe gallery Tnitka)
      BLOX2006展 (仙台メディアテーク・仙台美術研究所主催)
      カダケス国際ミニプリント展 (スペイン・カダケス) 
      女子美術大学同窓宮城支部50周年記念展+α展

      (せんだいメディアテーク)

      個展 (仙台市・ギャラリー青城)


2007   モダンアート協会展(東京都美術館 、以下毎年)
      モダンアート明日への展望展(横浜市民会館)
      個展(仙台市・リブリッジエディット)
      日韓現代美術交流展2007(宮城県美術館・県民ギャラリー)
      美術計画(宮城県塩竃市・旧徳陽シティ銀行跡)


2008    N.E BLOOD No.31 岡沢 幸展(リアスアーク美術館・気仙沼市)


2009     個展 (ギャラリーTURM・秋田市)


2010    モダンアート協会仙台展(せんだいメディアテーク/新人賞受賞)
       個展 (ギャラリーSENBI・仙台市)
      絵のある住まい展 岡沢 幸展 (ミサワホーム寺岡展示場・仙台市)
      ギャラリー青城CLOSE展 (ギャラリー青城・仙台市)
      女子美術大学同窓宮城支部α展 (せんだいメディアテーク)


2011    モダンアート協会京都展 (京都市美術館/佳作賞受賞)
       個展 (仙台アーティストランプレイスSARP)