木彫家 広野じんさん | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」



みなさん、おはようございます。


毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。



本日は素敵な作家をご紹介いたします。


木彫家の広野じんさんです。


前回の菊池咲さんからのリレーでご登場頂きます。

http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11150209398.html


広野じんさんの作品のテーマ、作品制作の思い

についてインタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。


 

お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。 


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

ハム はむ 公     2003
900×1730×2330(mm)
紅松・ジェッソ・炭・オイル他




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
たこさん・・・     2005盛岡

300×300×430(mm)
紅松・アクリル・オイル





アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

空ノ経験(べーこん)     2007
2070×480×1200(mm)
紅松・栗・ジェッソ・オイル・紐他




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

親父カレー ~ あの日、ぱぐれたモノについて。~     2008
4000×3000×2000(mm)
紅松・米檜・桂・色鉛筆・ジェッソ・アクリル・オイル・他    




日下
広野じんさんの制作テーマはどんなことでしょうか。



広野じんさん
テーマは『食にまつわる物・事・食材など』です。



日下
そのテーマで制作を始めた一番最初はいつ頃だったのでしょうか。



広野じんさん
一番最初は、学生の頃、南部せんべいを木彫で制作していて、その後、10年位

未完成のまま放置していました。それは大学の学内コンクールに出品するつもりで、

研修旅行の行きの新幹線の中で彫っていました。今だったら銃刀法違反だと

思うのですが(笑)。ただそれは、今のように制作テーマの『食』として考えていた

わけではなく、その時の一つのモチーフとして南部せんべいを彫ったという感じです。


結局、学内コンクールにはそれではなく、別に彫ったしょうゆせんべいを出品して、

木彫家で教授の林範親先生の個人賞を頂きました。ですが、その時はまだ見せ方や

プレゼンテーションは考えておらず、今思うと習作でした。



日下
広野さんの彫刻は手で触れることのできるもの、五感で鑑賞するものとして制作されている

ということを以前、うかがったように思います。そのことについて、あらためてお聴かせ

頂けますか。



広野じんさん
はい。『食』のテーマに入る前は、特に触覚とかたちをテーマに制作していました。

美術館の作品のように触ることのできないものではなく、触れる、座れるということの伴った

いいかたちを探していました。そういう制作は大学を卒業した1994年から2000年頃まで

やっていました。



日下
2000年頃というと、広野じんさんと私が一緒に参加した

みちのくアートフェスティバル2001(※)の頃まででしょうか。

 


広野じんさん
はい、そうですね。このトラノオというグループで参加した野外彫刻展をきっかけに、

自分の中で消化されていないものがあったと分かりました。そんなこともあり、

その当時の自分自身の彫刻は、触覚と風景の両方の融合した作品をイメージして

制作していました。


例えば、大きい円盤状の床置きの作品で、その上に座ってその彫刻が揺れるのを

感じながら、海をイメージしてもらう、砂浜の風景などを制作していました。
トラノオの時に制作した作品は、道の上に彫刻の畔を設置しました。畔の彫刻は風景に

入りこみながら、しかもその上を歩いて、足の裏で木の触覚を感じるという作品でした。


(※)みちのくアートフェスティバル2001は、国営みちのく湖畔公園のふるさと村という

東北六県の古民家を移設したスペースを会場に、2001年9月から2002年2月までの

長期野外展示をする展覧会でした。現代美術作家、彫刻家、建築家など参加作家

それぞれが、東北六県の古民家、いずれかの空間に関わった作品を展示するというもの

でした。この展覧会に私たちは、彫刻家の虎尾裕氏、現代美術家の原田拓氏とともに

4人の「トラノオ」というグループで参加し、宮城の古民家「鳴瀬河畔の家」の屋外に

展示をしました。




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

シチューな日々     2002
500×500×1100(mm)
桂・アクリル・色鉛筆・オイル他
 



日下
その後、広野じんさんが制作した『食』の作品では、チューの入った揺れる寸胴鍋の作品が

記憶にあります。鍋の底が曲面になっていて、触ると揺れる、シチュー鍋で、

とてもユニークな作品でしたね。



広野じんさん
はい。『食』をテーマと考えた最初の作品はシチューでした。その頃は、触覚と風景の

彫刻から、『食』をテーマにするものの過渡期だったと思います。今は『食』で、

しかも触れたくなる彫刻を目指して制作しています。最近では活動の中で出会った方の

ススメもあり、毎年2月に、東京新宿の伊勢丹で開催される「木彫の猫と動物たち展」に

展示販売しています。

この展示会は複数の作家が展示するというもので、今まであまり動物を彫った事の

なかった私にとって、チャレンジ的な追うその強い依頼でありましたが、自分のテーマである

『食』と『動物』を融合というあらたな仕事に挑む事で、巾が広がって、いい勉強をさせて

頂いております。


そんなことで、今現在の制作は主に二つあって、一つは座れるもの、さわれるものと

『食』にまつわる風景、例えば畑とか食卓とかの大型の作品があります。もう一つは

小作品で、記憶につながる『食材』や『食品』にまつわるもの、先程お話し『食』と動物が

ミックスされたものなどを作っています。




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
どらネコ     2010
1650×1490×1400(mm)
檜・色鉛筆・オイル




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

焼きたいっ!     2011
檜・色鉛筆・オイル




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
    ・ ・ ・
屠にもかくにも     2008
米檜・桂・オイル他




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
く~ぷ く~ぷ く~ぷ プラスⅣ   2008  

4000×500×700(mm)
栗・赤松・柿渋・他





日下
そうですか。面白い作品ですね。ところで『食』ということを彫刻で表現するようになった

きっかけをお聴かせいただけますか。



広野じんさん
自分で自信を持って『食』をテーマにしようかな?と考えて彫刻を作るきっかけに

なったのは、大学卒業後すぐに応募した彫刻展『木彫フォークアート・おおや』に

少し大きめに制作した『たまねぎ』の制作でした。


審査評で、審査委員長の木村重信氏から

『拡大したたまねぎによって、量は一定限度以上になると質に転化することを実証する』

という評を頂いたからでした。


今考えると、私が子供の頃に読んだ絵本、例えば『ぐりとぐら』のパンケーキなどの

絵本の表現で、食べ物が動物や人物に対してケーキが異様に大きく描かれていることを

思い出しました。制作している時には、そのことを強く思っていたわけではないのですが、

『食』にまつわる制作を体験していくうちに、イメージがふくらみ、作品になるかもしれないと

思いました。
 
           ・・・
それが発展していったのが『屠にもかくにも』という豚の角煮のベンチや、フランスパンの

ベンチです。こんな風に大きくすると、彫刻を手で触ってみることの抵抗感が、子供を

中心に、比較的無くなることもわかってきました。普通は食べ物を投げたり、座ったり

ということは現実の生活ではマナー違反ですが、私の作品ではあるということです。


それと『食』というものは、命の連鎖の上に成り立っているものということも、根本には

考えています。私たちが生きるために生き物を殺し、調理し、食べているという事を、

説明的にではなく、作品タイトルに擬人化や比喩を入れた表現をすることで、伝えたいと

意図しています。
 
もう一つ食べ物には、コミュニケーションの手段という側面もあります。家族の団らんや

友人との飲み会、そういうものもアートで気軽に体験して欲しいですし、そういう作品達が

日常にあるといいかな!というイメージで制作しています。



日下
なるほど、そうですか。お話を聴いてみると作品を通して様々な『食』についてのイメージを

表現していらっしゃるのがより深く伝わってきますね。


さて、広野さんは木彫ということでたくさんの木に触れていらっしゃると思うのですが、

素材についての思い入れがありましたら、お聴かせ頂けますでしょうか。



広野じんさん
私は作る時に、食材を選び調理するように、材料を選んでいます。食べ物を木で作るのに

基本的には素材の色で選びます。その意味では、木彫家によっては楠(くすのき)以外は

使った事がないという人も比較的多いのですが、私は極端にいうとどんな木でも彫る

といえます。素材が木ということで自分よりはるかに年上の木を彫るので、

愛着や畏敬の念を込めて彫っています。逆目が出たり、松だったら松やにがあったり

ということもありますが、そういうことも個性としてとらえ、材料に勉強させてもらっています。



日下
そうですか。

『自分より年上の木を彫るので、愛着や畏敬の念を込めて彫る』というのはとても素敵な

感性ですね。




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
福朗     2011
桂・たも・色鉛筆・オイル




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
Serve Ice. Mt.Iwate 2011
檜・色鉛筆・オイル



広野じんさん
刃物の研ぎ方などについては、師や人から教えてもらいましたが、材料や作家活動に

ついてはこれまで教えてくれる人がいなかったので、自分で彫りながら勉強してきました。

いろいろなことがほぼ独学だったと思います。学生の頃から今までも経験して学ぶものが

多いです。本当にいろんな意味で学ぶことは多かったです。


これまでの制作には様々な人との出会いもあって、それも不思議な人のつながりを

感じています。例えば新宿のデパートで作品展に参加するようになったことも、

日下さんとみちのくアートフェスティバルに参加したこともです。


昨年は震災がありましたが、その時に学生の頃の人との付き合いはまだつながっている事

を実感する出来事がたくさんありました。本当に同じ釜の飯を食った先輩、後輩たちだな

という思いです。あらためてみんなそれぞれに頑張っていると思い力づけられました。


同じく昨年、突然の依頼ではありましたが、郷里でもある岩手の岩手県立美術館の企画展

('70'80年代生まれの美術家たち IMAここで展)に出品・展示する機会に恵まれました。


以前に地方の美術館での展示を見てくれていた学芸員の方から、

『震災復興に美術館として何かできる事を・・・。』という予算も時間もない中での企画の

主旨に、私も賛同して、私も出来る事を協力したい!という思いで参加を決めました。

3カ月間という長期間、美術館というスペースで作品を展示出来るだけでも、

ありがたい話で、地元の若手作家にも少しは門戸が開けたのではないかと思いました。
 
私をご紹介いただいた菊池咲さんともご一緒に展示出来た事は、よい刺激となりました。

実は展示の際に、菊池さんの作品をすわって見る事の出来るように、自分の作品を

置かせてもらったのですが、結局、保安・安全面から、触る事が出来ない事になったのは、

残念でした。画面に作品がかぶってしまったことも、菊池さんには迷惑ではなかったか?と

考えたりもしましたが、これらの作品のあったブースは、人気があったと聞いて

ホッとしました。期間中に「木を彫る」という事を日常として体験してもらう為に、根付の

ワークショップもさせて頂きました。
 
岩手県立美術館での展示は、私にとって一つの区切りだった様に思います。

『食』をテーマの作品はこれからも作り続けていきますが、また人たちと出会いチャレンジ

していく事で、さらに作品を進化、向上させていきたいと思っています。



日下
広野さんの今後の発表などご予定があれば、お聴かせ頂けますか。



広野じんさん
先の話になりますが、今年の12月25日(火)から12月30(日)までに

SARP(仙台アーティスト・ラン・プレイス)で個展を行います。
 

2月22日(水)から2月27日(月)まで、東京、新宿伊勢丹アートギャラリーにて、

『木彫の猫と動物たち』展に出品しています。



日下
では、広野じんさんから、次の作家にリレーをお願いできますか。



広野じんさん
画家の高松和樹さんを紹介します。ちょうど『シチュー』の作品を作った頃に、ギャラリーで

会話をしたのがきっかけで知りあい、今は全国的にご活躍されている作家さんです。



日下
広野じんさん、今日はお忙しい中、お話をお聴かせ下さいましてありがとうございました。



広野じんさん
ありがとうございました。お話できて、良かったです。

 
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広野じんさんには、前回の菊池咲さんからのリレーでご登場頂きましたが、実は同じ大学の

一学年後輩ということでよく存じ上げている作家さんです。今回、直接お会いするのは

およそ3年ぶりで、あらためて広野じんさんの制作への思いをお聴かせ頂きました。


『自分より年上の木を彫るので、愛着や畏敬の念を込めて彫る』という作家の言葉通り、

とても優しさのある作品を作っていらっしゃるなと感じました。


皆さんもぜひ広野じんさんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。 


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◆ 広野じんさん 経歴

1972 岩手県盛岡市生まれ
1995 第2回 木彫フォークアート・おおや 入選 ('96 銅賞)  

                           (兵庫県大屋町)
1997 個展 ギャラリー一週刊アート ('98 )

                            (宮城県仙台市)
1999 個展 ろうきんアートギャラリー                

                            (宮城県仙台市)
2000 日・韓 現代美術交流展(野外展)             

                            (韓国 釜山市)
    21c ART展                         

                            (韓国 釜山市) 
2001 みちのくアートフェスティバル2001 みちのく杜の湖畔公園

                            (宮城県仙台市)
2002 日・韓 現代美術交流展 in SENDAIせんだいメディアテーク

                            (宮城県仙台市)
    土樋 ART WORK  

                           (宮城県仙台市)
    LIBRARY PROJECT.

    せんだいメディアテーク3F 市民図書館 

                           (宮城県仙台市)
2003 ロジアート. サンモール一番町商店街・いろは横丁   

                           (宮城県仙台市)
    個展 Gallery 彩園子 

                           (岩手県盛岡市)
2004 METAMORFOSI NEL TENPO 展 

    Gallery ART POINT BLACK 

                        (イタリア・フィレンツェ)
2005 個展 ギャラリー re:bridge edit       

                            (宮城県仙台市)
    N.E blood 21 vol.18 広野じん展 リアスアーク美術館

                          (宮城県気仙沼市)
2006 感仙殿・善応殿「平成の改修」彩色改修施工      

                           (宮城県仙台市)  
2007 「奥の若手道」展(巡回展)

    リアスアーク美術館、北海道立函館美術館
    北綱圏北見文化センター,鶴岡アートフォーラム 

                   (気仙沼, 函館, 北見, 鶴岡)
   
2008 トンちゃんアート展 ハコビでBOO!! 

    北海道立函館美術館         (北海道 函館市)
 

    いわての現代美術と出会う、夏。

    (ISHIGAMI ART Walk part2,2008)
    岩手県立 石上の丘美術館    

                           (岩手県 岩手町)
2009 個展 街かどギャラリーおおつか  

                            (岩手県 東和町)
2010 かば展 ブックギャラリーポポタム    

                             (東京都 池袋)
    センダイモリオカアート・プレ展 SARP

   (仙台アーティストランプレイス)      (宮城県仙台市)
2011 個展 ”をかし菓子!”展  SARP

   (仙台アーティストランプレイス)  

                            (宮城県仙台市)
    センダイモリオカアート展 

    宮城県美術館県民ギャラリー      (宮城県仙台市)
 

    '70'80年代生まれの美術家たち 

    IMAここで展 岩手県立美術館 

                            (岩手県 盛岡市)

  
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 ⇒ 〒982-0243 宮城県仙台市太白区秋保町長袋

字菅刈山44-3