画家 加川広重さん | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。



本日は素敵な作家をご紹介いたします。


画家の加川広重さんです。


加川広重さんの作品のテーマ、作品制作の思いについて

インタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。
 


お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。 


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『雪に包まれる被災地』 2011年 高さ5.4m×幅16.4m 
              せんだいメディアテーク     



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
『星団の誕生』  2010年 高さ5.4m×幅16.5m 




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
『太陽と星の間』 2009年 高さ5.4m×幅16.5m 



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『全天星座図』  2008年 高さ5.4m×幅16.8m 

仙台市天文台




日下
先日の加川さんの新作と個展について、たまたまテレビのニュース番組で

取り上げられているのを、とても興味深く拝見いたしておりました。
あらためまして、加川さんの制作テーマについてお聴かせ下さい。



加川さん
僕が巨大な水彩作品を作り始めて今回で13作目になります。

はじめは大きい画面だからこそ表現できる、一枚の絵の中の様々な変化を

描いていました。

例えば画面の左右で時間が変化したり、画面の左側が屋内、右側が風景で

その境目があいまいだったり。そんな、一枚の絵の中での時間や空間の変化を描く事に

興味がありました。
 
近作は色彩や形が大画面で表現された時に持つエネルギーに興味を感じて

制作しています。同じ色や形でも、描く大きさが違うと全く別物になります。


僕が描いている内容は例えば、風景だったり、星座だったり、その都度違います。

例えば、仙台市天文台で発表した作品は、200色以上の絵具を使って55個の星座を

描いています。原色に近い多数の絵の具でたくさんの形を1つの画面の中に描くと

どんな迫力になるのか、それを追求してみた作品でした。
 
その次に描いた作品『太陽と星の間』では、前作とは逆に一色の統一された夕焼けの色で

描いています。

大画面が統一された色彩で描かれた時の効果を最大限に生かしてみようと考えて

制作した作品でした。

 

先の仙台市天文台で発表した作品『全天星座図』は、日本から見える一年間の星座が

ほとんど描いてあります。これは天体の球面を平面図に展開しているもので、

画面の左右がつながるようになっています。これは星座の位置も正しく、

本当の星座図としても楽しめるので、天文台で展覧会をやることになりました。

僕が参加してのギャラリートークも含めて、天文台の学芸員さんが僕の絵を使って

星座の解説をするイベントを行いました。



日下
展覧会を天文台でやるというのは加川さんご自身で企画されるのでしょうか。



加川さん
はいそうです。

この展覧会をした2008年というのは、仙台市天文台が西公園から錦が丘に

移ったばかりで来場者がとても多いと話題になっていましたので、ふと思いついて

天文台に連絡を取りました。ただこの作品は高さが5.4mあるのですが、

天文台の天井は5mで斜めに展示しました。



日下
そうですか。作品も重いでしょうし、物理的にも大変だったでしょうね。



加川さん
そうですね、作品展示については、作品のいろんなところにひずみがきたり、

力がかかったりしてとても大変でした。天井の高さが足りないので、壁の垂直面に対して、

画面を斜めに立て懸ける展示作業がとても大変でした。



日下
こういった企画の提案は、作品を作る前になさるのでしょうか。

それとも作品が出来上がってからなさるのでしょうか?



加川さん
『全天星座図』はもともとせんだいメディアテークでの自分の個展の為に制作してまして、

その時にふと、星座図を描くのなら仙台市天文台と何かできないかなと思いつきました。
 

本当はせんだいメディアテークの個展会場に天文台の学芸員さんを呼んで

星座の解説などをしてもらうという案でしたが、天文台では学芸員さんの派遣を

しないということだったので、こちらから作品を運んで展覧会をさせて頂くことに

なったんです。

 
 
アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
『雪に包まれる被災地』 の前でのコンサート 2011年


  

日下
加川さんはよく巨大な水彩画の個展会場で音楽の方とコラボレーションされていますが、

このことについてきっかけや思いをお聴かせ頂けますか。



加川さん
はい。

ひょんなことからメゾソプラノ歌手の後藤優子さんと知り合いになりました。

この方は楽天球場で国家斉唱をするような実力もあり、活躍されている方です。

それで、僕の作品が大きいのでその前で歌ってみたらということをお話しをしていたら

現実化したわけです。ピアニストの菅野静香さんにも参加して頂いています。
 
仙台市天文台での展示の時は宮沢賢治の『星巡りの歌』を歌って頂きましたし、

今回の個展での震災追悼コンサートでは、自然の脅威を感じる歌や『千の風になって』

など悲しい感じの曲を演奏してもらいました。

僕の絵が大きいので、一緒にやると背景に見えるんですよ。 

これからは、舞踏やオーケストラともやってみたいと思っています。



日下
実際に実現できそうな感じがしますね。



加川さん
はい、そうなるといいですね。今までは作品と声を合わせていましたが、自分の絵からは

交響曲的イメージも感じられると思っています。

今回の個展で発表した新作は震災を描いたものだったので、震災からの復興を願う、

オーケストラとのコラボレーションコンサートができればと思っています。

仙台メディアテークでは大音量の演奏はできないのですが、ホールで巨大画をバックに

大音量の交響曲をやったらすごく感動的なものになるのではないかと思っています。



日下
素晴らしいですね。絵画と他の芸術のコラボレーションが出来ると、お互いに

何かもっと展開ができるのかも知れませんね。



加川さん
はい。絵や音楽が単独でやるよりも、それが一緒にやることで五感にもっと訴えるので

様々に展開する可能性があるでしょうね。ただ、むやみやたらに合わせるのではなく、

見る人に共感するように曲をちゃんと選んでやらないととは思います。


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『雪に包まれる被災地』 2011年 高さ5.4m×幅16.4m 
              せんだいメディアテーク   



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

同作品 部分 浮かび上がる町並み



日下
さて、今回は、東日本大震災のことを巨大な水彩画で表現されましたね。

このような災害をテーマに制作するのは、作り手としても心が痛むものだと思うのです。
 

制作に取り組まれた思いをお聴かせいただけますか。



加川さん
はい。巨大水彩展をやることは震災以前から決まっていました。

何を描こうかと考えていたところあの震災が起きてしまって、

なんだかんだと2、3カ月過ぎてしまいました。

7月位になってそろそろ描き始めねばと思った時、震災を描く選択肢はあったけれど、

なかなか踏み出せなかったのです。


というのも描く側としては覚悟がいりますし、僕自身は蔵王町に住んでいて強烈な被災者

ではないので、本当に被災している方々に対して、適切な言葉かどうかわかりませんが

不謹慎というか気がひけるものがありました。


けれども時間が経ってくると心にメラメラと湧きあがるものがあって、東北を中心に、

日本全国でいろんな人の悲しみがあり、最初は自分も悲しかったのですが、

だんだんと悔しくなってきたんです。

 

それで、僕は描くことができるのだから、多少不謹慎でも失礼が無いように

しっかり描こうと決めて石巻市や亘理町に取材に行きました。
 

取りかかる時、来年、再来年の方が描きやすいとは思ったのですが、来年描いたのでは

自分の感覚や記憶が色あせてしまい違うものができてしまうので、

今回やってやろうと思いました。



日下
実際に震災をテーマに描いていらっしゃる最中に、苦しいとか何か思うことは

ありましたでしょうか。



加川さん
はい、さっき言ったようなことがずっと気になっていて、実際に被災した方から

『こんなもんじゃない!』とか『お前にわかるのか!』と言われるのではないかと

いうことが常に頭にありました。


しかし直接大きく被災はしていないけれども、この震災の悲惨さ大変さを足元には

感じていたので、代弁ではないですけど、自分がやれる巨大な画面で一生懸命やれば

意味のあるものが生まれるのではないかと考えました。


描き始めてからも作品の最終的な終着点は変化していきました。

被災者に希望を与え、励ますような物を描き入れることも考えました。

しかしそのような要素は最終的には何も描きませんでした。
 

あの時に感じたリアリティーを、それが悲惨で絵を観に来られる被災者の方が

傷ついたとしても、そのまま描き上げることが大事だと結論を出したからです。

『希望』とか『明日へ』ということを排除して、悲しみ、空虚感、あの時のリアリティーだけを

描くことだけに決めたんです。

 

それともう一つ苦しいと感じたことというのは、作家というのはどうしても描いたり、

ものを作る時に上手くいくと気分が良くなるものですが、この絵の場合はそれが

上手くいった時に喜んでいいものかどうかということがありました。

描くことの楽しさ、喜びを感じないように自分を追い詰めて描きました。

 

それとこういうテーマを描く時に、直接的に描写せずに抽象的表現にするという手も

あります。

見る人は抽象を想像していたようですが実際にはかなりの具象画なので意外だと

言われました。

僕自身も、作品がかなりの具象画なので、見る人が思い出して悲しくなったり、

つらくなったりするんじゃないかと思っていました。



日下
でも、展示してみると違って、見る人が癒されたのではないでしょうか。



加川さん
はい。結構テレビで取り上げて頂いたのでたくさんの人が見にいらしたんですね。

それで深刻な被害を受けた方もいらしたんです。

僕は震災を描いたことで、クレームというかお叱りを受けることを覚悟していたんですが、

みなさん『よく描いてくれた!』という感じだったんです。


『自分の代わりに伝えてほしい、作品を残して欲しい』とか、写真や言葉で

伝えるということはあるかもしれませんが、こういう大画面の絵画で伝えるという方法は

あまりないので 

『自分は表現方法を持たないので、いろんな所に展示してこの震災のことを伝えてほしい』

ということを言われました。


結局、展覧会の間、一度も自分が覚悟していたような言葉をかけられることは

ありませんでした。


僕は自分でこの作品は悲惨な絵だと思っていたのですが、見る人は悲惨な絵だと

思っていないんですね。絵の中で雪を降らせているという印象が絵全体の印象に

何か作用しているのだと思うのですが。見る人は悲惨から入ってきていないんです。



日下
そうですか。今回の絵では、これまでの加川さんのヴィヴィッドな色彩が一転して

グレイッシュな画面になったこと、加川さんの表現というフィルターを通して、

私もまたこの災害の重さを心でとらえたところがあります。
 

この絵は工場らしき建物の内側からの視点で描かれていますね。

これを見ていると始めは震災の津波のときの映像など、たくさんの悲惨な映像の記憶が

呼び起されて怖いのですが、ずっと見ているうちにこの建物の外、さらに奥にある風景に

意識が向くと、何か広がりや淡い光に希望を見いだそうとする自分がいます。
 

加川さんご自身、この絵画の風景は、出来事を冷静に俯瞰して、客観性を持って

描いたのではないかと感じますがいかがでしょうか。



加川さん
そうですね。ずっと描いていくと、毎日絵に向き合い続けるので、手を入れているうちに

徐々に客観性や普遍性を帯びてきているということだと思います。

絵の中に描いていることも、ものが壊れたとか、でっかい船が陸に乗り上げたとかいう

物理的破壊よりも、もっと精神的な喪失感を描こうとしました。


この絵では建物の屋根が壊れているので室内から屋外が見えたり、室内なのに

雪が降ったりしています。

船が陸にあがり、津波により陸と海の境界があやふやになったり。


日常の常識の逆転がいっぱい、地震と津波によって起こって茫然とします。

物が無くなった壊れたという物理的な喪失感ではなく、日常の崩壊を

目の当たりにした時に感じた精神的な喪失感を描きたいと思いました。


絵に描かれている一番のポイントは、中心部の工場内の地面に津波に襲われた

町並みが浮かびあがっているところです。

これはヘリで上空から捉えた映像を見た時に感じたことが元に

なっているのですが、津波に流される家々があまりにもろく模型のように見え、

ものの大小の感覚がわかならくなったあの時の感覚を表現しています。


画面の中で、巨大な船が奥にあり小さな家が手前にあるような視覚的状況を作りながら、

日常の感覚の崩壊の関係を描こうとしたということがコンセプトにあります。


あの日は、自然の暴力ともいえる強烈な地震と津波のあとに急に雪が降ってきて、

あれだけ静かに降ってきて、破壊しつくされた景色を白く覆っていくという、

その自然の対比ですよね。自然現象の激しさと静けさの。


僕はとにかく雪を描こうと思いました。

その雪によって、あの時のことをリアルに伝えられるというか、あの時降った雪を

東北の人はみんな経験しているわけで、雪であの時を思い出す、つながることが

できると思いました。



日下
そうですか。観客の方からは、いろんなところで作品を見せて、伝えてほしいという声も

あったそうですが、この作品を他のところでも展示することは考えていらっしゃいますか。
 


加川さん
作品が大き過ぎて、展示出来る場所がかなり限られているので、今のところは無いですね。
展覧会の時に知り合った方で、考えて下さっている方もいますが、

まだ現実味を帯びていないです。



日下
今までも、これからもですが作品制作を通して伝えていきたいことがありましたら、

教えて頂けますか。
 


加川さん
僕の場合は大画面がまず先にあり、何を描くかを考えています。

いつもその時々で考えていますが、そのうちに絞られて行くかもしれません。

大きな画面だがらより伝えていけることはまだまだあると思うし、大画面だけを

描き続けている人は少ないのでこれをやり続けられると思います。

大画面だと臨場感、空間の強さが違うので、芸術の幅を広げられると思っています。


今までの僕の絵はイメージの世界だったのですが、今回の震災はかなり具体的な内容で、

それが見る人にもよく伝わったようです。

あの震災の絵をきっかけに何か見えて来るものがある気がするので、来年もう一度

違った角度から震災の絵に取り組んでみたいとも考えています。



日下
そうですか、実は以前から私は、この大画面の絵画で私は加川さんは世界に

行けるのではないかと思っているのですが。



加川さん
実は、今回の作品をニューヨークに出したいと画策して下さっている方はいるのですが、

まだ現実味を帯びていません。

僕も、今回の作品はあの時のままズバッと、感覚的にしあげたので、いろんな所に

持って行って見せたいという気がしています。



日下
この作品をいろいろな方に伝えられたらいいですね。私がいうのもなんですが、

今回、加川さんの絵をご覧になった方々というのは、きっと絵によって痛みを

分かちあえて、だから癒されたのではないでしょうか。 

いろんなところで展示がされるように祈ってます。


さて、加川さんのこれからの活動予定、抱負などありましたらお聴かせ下さい。



加川さん
先日、巨大な水彩画の個展を終えたところで、今は具体的な展覧会予定はありません。

次の巨大水彩展は来年の正月にやります。次は10回展なので張り切ってやります。
これは、自分でコントロールできるイベントなので。



日下
では、来年に向けてですね。では最後に、加川さんから、次にリレーして頂く

作家さんをご紹介頂けますか。



加川さん
菊池咲さんをご紹介したいと思います。現在芸工大大学院日本画科2年で、

3月に銀座で個展を控えています。

作品は日本画でユニークな動物などを描いていて、評価が高い学生です。
  
 


日下
加川さん、今日はお忙しい中、お話をお聴かせ下さいましてありがとうございました。
 

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加川広重さんとは、もう15年ほど前、現代造形0―ゼロー展というグル―プ展

に参加して出会いました。


このグループ展は、学び場美術館でも紹介させて頂きました

アートヒーリングの畠山信行さん⇒http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-10993156748.html
が主催される仙台美術協会が催した展覧会で、10年にわたって開催されていて、

そのうちの数回をご一緒させて頂きました。


その頃、加川さんは油彩の抽象画を描いていらっしゃいましたが、8年ほど前からは、

巨大な水彩画に取り組まれ、毎回驚きの新作を発表し続けてこられ、

その都度、注目を浴びていらしゃいます。

私が本当に、宮城県から世界に羽ばたいてほしいと思うアーティストのお一人です。


みなさんもぜひ、加川広重さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。


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◆加川広重さんのホームページ
  
 ⇒ http://www.kagawahiroshige.com/


◆仙台市天文台のインタビューも受けられています。
 
 ⇒ http://www.sendai-astro.jp/square/blog/2008/12/post-15.html


◆加川広重さんに連絡を取られたい方は

コチラへどうぞ。

 加川広重
 kagawa@senbi-art.com 070-6659-4370