No.13 鍛金作家 嵯峨卓さん | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の

「彫刻工房くさか」日下育子です。

 

 

本日は素敵な作家をご紹介いたします。

 

 

鍛金作家の嵯峨卓さんです。

 

 

嵯峨さんの作品のテーマ、制作方法、作品制作の思いについて

インタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。


 

お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。

 

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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『バルーンペンギン大空回帰Ⅲ』


 

 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『ひっくりかえる』


 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
『うさみみはんがー』 

 


 

日下
嵯峨さんの制作テーマを教えて頂けますか。

 

それから制作の時に工芸とかファインアートの区別を意識されることはありますか。

 

 

嵯峨さん
制作する時に工芸とかファインアートとかの意識はしないです。

技法として工芸の技法をやっているというのはありますが。

 

作り込み方として工芸とファインアートの違いというのはあるので、

そういう意識の違いはありますが、作品として工芸とかファインアートとかの

線引きはないです。

 

テーマとしては金属の冷たくて、硬くて、重くてという一般的なイメージを

覆すものを作ることです。

 

つまり大きいテーマは温かく、柔らかく、浮遊感があるものを作ることです。

 

 

日下
嵯峨さんは動物の作品をたくさん作られていますが、動物よりも温かく、

柔らかく、浮遊感があるものという感覚がテーマなんですね。

 

 

嵯峨さん
そうです。

動物を作るというのは、例えばそのフォルムを借りて柔らかさを表現する

ということをテーマとして狙っているのです。
 

以前は抽象形態を作ることが多かったのですが、それだと考えている時間が

長くなっています。

 

考える時間が長いということは作品の数も作れませんし、

お金換算ができないということで、あまり作らなくなりました。

 

だから動物のような具象というのもあります。

具象だとアイデアが尽きることなく次々につくれるということがあります。

 

花入れなどの実用の作品も作っていますが、その時も柔らかいものを

意識しています。

 

動物の時は動物を媒体に曲線とか、肌の柔らかさで金属臭くないところを

狙っています。

作る側としては見る側の人が思っているより、金属は自由な素材なんです。

時間をかければかたちになりますから。

 

 

日下
素材に対するこだわりや思い入れを教えて頂けますか。

 

 

嵯峨さん
僕の作品は銅と鉄を使うことが多くて、中にはステンレスを使う作品もありますが、それは割合的には少なくて、銅を最も多く使っています。

 

銅と鉄の組み合わせをする時、鉄には色の問題があって、銅イオンの影響で

鉄が錆びてしまいます。

 

鉄では素材そのものの色を活かそうとすると錆びるので、

塗装で息の根を止めてしまいます。

 

油焼きとか錆びの色もいいのですが、お客さんは錆を嫌う方が多いので、

たいていは塗装して使います。

色よりも強度を求めて鉄を使うことが多いです。


それから真鍮と銅の組み合わせをする時は、すごく素材の色の意識があります。

一つの金属でつくると色みがなくなるので、素材から出る色を活かして使います。

 

 

日下
『塗装で息の根を止める』という言葉も面白いですね。

 

 

嵯峨さん
そうですね。

でも本当に呼吸している意識があるんですよね。

 

鉄も呼吸しているから錆びるんです。酸素で変化していくのが金属ですから。

 

 

日下
そうですか。

嵯峨さんの作品は色も含めて面白いですよね。

 

 

嵯峨さん
そうだと思います。

作品のほとんどが素材で出していく色を使っています。

 

鉄だけがさっきお話したように塗装をします。

 

素材で出していく色というのは、例えば銅であれば腐食させて緑青をふかせたり。

 

他には硫化仕上げといって、例えば銀の指輪をして温泉に入ると

黒くなってしまうという反応があります。

 

この黒化もそのものの素材でないと出せない色なんです。

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『ペンギン先生』


 


日下
嵯峨さんの作品で『ペンギン先生』なんかは、そういう意味では見どころ満載の

作品ですね。

 

 

嵯峨さん
そうですね。

同じ素材でも色や質感が違うという意味では、見どころ満載です。

 

 

日下
嵯峨さんの作品は、制作にどのくらいの時間がかかるのでしょうか。

 

例えばその『ペンギン先生』などは?

 

 

嵯峨さん
『ペンギン先生』でもシンプルなものと複雑なものがありますが、

例えば『バルーンペンギン大空回帰』という作品はとても手が込んでいる

作品ですが、それでおおよそ半年ほどはお時間を頂いています。

シンプルなものでおおよそ3ヶ月ほどは見て頂いています。

 

 

日下
鍛金という技法について、少し詳しく教えて頂けますか?

 

 

嵯峨さん
『鍛金』を『たんきん』と読める人が少ないくらいに金属の技法というのは

あまり一般の人に知られていないかもしれません。

 

僕の個展では必ず『鍛金の仕事展』とうたっています。

工芸の金工には鍛金(たんきん)、彫金(ちょうきん)、鋳金(ちゅうきん)

という三つの技法があります。

 

鍛金というのは鍛冶屋さんの技法です。

 

無垢の塊を作るものもありますが、僕がやっているのは鍛金の中でも、

金属の板を叩いてかたちをつくる絞りという技法です。

 

鋳金というのは型を作ってそこに溶かした金属を流すものです。

 

この鍛金という技法は、金工の三つの中でも一番手間がかかるんです。

 

だから職人さんも少なくなってきていて、職人が少なくなっているということは

道具屋さんも減ってきているので、僕は道具から自分で作っています。

 

この技法でなぜここまでやるかと思うこともありますが、鍛金でしか出せない

かたちと質感があります。

 

鍛金というのは、全て自分の手の中で出来ていく、

かたち作っていく実感があります。

 

例えば鋳金であれば金属を流し込んでいる間とか、陶なら窯の中とかのように

手を離して出来る部分がないんです。

 

鍛金でやっていると、自分で操作しないかたちが無いというのが魅力です。

 

 

日下
私がやっている石の彫刻もそういうところがあります。

自分が手をかけたこと以外に、勝手に変わる部分が無いんですよね。

 

 

嵯峨さん
そうですね。作っているという実感が強いですね。それに一度作った作品は

壊れないということがあります。

 

 

日下
嵯峨さんが鍛金をはじめられたきっかけをお聴かせ頂けますか。

 

 

嵯峨さん
最初は鍛金を知らずに、大学の工芸の金属を選んで入ったのです。

 

僕が行った多摩美術大学では、工芸は金属かガラスの二つだったのです。

それでガラスだったらくるくる巻いてプーっとふくらませるような、

何となくのビジョンはありましたが、金属は板を溶接するぐらいのイメージしか

ありませんでした。

 

それでわからないからやってみようと思って、やってみたらドはまりしたんです。

 

若い頃はマイナーなものに惹かれるところが強かったですし。

 

 

日下
嵯峨さんの作品には、見るだけでなく生活の中で使うこともできる作品も

多いと思いますが、それらの作品制作への思い入れをお聴かせ頂けますか。

 

 

嵯峨さん
僕がやっているのは工芸の技法なので、暮らしの中のものという技法

なのですが、僕の作品には大きく分けて二つの作品があります。

一つはペンギンのようなオブジェ的なものです。

 

これは見て楽しい、面白いというものです。特にメッセ―ジ性はありません。

もう一つは、オブジェ的な実用品で、例えば花入れとか燭台です。

 

これはデザインとして割り切って作っていて、かたちとしていい、

使っていいもの、クラフト的なものです。

 

僕にとってはどちらも制作の両輪で、特に大作のオブジェを作った後は、

使えるものを作ります。

 

生活に取り入れてもらおうという意識は無いのですが、どちらもやらないと

食べていけないというのはあります。

 

小さい作品だけでは、作れる数に限界がありますし、大きいものは

当たり外れがありますから。
 

 

日下
そうですか。

嵯峨さんの場合は無理に生活に取り入れようと意識していないのが

いいのでしょうね。

作品にこびたところがないですし、

使ってもらおうという意欲満々な匂いはないですものね。

 

 

嵯峨さん
本当ですね。

そうだと作品も面白くなくなってくるかもしれません。

 

使い勝手がいいかや値段を突き詰めていくと、技法として

面白く無くなっていくところがあります。

僕がやっているのは、あくまで贅沢な中での使っていいものなので。

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『ぴょん。と』

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『魚吊り』




日下
それから私は嵯峨さんの作品では、動物でもかたち全体ではなく

部分を切り取って表現しているものがありますが、その部分と空間の関係が

面白いと思っています。

 

そういう作品についてお聴かせ頂けますか。
 

 

嵯峨さん
うさぎの作品は柔らかい布っぽい感じで、手を入れる人形のパペット的な

かたちを意識しています。

 

これは板を叩いて作っていることを見せるためにこうしているのであります。

というのはペンギンのようにどこもかたち開いていない作品は、

板を叩いて作っているかたちといっても、伝わりにくいのです。
 

 

日下
確かに嵯峨さんの鍛金作品はかたちとしてみると塊でもあり、

でも中身は石と違って空洞というのが彫刻として不思議な感じですね。

 

 

嵯峨さん
仰る通りです。

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『だちょう』

 

日下

ダチョウの作品などもかたちの切り取り方が面白いですね。

 

 

嵯峨さん
これは剥製のイメージで、本物の剥製のパロディーでもあります。

 

 

日下
ダチョウの作品などはどのくらいの重さがあるのでしょうか。

一般の家庭でも取り入れられるものでしょうか。

 

 

嵯峨さん
ダチョウの作品は重さが6.5キロです。石膏ボードの壁は駄目ですが、

壁でも裏に梁などのあるところでしたら、木ねじ1本でかけられます。

 

 

日下
嵯峨さんの動物のかたちはとてもリアリティーもあるのですが、

一つ一つ観察したり、デッサンして制作されるのでしょうか?

 

 

嵯峨さん
初期にはデッサンをして作っていたこともありますが、今は図鑑などから

イメージして作ることが多いです。

本当にリアルにつくると実は気持ち悪いということがあります。

なので僕の作品はリアルではありますが、愛嬌があり可愛らしく作っています。

 

 

日下
たくさんのお話をお聴かせ下さって、ありがとうございました。


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嵯峨さんとは、10年以上も前に宮城県白石市で行われていた、

白石野外彫刻展~見なれた空間からの発見~

という展覧会でお互いに出品者として出会いました。

 

とても素晴らしい技術と愛らしい作品に魅了されました。

 

嵯峨さんは蔵王町の自然豊かなところに工房を構えて制作していらっしゃいます。

 

作品展は個展としては年間2~3回開催なさっていて、その他の2人展や

数人でのグループ展を含めると年間5~7回だそうでとても精力的に

活動していらっしゃいます。

 

場所もいろいろな場所でなさっているそうですが、仙台では毎年

開催されているそうです。

 

皆さんもぜひ、嵯峨さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

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◆ 嵯峨さんの記事が掲載されているブログ
  

   くろすろーど
  ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/crossroadatuko/20042688.html
  
   八ヶ岳 ギャラリーブース
 

 
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以下嵯峨さんから、金工(きんこう)の技法について

嵯峨さんより説明の資料を頂きました。


■ 技法について

鍛金とは、金属の板や棒を金槌等で叩き鍛えて加工する技法です。

いわゆる鍛冶屋さんの仕事です。
私はその鍛金と呼ばれる技法により作品を制作しています。

金属工芸技法(金工技法)は下記のように分類できます。


金工技法

●彫金(ちょうきん)~鏨(たがね)という道具で金属を彫る、叩句などして

成形する技法。

アクセサリー製作に用いられることが多い技法です。

●鋳金(ちゅうきん)~高温で溶かした金属を型に流し込んで成形する技法。

鉄器やブロンズ彫刻など。

●鍛金(たんきん)~鍛金技法は以下の三つに分類することができます。

 ○ 打ち出し技法~金属の板材を叩いて部分的に地金を延ばすことで

三次元の立体にする技法。
 
 ○ 鍛造技法~いわゆる鍛冶屋さんの仕事。 

 赤く熱した金属のムク材や棒材を叩いて形を作る技法。
   
 ○ 絞り技法~日本独自の発展を遂げたといわれる技法です。

打ち出し技法と同じく金属の板材を加工する技法ですが、その方法が異なります。
 絞り技法は、当て金という様々な形状をした鉄の塊の上に、金属の板材を置き、いろいろな種類のかなづちを使いながら叩き成形していく技法です。

 

身の回りにあふれる金属の製品のほとんどは、この鍛金の技術からの応用により作られているのです。
日本以外にも絞り技法は存在するといわれていますが、日本の絞りは

独特の発展を遂げたといわれています。

 

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嵯峨さんとご連絡をお取りになりたい方は、まずは彫刻工房くさかまで

お知らせくださいませ。

 彫刻工房くさか メール i-kusaka@mnbb.jp
 電話  090-4619-7439