No.11 彫刻家 安部大雅さん | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。

 

 

本日は素敵な作家をご紹介いたします。


 

彫刻家の安部大雅さんです。


 

安部さんの作品のテーマ、制作方法、作品制作の思いについて

インタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。

 

 

お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

2004年 いわき 個展より
必然的かたち 3 / Inevitable form 3
布、木 / Cloth, Wood
120×60×10(cm)
 
 

 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
2009年 ホテル日航東京「石と華の饗宴展」

春Ⅰ / Haru Ⅰ
大理石 / Marble
23 x 65 x 33(cm)





 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

冬Ⅰ / FuyuⅠ
大理石 / Marble
40 x 55 x 28(cm)

 

 

日下
安部さんの制作テーマをお聴きしたいのですが。

 

 

安部さん
僕は自分のテーマや主張を
あまり出さないようにしているんです。

 

何故かというと、立体物を体感してほしいという思いがあって、

立体物の中に潜んでいる見えない骨みたいなものを作っているんで。

 

でも、その骨とかをあまり感じてくれない人がお客さんとして好きで、

子供が寄って来るような感じで見てもらえるのが一番嬉しいです。
 

テーマというより、好き嫌いで判断してもらっていいと思っています。

 

 

日下
そうですか。

私が初めて安部さんのいわきの個展で作品を見せて頂いた時に印象に

残ったのは、重なった石板がねじれながら中に空間をもった作品です。

 

そのあとには、お花とのコラボレーションの作品を発表されていましたね、

それはとても素敵で印象に残っています。

 

 

安部さん
僕はいつも、その展示する場所の中で
何ができるかを考えているんですね。

花とのコラボレーションでは、花と言うのは彫刻にとっては強敵なんですよね。

 

それでどちらかだけを主張させないということで、普段とは違ったものを

作ったんです。

石のかたち自体を見せるというよりも、自分の中で石と花が一つのこととして

話かけるものを作りました。
 

テーマというのは作家の都合だと思うんです。

制作の時の大変さというのは作家が手をかけたくてかけたもので、

やはり作家の都合ですよね。

そういうものはあまり出さないようにしています。 

 

コンセプトもそれを分かりたいという方が寄ってくるもので、

自分からはあまり出さないんです。

 

そのほうが芸術を気軽に楽しめると思います。

 

 

日下
今現在の活動状況や制作への思い、
展望を聴かせて頂けますか?

 

 

安部さん
今はインスタレーションの作品が多いです。

 

インスタレーションというのは流行の表現でもあるし、公共団体が

お金をかけず実施するイベントなどにも多くみられるものです。

 

作り手にとっても、石に比べて消えるもので気楽な素材で表現できる

というところがあります。

 

本当は住空間やホテルでの展示、設置をやりたいところではありますが。

 

 

日下
住空間での展示について詳しく聴かせていただけますか?

 

 

安部さん
イタリアから帰国してすぐに
銀座での個展といわきでの個展をしました。

 

でもそれらの空間が息苦しく感じられたんです。

 

そういうギャラリーには興味を持っている一部の人しか入って来ないんです。

京都のギャラリ―でやった時は、見る人が気が付いたら入って来れる空間を

意識して展示したんです。


 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

2007年 京都 個展より





 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

2007年 京都 個展より


 

 

日下
そういう展示の場所というのはご自身で探すのですか?

 

 

安部さん
そうです、自分でいろんな所を探して歩いて、
自分で『ここでやらせて下さい』と

言いに行くんですね。

 

それで京都の時は、本当に住んでいる空間をイメージ出来る場所だったので

そこを選んだんです。

 

 

日下
自分で見つけて交渉するというのは
とても精力的で素晴らしいですね。

 

その空間で展示したときのお客さまの反応と言うのはいかがでしたか?

 

 

部さん
すぐに売れるというより、
『他の場所でやってみてくれない?』

というオーダーが来ることがあります。

 

それは個人の方、例えば経営者などがご自身の会社の中に何かして・・・

というかたちのオーダーで。

 

 

日下
そうですか。それは素晴らしいですね。

 

私も生活空間で彫刻を楽しんで頂きたいと常々考えています。

 

安部さんは日本の学校を卒業後、

8年間イタリアでの制作をしていらっしゃいましたね。

 

日常で芸術を楽しむ姿勢というのは、イタリアに行く前後で変化はありましたか?

 

 

安部さん
あっ、ありましたね。

 

イタリアに行ったのは、はじめは石の技術を学びたいと思って行きました。

 

それにイタリアは石が豊富ですから、

現地で制作した方が安いという考えがありました。

 

そこで制作していた時の自分の感覚というのは、粘土細工を子供が楽しむのと

同じような感じで、あまり見せるということを考えていませんでしたね。

でも向こうの人は、誰もが当たり前に芸術を評価出来るというのを見てきて、

日本の彫刻に向ける意識レベルの低さを感じました。

 

それで自分も含めて彫刻の文化をどうやって育てるのかということを感じました。

 

自分も受け手のそれをしないと、この業界の限界を感じたんです。

 

 

日下
私から見ると安部さんは、
いろんな活動をとても積極的にのびのびやって

いらっしゃって、いいなぁと感じます。

 

 

安部さん
はい、僕もそう思います。

 

日本の大学を出ていないからかもしれません。

 

イタリアから帰ってきたときは日本のことを知らないのがコンプレックスだった

けれど、今はそれが自分のやり方だと思えるんです。
 
展覧会では生活の中で楽しむ彫刻をお客さんに伝えて、
質問をしてくれた人が

いろんな仕事をさせてくれるんです。

 

例えば倉庫の壁面に赤いものをつけた作品は『何だ、あれ?』というものを

強引に作ってしまえ、というオーナーさんの意向で制作しました。 

 

依頼してくれた方がすごいと思います。

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

東京都江東区辰巳  

月島倉庫株式会社 辰巳倉庫  2009年

 

 

 

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
里山アート展 2009年

 

土のリズム / Rhythm of the sat
建築廃材  90×850×180(cm)
新潟県阿賀町


 

安部さん
僕の抽象的作品の制作では、
点が線、線が面になっていく作り方を

ずっとしていて、階段のかたちとかは、とてもかたちをわかるきっかけ、

ヒントになると思ってます。ちょっと規則正しいものやリズムがあると

とっかかりやすいと思います。
 
幾何学的なものをやりたいというよりは、
本当にやりたいことはもうちょっと違って、

一瞬でもこの形ってこう成り立っているのだというのが

伝わったらいいと思っています。

これを分かってほしいということは表に出さないけど自由に見てほしいです。

 

 

日下
今のお話をお聴きしていると、
私は安部さんのそういう規則正しさやリズムを

持ったかたちに生命感とか、いきいきしたものを感じるのですが、 

最初に仰っていた『立体物の中に潜んでいるかたちの骨』というのは、

そういうもののことではないでしょうか?

 

 

安部さん
ありがとうございます。
そう言ってもらえると嬉しいです。

テーマはあまり表に出さないと言いましたが、

そういう意味で必然性をテーマにしているところはあります。

 

必然的に出来ていくかたちです。

例えば富士山は、だれもがいいかたちだと思うけど、

どうしてその形が成り立っているのか分かればすんなりと受け入れられる。
そういう風にしていかないとなかなか受け入れられないのは

抽象彫刻の宿命だと思いますが。

 

 

日下
私は、以前から彫刻って読みものみたいなもので、
読み解く面白さがあると

思ってきたのですが、安部さんの彫刻ってそうですよね?

 

 

安部さん
う~ん、どうでしょう。

きっかけがないと作家の独りよがりになってしまって、見る側が歩み寄って

来れないですよね。見せ方も含めて。

 

 

日下
安部さんの展示というのは、場所も含めて、

見る人に対する提案があっていいですよね。

 

 

安部さん
ええ、本当に毎回悩みながらやっています。

 

 

日下
安部さんの今後の活動予定を教えて下さい。

 

 

安部さん
今年は、アースワーク的なインスタレーションを
多くやっています。

 

10月15日より岐阜県郡上市のフィールドミュージアムというところで

「歌となる言葉とかたち展」に参加します。

 

これから設営に行きますが野外でのインスタレーションを予定しています。

 

同じく10月15日より新潟県阿賀町にて、毎年恒例の「里山アート展」に参加します。

 

かたちは、石彫作品とはもっと違う感じで、素材もチープなものを使っています。

 

場所に対する演出として、彫刻そのものよりはもっと見る人に歩み寄って

外に出て行っています。

イベント的な環境で体験型の作品を展示します。

 

 

日下
安部さん、お忙しい中、たくさんお話を聴かせて下さって
ありがとうございました。


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私が安部さんと出会ったのは、2004年の私の個展に安部さんが

見に来て下さったのがきっかけです。

 

たまたま仕事で宮城にいらしていた安部さんが人からお聞きになって、

仙台市博物館ギャラリーの個展会場を訪れて下さり、

そこでお互いに彫刻のお話をしました。

 

翌年は私がいわき市小名浜のギャラリーで開催されていた個展を見に伺いました。

 

安部さんは東京の美術専門学校を卒業後、8年間イタリアで制作発表の

活動をしていらっしゃいました。

 

私は生活空間で彫刻を楽しんで頂きたいと考えているのですが、

安部さんもまたそのことを提案する個展・展覧会を精力的に開いていらして

とても共感しました。

 

皆さんも、ぜひ安部さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか?


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◆ 安部大雅さんのホームページ
  ⇒http://impronto.net/

 

「歌となる言葉とかたち展」

  会期 10月15日(土)~11月20日(日)
  会場 フィールドミュージアム 
     

 

〒501-4608 岐阜県郡上市大和町牧912-1
     ・TEL 0575-88-3244  ・FAX 0575-88-4692
     ・開館時間:am9:00~pm5:00(営業時間は施設ごとに異なります)
     ・定休日:毎週火曜日(祝祭日の場合は翌日)及び年末年始

 

◆ 「里山アート展」

  会期 10月15日(土)~11月6日(日)
  会場 新潟県東蒲原郡阿賀町豊実