No.2 石の彫刻家 松田文平さん | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。

 

本日は素敵な作家をご紹介いたします。

 

石を素材に、彫刻を制作する作家、松田文平さんです。

松田さんの作品について、インタビュ―をさせて頂きました。

 

 

インタビューの中では、親しみを込めて文平さんと呼ばせて頂いています。

 

 

 お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。


 

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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『雅楽倶門』  富山県 リバーリトリート雅楽倶に設置

高さ3000×幅2000×奥行き1300(㎜)

 

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館  

 

『雅楽倶門』の原石、制作風景

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
 

『雅楽倶門』制作中の松田文平さん

 

 

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『充実した空』



 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『充実した空』  部分


 

 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

『充実した空』  部分アップ


 


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

雨引きの里 野外彫刻展での作品


 

 

 

日下
文平さんは、以前から、ご自身の作品のことを

ヤグニャ(お供え物)として作っていると仰っていましたよね?


 

 

松田文平さん
はい、ヤグニャとして作るものは無償の報酬と考えています。

その時その時の 一瞬の集中を大切にしています。

お供え物なので、作った作品がどんな評価を得るかとか、売れるかどうかとか、

そういうあとさきを考えないようにしています。

 

 

日下
つまり、それはご自身の寿命の時間を作品につぎ込む、

その結果として作品ができる、ということなのですね。

 

文平さんは以前から、ヨガを実践していらして、

また制作のコンセプトの中でも仏教の中道ということを仰っています。

 

文平さんの制作のコアになっている考えについて、

詳しく聴かせていただけますでしょうか?

 


松田文平さん
作品を作っている時、意識というものは未来に行きたがります。

未来というのは完成後、作品が評価されるかとか、どうなるかとかということです。
 

それから、心は過去に行きたがります。

過去というのは、「あの時はあんなことやって上手くいったな」 

というような思いです。

  

そういう意識と心は、未来と過去を右往左往するのですが、

その中間地点があるように思うのです。
 

私は制作の集中の時、過去も未来も考えず、

現在の一点のままでありたいと思っています。


物質の量の中に意識の上で入り、時間も無い現在の点のまま、ただ点がつながっていく、

そういうところに身をおきたい、おかなければならないと思っています。

 

 

日下
文平さんは、以前からヨガや菜食を実践していらしゃいますが、

どうして始められたのでしょうか?


 

松田文平さん
ヨガは20代はじめの頃に始めたのですが、そういうものが心地良かったのもありますし、

ヨガのものの考えかたが正常だと思えたんでしょうね。

人間が生きて死んでいく意味というものは、誰も明確には答えられませんが、

ヨガは実践哲学として、それに明確に答えています。

そういうところに惹かれています。

 

 

日下
文平さんの制作はヤグニャとして行われていて、

かたちについても、丸・三角・四角というように、

いわゆるかたちを作るのではない在り方だとお聴きしてきました。

文平さんの制作の在り方について、もっと詳しくお聴きしたいのですが。

 


松田文平さん
私はかたちを超越したもの、意識みたいなものを作りたいと思っています。

そのものを作って、そのものに見えないものを作りたいのです。

 

例えば2次元の絵画で言えば、風を描くという時に、

風ではなく風で揺らいでいるカーテンを描いてしまいがちです。

しかしそうではなく、私はカーテンを揺らす風を描きたいのです。

 

そしてその絵そのものは媒体でしかないのです。

私はそういう媒体としての彫刻ができればいいと思っています。

 


日下
なるほど~。そうでいらっしゃるんですね。

文平さんは、以前から『石は無垢だからいい』ということを仰っていましたね。

なぜ石を素材とするのかという思いについても、

詳しくお聴かせいただけますでしょうか?


 

松田文平さん
石というのは自然の素材の中でも、そんなに手法の多い素材ではありません。

手法というのは、割る、切る、磨くなどということです。

 

私のようにフォルムを作るのではない仕事をしていくと、

石の中の質量が占めるものの絶対的存在感を、

あるように見せるか、無くして見せるかのどちらかになっていくような気がします。

 

私がしているようなアブストラクト(抽象)の仕事では、

石の中と外を考えざるをえなくなってくると思います。

それで、私は石の中をとても見たくなるのです。

 

石の中へ中へと意識を集中していってそれを割ると、

それまで中だったものが一瞬にして外になってしまうという不思議さを感じます。

 

石の立方体には、無限の粒子が詰まっていて、それは果てしないものです。
ですが、同時に石の一個体としては有限のものです。

 

その空間の感覚というのは、例えば満天の星空を見上げるときに、

自分が星の中にいて星を見ているのか、

星の外から星を見ているのかの感覚がわからなくなるのに似ています。


そのように、石というのは不思議な素材だと思います。


 

日下
本当にそうですね。 素晴らしいですね。

 

ところで文平さんの作品には、

よく壊れてしまわないな、と思うぐらいに石を薄くそぎ落したものが多くありますよね。

 

素材的にも技術的には限界だと思われる薄さですが、

どうしてそれほどまでに薄い作品を作っていらっしゃるのでしょうか?


 

松田文平さん
石に向き合う時、意識は自由ですから、

体では入れなくても、意識では石の中に入っていくことができます。

石の中に入って、そこから外に向かってギリギリの仕事をしていくと石は薄くなっていくのです。


 

日下
そうなのですか~。

私もそういう制作体験をしてみたいです。

 

最近の作品について教えていただけますでしょうか。

 

 

松田文平さん
昨年、アートワークス愛宕山画廊(※)での個展で

『充実した空(くう)』という作品を発表しました。


  ※アートワークス愛宕山画廊⇒http://www.artp.ecnet.jp/bunpei_exhibition2010.html
                      http://www.artp.ecnet.jp/index.htm

 
 

松田文平さん
この作品は、石の内側の面が磨いてあります。

磨いた石の面同士を抱き合わせてから、外側のかたちを切りました。

 

この石の内側は真空状態なわけです。

これはもののプラスとマイナスの中間地点、時間もないゼロ地点を、

磨きの面同士を抱き合わせた空間で象徴しています。

 

その磨いた面を抱き合わせたところが、

外側を切ったことによって、線になって表れてきている作品です。


写真では分かりにくいかも知れませんが、

石の内側の磨き面も、外に表れた線も地軸に対して垂直なのです。

ある一点に立つとそれが本当に垂直に見えます。

 

写真では、線の方が斜めに見えますが、

実は外側のかたちの方が狂っているのです。

それは水の入ったグラスにさしたストローが水面を境に屈折して見えるのと似ています。

 

作品の角が、この立方体の外、質量をつかさどる外郭を表しています。

それに対して、質の違う線が石の中から出てきていて、それらを交差させている作品なのです。

 

こんな風に私は、モノ自体をかたちとして作るよりも、

石を媒体としてものの裏側を見せる仕事をしています。


 

日下
文平さんは、ヨガをしている生き方と、制作手法、それによって出来る作品、

それからお話になっていることも、全てが一貫していて素晴らしいと思います。


 

松田文平さん
私は、お坊さんが修業をするのと同じように、彫刻で行をしているのだと思います。

 


日下
本当に素晴らしいですね。


 

松田文平さん
私は東洋的思想をもった古風な人間です。

そういうものが日本人として血にしみついている部分があります。


日本人というのは本当は大人の文化を持った民族だと思うのです。

それを追求していくとミニマルアートのような表現になると思うのですが。

 

世界で発表するときに、そういう日本的なものを出さずに

欧米的な考え方で作品を作ろうとするきらいがあります。 

 

けれども、私はそういう日本人の感性を世界のアートの中で、

もっと堂々と打ち出してもいいのではないかと思っています。

 

これからもいろんなメディアに惑わされることなく、

伝統的な芸術と今の現代アートの、どちらからも中道的な作品を作りたいと思っています。


 

日下
そうですか。とても素晴らしいです。

文平さんの作品はどこで見られますでしょうか。


 

松田文平さん
近年、私の生まれ故郷の富山県のホテル(※)に、

自分の作品の中ではこれまでにないくらいの大作を制作・設置しました。

 

原石はモンゴル産の黒御影石で、それを2000キロ運搬して、

中国のアモイで制作してきました。

それを富山のホテルのモニュメントとして設置しました。

 

門を象徴している作品です。

ある方向から見ると、のみばつり(のみで彫った痕)の塊に見えて、

角度を変えると薄く見える錯視的な作品です。』

 

   ※富山県のホテル ⇒ リバーリトリート雅楽倶
 

 

日下
今日は、お話を聴かせて頂いて、ありがとうございました。

 久しぶりに文平さんのお話を伺えて、本当に幸せな一時でした。
 

 


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 松田文平さんとは、1996年にアーティスト・キャンプ・イン・カサマという

 石彫の滞在・公開制作のお仕事に参加させて頂き、出会いました。

 松田さんはその時のオルガナイザーでいらっしゃいました。

 
 私がこれまでに出会った彫刻家の中でも、もっとも尊敬する作家のお一人でいらっしゃいます。

 

 松田さんの作品は、単に目で見て鑑賞するというより、

 作家ご自身が制作プロセスで石の中に入っていくように、

 鑑賞者も石の中に入る「体験」をしてみる作品だと思います。

 

 皆さんも、機会がございましたら

 ぜひ、松田文平さん作品を『体験』してみてはいかがでしょうか?


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◆松田文平さんのホームぺージ  

 

◆松田文平さんが、毎年参加されている野外彫刻展
  
『雨引きの里 彫刻展』
 

◆近年、建築とのコラボレーション で、とても興味深いお仕事をされています。


 

 

 
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