夏を連想する曲と言えば(その2) | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...





私の大好きな「夏の曲」についての二つ目の記事です。



こちらはどちらかと言うと「夏の終わり」がテーマなのですが、前の記事の「ホテル・カリフォルニア」と同じく、ドン・ヘンリーの歌った



"BOYS OF SUMMER"

(ええ、もう同年齢の方にしか分っていただけないことは承知の上)






哀愁ただようヘンリーの声、カモメの鳴き声を真似たようにエコーするギターの音。

特にサビの部分("I can see you, your brown skin shining in the sun, you've got your hair combed back and your sunglasses on")を聞くと、車に乗って風に吹かれているような錯覚に陥ります。


(ちなみに私の兄もこの歌が大好きで、カラオケに行くと「あれ歌って~」と私にしばしばリクエストします。)



1984年に発表されたということで、カナダに来る前から知っていたのですが、ずいぶんと長い間、歌詞には特に気を配らずにいました。




するとしばしば、こちらのスポーツ・チャンネルやラジオで「ボーイズ・オブ・サマー」という表現が使われていることに気づきました。


主人に聞くと


「野球選手のことをそう呼ぶんだよ」



と言う。


なるほど、野球は主に夏にシーズンが佳境を迎えるスポーツだからか、と納得したのですが、それもこれも1972年に出版されたロジャー・カーンというライターの本のタイトルが元となっている、と分りました。





(↑ 私のスポーツ本コレクションにもあります)



現在はロサンジェルスに拠点を置くドジャーズがまだニューヨーク市のブルックリンにいた頃、カーンさんは番記者として2シーズン、彼らを追いかけて記事を書いていました。それから20年近くが経ち、当時チームの中心選手だった何人かを尋ねてインタビューし、カーン自身の回想も交えてまとめたものが本になった、ということです。(ちなみにベースボールに関する書籍のランキングでは常にトップに挙げられる大ベストセラーとなりました。)



というわけでこの本は「古き良き時代のベースボール」をテーマにしたノスタルジア満々の一冊になっているんですね。


しかし本のタイトルとなっている「BOYS OF SUMMER」は実は詩人、ディラン・トーマスの作品から取ったものだということが冒頭のページで分かります。






"I see the boys of summer in their ruin" から始まるこの詩は、ざっと読んだだけですが、全体的な印象としては書き手が「夏の青年たち」にあまり良い感情を持っているようではありません。

収穫のことを気にしないで遊びほうけている、退廃的な若者たち。今は良いけど、あまり先の事も考えずに好き勝手してたら後でえらい目に遭うぞー、みたいな雰囲気ですね。


なお、ネットで検索すると"Urban Dictionary"には"boys of summer"が、休みにリゾート地にやってきて、好き放題して去って行く都会の若者、みたいなニュアンスであるという説が載っています。




そんな事を踏まえてドン・ヘンリーの曲の歌詞を改めて読んだり、動画を見たりすると、確かに上に挙げたようなテーマに当たるシーンがたくさん出てきます。



曲の主人公は昔を思い出しています。


今はひっそりして誰もいない町だけれど、かつてはたくさんの若者で賑わっていて、自分も一人の女の子と恋をしていた。

今でもはっきりと目に浮かぶ。彼女は陽に焼けた小麦色の肌をしてて、髪を後ろに流し、サングラスをかけているような娘。ゆっくりと歩きながら皆に愛想よく振る舞う彼女に、主人公は夢中だった。

それからずいぶん、時間が経ってしまったけど、彼女の事は忘れられない。

昔に戻ることは出来ないけど、自分はひと夏、遊んで去って行くような奴らは違うんだ。本気だってことを見せたら彼女はきっと自分の元に戻って来てくれる、


…と思っている。



まあごく素直に取るとそういう感じの歌詞ですが、これをああだこうだとファンはまた深読みして、色んな解釈をしているようです。


中でも「ボーイズ・オブ・サマー」はイーグルスのことを指していて、ドン・ヘンリーが仲直りしたいと思っているのは女性ではなく、(同じくバンド・メンバーであった)グレン・フライなのだ、という解釈にはちょっと笑いました。


さて、この曲の中に昔からイマイチ良く分からない一節があって、その解釈ができたのはこの記事を書くにあたって色々と調べたおかげでした。


Out on the road today I saw a Deadhead sticker on a Cadillac.
A little voice inside my head said:
"Don't look back, you can never look back."



「デッドヘッドのステッカーを貼ったキャデラック」って何のこと?



これは北米ではよく知られたことなのだそうですが、「グレートフル・デッド」というバンドの熱烈なファンで、彼らのツアーをくまなく追っかける人たちの事を「デッドヘッド」と言うのだそうです。彼らは車のバンパーにバンドのロゴ









を貼り、アメリカ中を走ったようですね。そしてうちの主人いわく、そういった「デッドヘッド」はたいてい、定職についていない、ヒッピー系の連中が多かった、ということです。


なお、いつの時代もアメリカでは「キャデラック」という車は高級車の代名詞。会社の上層部の人間が乗るような車です。

歌の主人公はある日、車で道路を走っていて、バンパーに「例のロゴ」を貼ったキャデラックを目撃して驚くわけです。何と不釣り合いな、という驚きですね。でもその内、彼は推測します。

おそらく昔はバンドの追っかけをして自由気ままに暮らしていた若者が、今では体制派にちゃっかり収まって、高給取りになっている。だけどせめて昔の名残に、とグレートフルデッドのシールを貼っているのだろう、と。

そしてその時、主人公は「そんな事したって昔には戻れないのに、後ろを振り返っても無駄なのに」という声を頭の中で聞く。


ああ、分ってすっきりした。



ということで曲全体を通して、「失ってしまった過去は戻って来ないけれど、どうしても悪あがきをしたくなることだってある」ということがテーマの一つなんじゃないかと思います。





(ちなみにSONGFACTS.COMというサイトにはあらゆる曲の歌詞についてのトリビアが載せてあって、コメント欄にはファンが意見を交換するために集まっています。なかなか面白いのでぜひ活用してみてください。私も何を隠そう、「"Vertigo" や  "Hello I love you"の記事を書くのに使いました!)



では最後にドン・ヘンリーの名曲の動画です。皆さんの夏のテーマ曲も教えてください!