来シーズンの新プログラムが登場:羽生選手の新境地とパトリック・チャンのカムバック(追記) | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...




(記事中ごろにチャン選手の公開練習の模様が一番よく分かる動画のURLを追記し、赤で記した訳の何箇所かについて、末尾に解説も加えておきました)


羽生選手の新しいプログラムに関する情報を色々なブログで追わせていただいています。ファンはさぞ興奮のるつぼに巻き込まれていることでしょう。


この前の記事の「予告」でも言いましたが、「SEIMEI」で「和」をテーマに演じていることについて、公表された今になるとあたかも「こうなって当然」と思えてしまうところが羽生選手の凄さだと思います。


シェイリーン・ボーンとのコンビがきっと彼に新境地をもたらしてくれるであろうことは前々から予想していました。オーサーさんも言ってたとおり、いったん信頼関係が芽生えると、二人の相性の良さはすぐにプログラムの仕上がりに表れました。

与えられたプログラムを滑るのではなく、自分が入り込めるコレオグラフィーを得た時に羽生選手の力はいっそう発揮される。そして今シーズンに至っては「共同作業」の域に達しているのを感じます。


羽生選手が「和」のテーマを選んだ時点で少なくとも文化的な面ではプログラムの形成に大きく貢献することが考えられる。シェイリーンは一緒に調べものをしたり、動画を観たりしたようですが、もしかすると今回のプログラムではまず、羽生選手の表現したい世界観を理解し、それを振り付けとして具体的に変換していく作業(「通訳」みたいな感じ?)が主な役割なのかな、と思いました。


音楽の面でもきっと羽生選手の発言権は大きいでしょう。曲のどの部分をどのようにカットするのか、どのようにつなげるのか、は日本的な音楽に馴染みのある人間の方がやり易いのではないかな、と憶測します。 


これから徐々に、もっと詳細なプログラムの形成過程が明らかになって来るのでしょうが、なんとなく、羽生選手の選手生活にとって今シーズンは(より)大きな飛躍の年になる予感がします。



さて、一方でカムバックを宣言しているパトリック・チャンがいよいよ本格的な練習を開始した模様ですね。一つ前の記事でも言った通り、ベヴァリー・スミスさんをはじめ多くのカナダ・メディアが招かれた公開練習があり、久しぶりに賑わっています。


スミスさんによる今回の記事(スケートカナダのHPに掲載)は少し訳しにくかったのですが、まあ大体の雰囲気を掴んでいただければ幸いです。

(追記:この公開練習の模様は"CANADIAN PRESS"の動画で一番、よく分ります:
http://www.thestar.com/sports/2015/06/12/patrick-chan-ready-for-comeback-after-taking-a-season-off.html)






Chan Tapping His Way Back To The Top
Beverley Smith
チャン、タップダンスで頂点に再び躍り出るか

The first sight of three-time world champion Patrick Chan in comeback  mode after a year off was this: performing to “Mack the Knife” in a chilly Vaughan arena, his opening pass was a wonder, with his patented big strokes, a big hop, his body flying, his arms spread out and up. He filled the rink with that opening pass. It was as if he was announcing, with his body movement: “Here I am. It’s me. I’m back.”
かつて三度もの世界タイトルを手にしたパトリック・チャン。その彼が一年の休養を経て「カムバック・モード」に入ったのを初めて目の当たりにした。場所は (トロント北部の)ヴォーンの肌寒いアリーナ、「マック・ザ・ナイフ」の音楽に乗せて滑ったプログラムのオープニング部分は圧巻だった。チャンの代名詞と も言える長いストロークから大きく跳ねると、体が宙に舞い、腕は上方に広がる。これだけで彼はリンク中を制し、まるで体の動きで宣言し ているかのようだった:「ただいま、僕だよ。戻って来たんだ」

And back with a difference.
しかも戻って来た彼はひと味違う。

How so? He’s skating to vocals for the first time, competitively. He’s bringing what he learned from his year of skating in a flurry of about 40 shows, night after night. He’s more engaged with the audience than ever. He’s found a new charisma. He’s left behind the intensity of being  intense, not that he won’t be. But he’ll skate for the love of it this year. He’ll see where his hard work takes him. And he’ll train differently, with more confidence, smarter, preserving that soon-to-be 25-year-old body, one of the oldest out there these days.
どう違うのかって?ひとつには競技の場で初めて歌詞入りの曲で滑る、ということ。そして過去一年間、夜な夜な約40回のアイスショーを忙しなく滑って学 んだことを引っ提げてきている、ということもある。未だかつてないほど観客との接点を重んじ、新たなカリスマ性を身に着けた。「熱くなる」ことの暑苦しさを捨て(かと言って熱くならない、というわけではないが)、今年はただスケートが好きだから滑る。そうやって努力した結果、どこに行きつくのかを楽しみにする。練習に関しても取り組み方を変えるつもりだ。もっと自信(余裕)をもって、賢く、まもなく25才になる(この世界では最年長に等しい)体を大切に して。

“He’s going to make this big comeback,” said choreographer David Wilson.  “I’ve got to hand it to him. It takes a lot of courage for him to do it, but he seems really keen.”
「彼は大きなカムバックを目指してるわけでしょ」と、振付師のデイビッド・ウィルソンは言う。「見上げたものだと思うよ。とっても勇気の要ることだけど、彼はすごくやる気みたいだし。」




Chan admits that the seeds of his comeback were planted at the closing ceremonies of the Sochi Olympics, when the Russians handed off the Olympic mantle to South Korea. “I was thinking in my mind: ‘I don’t want  this to end,’” Chan recalled. “’I don’t feel this is a good ending. It’s the end of a chapter, but I want to begin a new one.’”
チャンはこのカムバックの種がすでにソチ五輪の閉会式で蒔かれていた、と認める。ロシアから(次期、五輪主催者の)韓国にオリンピックのバトンが渡された時点で、「『まだこれで終わってほしくない』って頭の中で思ってたね。」とチャンは回想する。「『良い終わり方じゃない。一つの章の終わりかも知れないけ ど、また新しい章を開きたい』って」

He doesn’t know, truthfully, if he’ll continue to 2018. He’ll take it one year at a time. But it’s the ultimate intent. He never knows what will happen. Now, he has to pay attention to recovery. The body takes a beating in this sport. “I want to conserve my body, so that when I go to  a competition, I can really be fresh and keep up with the young guys,” he said.
正直なところ、2018年まで続けるかどうかは分らない。一年、一年、やってみるしかないからだ。だが(次の五輪に参加することが)究極のゴールであることは確かだ。(ただ)何が起こるか分からない。今後はもっと体力の回復にも注意を払わないといけないだろう。このスポーツでは体にかかる負担が途方もないからだ。 「自分の体をなるべく労わりたい。試合に臨むときは体調が万全であるように、そして若い奴らについていけるようにしないと」と彼は言う。

Most of all, he wants to leave a mark on the sport, and this season, hopefully “a breath of fresh air.” He’ll do that with his new “Mack the Knife” routine, which is meant to show the love of skating, despite the intensity of competition. It won’t be just about the quads, although he knows you can’t leave home without them.

だが何よりも彼はスケートというスポーツにおいて自分の痕跡を残したいのだと言う。そして今シーズンに限って言えば、新風を吹き込みたい、とも。「マック・ザ・ナイフ」の新しいプログラムでは、試合での競争が白熱する中でさえも、スケートを愛していることが伝われば良いと思っている。クワッドだけにこだわるのではない。もちろん、それ(クワッド)なしでは話にならないということは分っているのだが。

The routine harks back to his year of touring last season. He’s learned much from that experience – particularly confidence. Chan says he’s learned a lot from skating with Scott Moir and his command of the ice.  “That’s a skill you learn only over time and with experience and honestly, that’s been the greatest experience for me this past year,” he  said.
新しいプログラムでは昨年アイスショーで各地を回った経験を活かしている。たくさんのことを学んだ。特に自信を持つこと。チャンはスコット・モイヤーと一 緒に滑ることによって、彼のリンクを制圧する様子から多くを学んだと言う。「時間をかけて、経験を積んでしか身に付けられないようなスキルだと思う。この 一年間で一番、僕にとって素晴らしい体験だったかな」


On the ice, Wilson wears red gloves, which accent his movements all the more. He shows Chan the way. “Add some personality in your fingers,” he says as he demonstrates Mack moves to Chan, but at the same time, his shoulders are moving, too. David Wilson came up with the idea of skating  to “Mack the Knife,” firstly thinking of a traditional version with Bobby Darin’s iconic work. But then he heard the Michael Buble version and thought: “It was too irresistible.” Besides, Buble is a Canadian. And Chan has met him.
氷上でウィルソンは赤い手袋をはめており、そのおかげで彼の動きがよりいっそう強調される。チャンに手本を見せたりもする。「指にもっと特徴を持たせて」と言いながらマックの動きをチャンに演じて見せる。だがそれと同時に、(指だけではなく)肩も一緒に動いている。「マック・ザ・ナイフ」に乗せて滑 るのを思いついたのはデイヴィッド・ウィルソンだった。ボビー・ダリンの歌う、皆が知っている従来のバージョンを使おうと思ったがマイケル・ブーブレーの 歌っているバージョンを聞いた時、「絶対にこれにしないと、って思った」。それにブーブレーはカナダ人だし、おまけにチャンは彼に会っているのだ。

Coach Kathy Johnson first suggested the idea of having Chan learn the essence of tap dancing, to inject that flavour into the showy piece. Wilson found a friend, Lucas Beaver, an artistic everyman who was originally to have spent 1 and a half hours a day in the studio for four  days with Chan. But Chan loved the work so much that he ended up working with Beaver for three hours a day for five days. “It’s one of the hardest things I’ve ever done,” Chan said. “Harder than taking hip hop or really high-level ballet.”
チャンにタップ・ダンスの基本を習わせようと言いだしたのは彼のコーチのキャシー・ジョンソンだった。せっかくの「見せる」プログラムなのだからタップの あの香りを注入しないと、ということだった。ウィルソンは友人の気さくなアーティスト、ルーカス・ビーヴァーを呼んできて、チャンと四、五日ほど、約1時 間半スタジオでレッスンするように計らった。だがチャンはこれが気に入ってしまい、五日間、毎日三時間もビーヴァーと練習することになったのだ。「今まで 一番、難しかったかも知れない」とチャンは言う。「ヒップホップのレッスンとかバレエの上級クラスを受けるよりも難しかったよ」

It’s tough for a skater accustomed to stiff boots to adopt the movement of tap. In tap, a dancer lets the ankles relax and “dangle in a way, yet  show strength,” Chan said. He will not tap on the ice. He’ll bring the swagger of it, though.
固い靴で滑り慣れているスケーターにとってタップの動きを取り入れるのは大変だ。タップでは踊り手は足首の力を抜いて「ある意味、ぶらん、とさせながら、 それでも力を入れないといけない」とチャンは言う。氷上ではタップはしない。でも(タップ特有の)あの粋がったような動作は取り入れる。

“He’s become in the last six days, quite the little tap dancer,” Wilson said. “His new name is Twinkle Toes. But my friend Lucas said he learned  tap faster than most dancers who had not done tap before.” Chan is now a  full-fledged hoofer, with an entire routine on the floor. There are videos.
「ここ六日間ほどで彼はちょっとしたタップ・ダンサーになっちゃったね」とウィルソンは言う。「彼の新たなニックネームは『トインクル・トウズ』ってことにしておいてね。それはさておき、友達のルーカスは今までに見たタップ初心者のダンサーに比べてもパトリックは学ぶのが速いほうだって言ってたよ。」チャ ンは今ではちゃんとしたナンバーを踊れるほどの本格的なタップダンサーになっている。(それを証明する)動画だってあるのだ。





Chan’s free program is actually an altered version of the Chopin medley he used last year to win the Japan Open, his only competition of the season. Actually, Wilson found three Chopin pieces that seemed to belong  together, as if the composer wrote them in the same mood. The first piece is called “Revolutionary,” a tip of the hat to Chan’s singular style of skating. “It was a labor of love for me,” Wilson said.
チャンのフリー・プログラムは昨年、唯一試合に参加したジャパン・オープンで優勝した時のショパン・メドレーに手を加えたものになる。ウィルソンが選んだ 三つの曲は、まるでショパンが同じ気分に浸った中で作曲したかのように、しっくりとお互いが馴染むようなものだった。最初の曲は「革命」、チャンの独特な(革新的な)滑りにちなんでいるとも言える。「(このプログラムは)僕にとって仕事というよりも愛のなせる業、なの」とウィルソンは言う。


But it’s been reworked, with some new elements and tweaks. Chan calls it  a more “advanced” version and the new difficulties of it frustrated him  at first. “I already had my burst of frustration, because it’s so hard,” he said. “Skating is getting so difficult now, with all the men doing quads. I guess it’s kind of my fault. I kind of asked for it.” But  from this past season, he’s learned important things: to trust that it will come, as does the choreography-learned-in-a-hurry in shows. And that a relaxed approach is best. He learned that at the Japan Open last season, when he realized there was no need to worry, he did the event, and sped off for a year of fun.
それでも手直しが施され、エレメンツが加わり、微調整はなされた。出来上がったものに関してチャンは「アドバンス・バージョンだね」と言い、最初はその難 しさにフラストレーションが溜まったと言う。「すごく難しいから、もうすでに一発目のブチ切れは起こしたよ。最近のスケートって本当に難度が高いでしょ。 男子は皆、クワッドをやっているから。まあぼくのせいでもあるんだけどね。自分で招いた結果、みたいな。」だが昨シーズンを通して学んだ大切なこともある:たとえばショーの中で急いでおぼえたコレオグラフィーのように、その内いつかはちゃんとモノになるのだ、と信じることだ。そしてリラックスして取り組む ことがベストなのだ、ということも。それに気づいたのは昨シーズンのジャパン・オープン、よけいな心配をせずにただ試合をこなして、そこからすぐに楽しいことづくめの 一年間に突入したのだから。

Before his choreographic session with Wilson, Chan spent eight days surfing in Costa Rica, as a last blast to his year when he didn’t have to worry about injuring himself. Now it’s time to buckle down. He knows he’s far from being fit, but Wilson says Chan can get that in order quickly. He’s determined to work hard, which will help him to relax later.
ウィルソンとの振り付けに入る前、チャンはコスタリカで8日間、サーフィンをして過ごした。怪我をすることを心配しないですんだ一年間の最後を飾るようなつもりで。だがこれからは腰を据えて真面目にやらないといけない。フィットネスのレベルはまだまだだが、ウィルソンはチャンならすぐに取り戻せると思っている。辛い練習をする覚悟はあるし、それさえやり遂げたら後でリラックスすることにもつながるのだ。

And anything that happens from now on in his career? “It’s all whipped cream and cherry on top,” Chan said.
今後、選手生活において起こることに関しての感想は?「ここからは全て、ホイップ・クリームとてっぺんに乗せるサクランボ(=おまけ)みたいなもんでしょ」とチャンは言う。





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ところどころ、訳が分かりにくい所があるかと思います。


解説その1:
ウィルソンが指の動きについて指導する時"Add some personality in your fingers"って言ってますが、これは「個性を持たせて」って直訳すると変ですよね。要するにもっと感情をこめて、指にも何か言わせることが出来るでしょ、っていう意味だと思います。


解説その2:
またまたウィルソンが言ったことですが、この"Twinkle Toes" って何よ?Twinkle twinkle little stars =キラキラ星、じゃないですが、何となくキラキラしてステキっていうイメージで、足元が素早く動き、浮いているがごとく舞う感じなのだと言いたいのかな、と思います。深調べするとまた別の意味も出て来るようですが、ここはサラッと取る方が良さそうですね。


解説その3:
パトリックのこのプログラムを創るのはウィルソンにとっても楽しみなのだそうです。"It's a labor of love for me" というのは、お金とか物質的な見返りを求める物ではなく、そういったことを度外視して自分も楽しいからやっていること、っていう意味で、ウィルソンがいかにパトリックとのコラボに感情移入しているかがわかります。


解説その4:
パトリックは男子競技において四回転を皆がバンバン入れて来るようになったのは「自分のせいでもある」って言ってます。これはかつて羽生選手も言及している事ですが、皆がパトリックに勝つためには(彼がかつて武器としていなかった)四回転ジャンプで勝負、みたいな状況を招いた、という点ですね。でもパトリックの場合は、自分もクワッドを二本入れるようになったため、他の選手も少なくとも二本、あるいは三本入れなくてはいけなくなった、と言いたい様です。


解説その5:
最後にパトリックが「ホイップクリームとサクランボ」って言ってる部分ですが、これまでのキャリアでも十分、満足するべきものなんだろうけど、今後もしももっと良い成績が得られたらそれはもう「ボーナス」とか「おまけ」みたいなもんだね、と言いたいわけです。英語ではよく"It's icing on the cake" とも言いますが、「上にさらに盛る」っていうイメージです。