トロント国際映画祭:9月8日・9日・10日 | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

久しぶりにブログ更新してます。

結局、今回は2つの映画の通訳を担当し、3回の上映会に参加させていただきました。夜だと電車がなくなるので(ダウンタウンまで我が家から車で行くのは正気の沙汰ではない)、遅い上映の場合は別の方(Aさん)が担当なさいました。


前の記事でレポートしました日曜日の「さよなら歌舞伎町」のワールドプレミアのあと、国際交流基金のトロント事務所(Japan Foundation Toronto)での「ジャパン・フィルム・ナイト」に招待していただきました。
 

 


このジャパン・ファウンデーションは私の職場が近いことも手伝って、とても馴染みの深い場所なのですが、トロントで主にカナダ人に向けて日本文化を紹介したり、発信したりする重要な役割を担った機関なのです。しょっちゅう、講演会や展覧会などのイベントを催していて、私も頻繁に参加させてもらっています。

「ジャパン・フィルム・ナイト」のパーティ会場に監督さんたちが登場すると、一斉に拍手が起こりました。

「さよなら歌舞伎町」の廣木隆一監督、「野火」の塚本晋也監督、そして「OH LUCY!」の平柳敦子監督がまず、いらっしゃいました。

 

 

 

 

 

そして少し遅れて「夢と狂気の王国」の砂田麻美監督も到着。この映画も私とAさんが通訳を担当することに当初はなっていたのですが、どうやら専属の方がいらしたようで、お役目ご免になりました。

さて、廣木隆一監督の「さよなら歌舞伎町」は2度目の上映が9日の火曜日行われ、この日も質疑応答で盛り上がりました。トロントのお客さんは登場人物のストーリーにとても感情移入して、監督に一生懸命、「彼らは今後どうなるのか」などと質問していたのが印象的でした。

それほど登場人物が魅力的だったということだと思います。

私もこの映画を観て、俳優陣の演技の素晴らしさにまず、打たれました。

特に染谷将太くんの演技の細かさ、大写しになった時の彼の表情の機微が何とも言えません。とても自然で、「俺は今、すごい演技してるんだ」みたいな気負いが感じられないところが良かったです。

私はあまり日本の俳優さんに詳しくないので、今後はぜひ注目したいと思わされました。

あと、私はこの映画を二度見て、二度とも同じシーンで泣きました。(ひえ、恥ずかし)

皆さんがご覧になったらそれがどのシーンだったのか、分かるかしら?たぶん、あそこは絶対にぐっとくる場面だと思います。

で、質疑応答のことに戻りますが、2度目となると私もかなり監督さんの答えを予測できたり、幾つかのエピソードを聞かされているので通訳もやりやすくなります。

それでも途中、一回くらいは「えっと、これはどう言ったら一番よく伝わるんだろう」といったような場面があり、こわばった笑みで隠しながら続けました。これも年の功で、記憶力が低下した分、肝は座るのだと思います。

それよりも可笑しかったのが、プレミアの時の写真がそこかしこに載り、私もちょこっと写っていたのですが、
 

 

黒いスーツを着ているにも関わらず、何故かお腹の辺に白い物が…

これってまさか上着の裾がまくれ上がって、白いTシャツのお腹の部分が見えてるんじゃないよね、と焦りましたが、どうやら映画祭のIDカードの裏面だということが判明。

あーよかった。日本にいる、お洒落にうるさい母やNちゃんに怒られるとこでした。



そして本日、10日は「野火」の上映会が行われました。前日にもすでに上映されていたのですがこの時はAさんが通訳を担当。彼女から質疑応答がどんな様子だったのか聞いて、準備をして行きました。

この映画の原作は、広く読まれている大岡昇平の小説です。私も確か高校で読まされたおぼえがあります。

非常に重いテーマで、実は私も少し緊張しながら観賞しました。しかし予習のために映画祭のスタッフから渡されたDVDでのプレビューに続き、劇場の大スクリーンで2度目を観ると、印象がかなり違いました。

一度目のように、ストーリーや衝撃的な場面に引き込まれすぎず、塚本監督の生み出した映像そのものをしっかりと捉えることが出来たように思います。中でも、後半に入ってからの戦闘シーン(と形容したら良いのか分かりませんが)はこれまでの戦争映画では見たことがなかったような、見事なものでした。

ただただドラマチックで悲劇的なものではない。

むやみに感情を高揚させるものではない。

何よりも戦争のむごたらしさ、愚かさ、無意味さを描いているのだ、と私は見ました。


さて、上映が終わってからの質疑応答は、塚本監督の昔の作品にも詳しい、なかなかマニアックなファンからの質問があったりして、通訳の私としては限界に挑戦させられました。

というのも塚本監督が興にのって長い長い、回答をなさったのです。

メモを取りつつ、それを即座に英語に置き換えていく側にとってはこれは辛い。

何とか途中で一息ついていただき、私が訳し、また続けていただく。

それをまた私が訳し終わってちょっと不安な面持ちで監督に「これで良いでしょうか」という目線を送ると「大丈夫です、完璧です」と言ってくださいました。

(その後、会場の外で「あの話をすると、めんどくさくて省略しちゃう通訳の人がいるんですけど、ひとつひとつ、全部ちゃんと訳してくださったから」とまた言っていただいてホッとしました。)

さて、私は特に監督がおっしゃった

「この映画を今作らないと、今後はどんどん作り難くくなっていくと思って踏み切った。そう思わされる雰囲気が今の日本には感じられる」

といった内容の言葉が心に重く響きました。

70年間の平和で我々の感覚が麻痺し、戦争の恐ろしさを忘れてしまっているのではないか。

どんなことがあっても、戦争は避けるべきである。そのためにも戦争を美化するような映画は絶対に作ってはいけない。どれだけそれ(戦争が少しでもカッコいいと思わすような映画)が興行的には得であっても。

塚本監督のメッセージを(私なりに)こう、受け止めました。

皆さんもぜひ、この映画をご覧ください。