2012-2013年シーズンのCBC解説ハイライト:NHK杯(訂正!) | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

(訂正:この記事を読んでくださったcyaniteさんからご指摘いただき、一箇所、間違ったところを直しています。文中で記してありますのでご確認ください。今後ともこういった指摘は大歓迎です。よろしくお願いします。)



私は普段、話をしている時も、授業や講演でも、

「脱線」

が非常に多くて困ります。

「天国と地獄」から「リベンジ」まで:羽生結弦選手の2012-2013年シーズン

の記事では

...
この後二つの記事で、主にスケートアメリカのFSとロンドン・ワールドのFSをCBC解説を元に再現していきます。

(ところどころ別の試合からも、際立って興味深いコメントは引用する予定)

...

とか書いて、スケートアメリカについては無事に記事をアップしましたが、そっから滞ってましたね。

しかも脱線だけならまだしも、私のもう一つの欠点は

「話が長い」

ということで、記事は二つどころかどんどん、増えてしまう。

今日のこの記事は2012年のスケートアメリカが終わってから、NHK杯に進み、そしてGPFまで持って行けたら良いのですが…

2012年のスケートアメリカが終わって、日本のメディアに結弦くんがどうしてフリーであんなに大きく崩れたのか、ということの自己分析をしている記事が出ました
(青嶋ひろのさんの2012年11月8日朝日新聞WEBRONZAより

その中で彼が敗因と明かしたのは:

「自分はショートとフリー、両方をそろえられないんだ。気付かない間にそんな気持ちに、フリーの前、なってしまったんですね。今回もきっと、失敗するのかもしれない、って……」

ということでした。

驚くほど単純に思えるけれど、こういった考えが大きな落とし穴となっていたのですね。

しかし、当時の羽生選手のコーチたちはこういった彼の心理状態を理解していたのか?という疑問が浮かびます。果たしてそこまで説明するためのコミュニケーションを英語で取れていただろうか?と。

“The Short and the Free, I can never put together two solid programs. Without realizing it, I had gotten myself in that mindset, just before the Free Skate. (That) it would be the same this time again, and I might mess up (the Free)…”


私だったらこう訳したかな。

幸い、次の大会の前までに、結弦くんのこの問題はコーチに伝わるところとなったようです。

なぜそれが分かるかって?

2012年、NHK杯のFS演技、CBCの解説では始まって間もなく、トレイシー・ウィルソンがこう言ってます。

A personal challenge also for Yuzuru is being able to follow a good short with a good long, he usually gets one or the other in competition, but to this date, never both.
ユヅルにとっての課題は、SPで良い演技をしたら、続けてフリーでも良い演技をすること。たいてい、大会ではどちらかが良いのだけど、これまで両方そろえられたことがない。




このフリーで結弦くんは一つひとつ、丁寧にエレメンツをこなして行って、カートさんも

very controlled
よくペースをコントロールしてるね


と感心する。

集中力を保ってコンビネーション・ジャンプを決めると、トレイシーさんが嬉しそうに

How nice was that!
どう?見事なもんじゃない!


と言い、カートは

This kid is fighting!
この子、気合入ってるね!

と讃える。

とうとう最後で転倒があり、そして最後のスピンで力尽きたように減速するとトレイシーは「上半身の動きがちょっと無駄に激しかった分、疲れて来てる。ここはぐっと低く膝を曲げて…」と言ったところ


A little too low
これはちょっと低すぎたわね

と笑う。

立ち上がった結弦くんが笑顔を見せ


そこをカメラがすかさず捉えると

"Oops1"
「おっと~~!」(って言ってる)


と、トレイシーがおどけ

That was a perfect moment for a closeup, with that little smile...
完ぺきなタイミングでのアップだね。ちょこっと笑ってるところが。。。

カートも嬉しそうに言う。

This is a success.
でもこれは上出来だ

It did slow down, a couple of mistakes in the second half. I think he’s been searching for the combination of the short and the long as you were saying Tracy
スピードが落ちて、後半では二つほどミスが出たけど。トレイシー、君が言ったように彼はショートとフリーの両方をそろえることを目指していたから


と、カートも指摘する。




This is worth it
これは値打ちあったね



This is a kid who did not back away from this program. Two quads, two triple axels, one in combination with a tripe toe; So an ambitious performance and he is very pleased with the way it all turned out here at Sendai, at home.
どう?この子、この(難しい)プログラムから逃げなかったでしょ?四回転二つ、トリプル・アクセル二つ、しかも一つはトリプル・トウループをくっつけたコンビネーション。とっても高いレベルを目指した演技で、ここ、地元の仙台で出した結果に満足していることでしょう。

(注:↑ ここの「トリプル・トウループ」を最初は「トリプル・ループ」としていました。コンビネーションの二つ目のジャンプは"triple toe"なので間違っていましたね。ありがとうございました。)


この大会はおそらくトレイシー・・ウィルソンにとって、結弦くんのコーチになって初めての解説だったかと思います。当然、客観性を求められながらもやはり自分の教え子に対する心配をのぞかせ、そして誇らしげな気持ちもにじみ出ていますね。

そしてこの他にもブライアン・オーサーがインタビューされ、羽生選手、フェルナンデス選手が両方ともGPFに進出できたことに対して聞かれました。ここでも「例の問題」について彼が把握していることが伺えます



It was also good for Yuzu, to put out two strong programs, that was a first for him, and it was important for him, you know, just for confidence, to do that.
ユヅにとっても良いことだった、しっかりと二つのプログラムをそろえられた、ってことが。これは彼にとっては初めてのことだったし、すごく重要なことだったから、ね、自信をつけるって意味では、それができて。

ここで特に興味深いのはオーサーが

you know, just for confidence
自信をつけるって意味では

と言いながら


頭を手で指すジェスチャーをしているところです。(これ、憶えててくださいね)

つまり結弦くんの問題は技術的なものではなく、心理的なものである、ということに言及しているのですね。

さて、このシーズンから各グランプリ大会の後、カート・ブラウニングとPJクオンが組んで、20分余りのポッドキャストをCBCのホームページに載せるようになりました。

NHK杯の後のポッドキャストでカート・ブラウニングが言った言葉がその後、YouTubeでも話題になりましたが、「このNHK杯でのあなたにとっての favourite moment は何?」とクオンさんに聞かれ、

My favourite moment is from Yuzuru Hanyu, and it's not from his win but from when he fell.
ぼくのハイライトはユヅル・ハニュウ、彼が優勝したことじゃなくて、転んだ時のこと。

His batteries wear out near the end, takes a fall in the jump, and he does the flying spin, kind of catches an edge but does not have the power to recover from that, and ever so gently puts his hand down. and then his posterior. He kind of falls down gently, and gets up with the sweetest smile, on his face.
演技の最後の方で電池切れになって、ジャンプで転倒があった。それでフライング・スピンをやったところでエッジが引っかかったみたいになって、もう余力がないからリカバリーが出来なかったんだね。そしてそろ~~っと手を氷について、その後にお尻もついちゃった。なんていうか、そお~っと転んで、そっから起き上がった時に、それはそれは愛らしい笑みを浮かべてたんだよね。




Planned or not, the TV camera zooms right in on that face, and I went “There, is sport”
計画的かどうか知らないけど、そこでテレビカメラが彼のその顔にズームインする。で、ぼくは「これでこそスポーツだ~」って思った。

That’s not pouting, .
ふくれっ面じゃなくてね。

..WHICH HE DOES!!! do in competition.
それ(ふくれっ面)、彼やるからね!!大会でも。

When he makes mistakes it takes EONS to get up and get going.

ミスしたら起き上がるのに何兆年ってかかるでしょ。

And then this time, this week, he made a mistake and  kept going. And during that fall he took like water over the head of a duck. It allowed you to continue loving the program

でも今回、この大会ではミスをしたけどちゃんと続けた。そしてこの転倒ではまるで鴨の頭の上を水が滑り落ちるように、やり過ごした。それで僕らも彼の演技を楽しみ続けることができたんだね。


私のCBC解説の記事を読んでくださっている皆様なら、カートさんが結弦くんのミスした後のリカバリーのしかたについて色々と語っていることをご存知かと思います。

なので、このNHK杯では結弦くんが何があっても演技を途切れさせることなく、しかも笑顔まで見せて起き上がったことに対してカートさんが感動した理由が分かっていただけるでしょう。

げ、また長くなってしまった。

これからまだGPFについても書かないといけないのに…