A superstar is born: 思い出のCBC解説 「2012年ニース世界選手権」 | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

さて、ようやくこの思い出のCBC解説も2012年のニースの世界大会に到達しました。

もちろん皆さまご存知のとおり、「ニースの奇跡」としても知られる大会ですね。

2011-2012年の結弦くんのシーズンをずっと見守ってきたCBCの三人の解説者ですから、彼の実力は十分、分かっている。それでも結果的には度肝を抜かれたフリーのプログラムでした。

カートさんは必ず、結弦くんのフリーの最後を名言で締めくくります。

今回もその例に漏れません。



**************

(ブレンダ・アーヴィング)
Yuzuru Hanyu was the 2010 junior world champion; this is his second year on the senior circuit. He is an IMMENSELY talented 17 year-old. In the GPF in Quebec City he finished just off the podium in fourth. He popped his lutz in the short program, and that sees him sitting in 7th place, 8 points back of the podium.

ユヅル・ハニュウは2010年の世界ジュニアチャンピオンで、これがシニアレベルでの二つ目のシーズンとなります。とてつもなく才能にあふれた17才、ケベックシティで行われたグランプリファイナルでは表彰台をほんのわずかで逃して4位でした。(今大会では)ショートプログラムでルッツをパンクして、現在7位、表彰台にはあと8点の差というところです。



(カート・ブラウニング)
He is a bit unpredictable. One of my favourite skaters for obvious reasons, one of them being triple axel-triple toe across the end of the rink, and also because YOU NEVER KNOW what he’s going to do.

ちょっと予測不可能なところがあるね。当然ながらぼくのお気に入りのスケーターの一人で、その理由をあえて挙げるなら、ひとつはリンクの端から端まで飛んじゃう3A-3T、そしてもう一つは彼が次に何をしでかしてくれるか絶対に予測できないってところ。




Super unpredictable like I said, if he does take a fall it’s ABSOLUTELY spectacular, legs and arms everywhere. But it’s not what he’s focused on  right now, It’s four revolutions and it’s called the Quad.
超・予測不可能、というのはもう言ったけど、彼が転んだらそれはもう文句なしにド派手で、脚も腕もそこら中に飛び散る感じ。でも今の彼の頭の中はそんなことじゃなくて、四回転、つまりクワッドと呼ばれるもので一杯になってる。



(トレイシー・ウィルソン)
That was HUGE.

すごい飛距離だったわね。


It was EASY, a quad!
(飛距離もそうだけど)楽勝、だったでしょ。クワッドだよ?



He’s been talking to himself, dancing around with his Walkman doing his program before he competed, psyching himself up.
彼は演技前に独り言を言って、ウオークマンを聴きながらプログラムをなぞって踊ってた。そうやって気持ちを高める。


It’s a sell-out crowd here in Nice, and this audience is just-eating-it-up.
ここニースの会場は満員なんだけど、観衆はこの演技をもう食い入るように見ているわね。



Take a second here, after the first three jumping passes, let the adrenalin go away for a second or two...
ここで一休み、最初の三つのジャンプ・シークエンスが終わって、アドレナリンを一呼吸か二呼吸ほど逃がしてやって…


...get back down to business.
また気合を入れ直す。


That was amazing he was able to save that jump, deep knee-bend...
あのジャンプをこらえたっていうのは驚きだわね、深く膝を折って…


I spoke to him during shows in Japan earlier this year. I asked him “Are  you an athlete or are you an artist?” He said, “I’m an artistic athlete”
日本でショーの合間に話をしたことがあるんだけど、その時「君は(自分の事を何だと思ってる?)アスリート?それともアーティスト?」って聞いたら「ぼくは芸術的なアスリートです」って答えてた。

Huh hmmm
ンフフフ…


羽生選手、ステップの途中で転倒。

観客が悲鳴を上げて、解説者たちも息を飲む。



When you say you never know what to expect...
何が起こるか分からないって言ったけど…


(you never know...)
(ほんと、何が起こるやら)


Expect the unexpected and watch this triple axel...
もう何が起こるか分からない、というのを覚悟で、さあこのトリプルアクセルに注目…



(oh)
(ああ)


TRIPLE AXEL-TRIPLE TOE!
3A―3T!!


(Awwgh...What a recovery)
(あ~…もう何ていうリカバリー)


カートさん、思わず笑ってしまう。

Kid’s got talent!
この子の才能ったら!


(Oh my god!)
(これ、マジ?)



結弦君が三連続ジャンプなども次々とこなして、三人が「もーーー」と言う様に笑っているのがわかる。



And with a scream and a couple of fist pumps, he’s channeling all his energy in this footwork and the audience is helping him out.
そして一つ叫び声を上げて、二度、拳を振りかざして、彼はありったけのエネルギーをこのフットワークに注ぎ込む。そこで観衆も彼の後押しをする。




One jump left... the emotion is there but the legs seem to be going down,
ジャンプは残り一つ。気持ちはまだ残ってるけど、脚力は落ちてる感じ…


up!...
よいしょッ!


Aaaaaaah!! Good boy!
だああああ~!!よくやった!




Well at the beginning of this free skate he was seven points off the podium, it seemed like a mile away. Now, he just got a whole lot closer, LOOK OUT!
このフリーが始まるまでは、表彰台からは7点も離れていて、遙か彼方のように思えた。それが今ではずいぶんと近くなったじゃない。これはヤバいわよ


A superstar ...
スーパースターの…



is born.
誕生だ。



They’re out of their seats here in Nice. The former world junior champion with his sights set on the senior world podium. Tracy as you said, 8 points, a long way back, but THIS is figure skating and anything  is possible here.
ニースで観客は総立ちです。かつての世界ジュニアチャンピオンが今度はシニアの世界選手権で表彰台を狙っています。トレイシーの言ったように8点というのはとても届かないような点差に思えたけれど、フィギュアスケートという競技では何が起こってもおかしくない。




It’s sport, and anything is possible. That’s why we collect together the  best in the world to see what will happen on that special day. This kid  made it happen today.
(フィギュアスケート)と言うより、スポーツだからね、何が起こってもおかしくない。だからぼくたちは(毎年)世界のトップ選手を集めて来て、とっておきの日に何が起こるのか、を見守るわけでしょう。そして今日、この少年がその何かを起こした。



Yuzuru Hanyu had the skate of his life today, and look at the score, a new season’s best, by a whopping margin, 13 points.
ユヅル・ハニュウは今日、人生最高の演技を見せました。そしてご覧ください、このスコアを。彼にとってのシーズン・ベスト、しかも13点と驚異的に(かつてのSBを)上回っています。



And only one skater has beaten that score this year, and he’s only beaten it once, that’s Patrick Chan!
このスコアを今年、上回ったのはただ一人、それもたった一回だけ、パトリック・チャンよ!

These ARE INCREDIBLE numbers. And the guys behind him, ready to skate, know it.
これはもう信じられないようなスコアだわ。そして彼の後を滑る選手たちは、出番を待ちつつ、皆それを承知している。


*********

というわけでこの時のカートさんの締めくくりは「スーパースター現われる」でした。

思いがけないステップ途中の転倒があり、その後のリカバリーを追う三人の反応が良かったです。

「あー、せっかく上手く行ってたのになんちゅうことを」

と、焦る反面、

「この子ならここからきっと立て直してくれる」

と、期待するトレイシーさん。

それから最後まで見事に滑り切る結弦君を、三人は微笑ましく見守ります。

演技終了間際の最後のジャンプを跳ぶ時、カートさんがまるで自分も一緒に飛んでいるような感じで、踏み切る際に:

よいしょッ!…

そして着地する際には:

だあああああああ!!

と祈るように叫んでるのも面白い。

ところでトレイシーが言った言葉:

LOOK OUT!!

これは当時まだ17才の結弦くんが、自分の前を走る先輩スケーターたちにどんどん加速して追いついて来ていることを象徴する言葉のように(今となっては)思えます。

皆、後ろを見てごらん、彼はもうすぐそこまで迫ってきてるわよ。

(「ジョーズ」の音楽をBGMに)



…二年後には追いつくだけではなく、追い越していたのですからね。