フリーの競技が始まりました。
私はこの日の午後もずっとミックスゾーン担当で、オーサー氏のインタビュー通訳の後、ペアと女子選手のミックスゾーンへの誘導を務めました。
ボランティア・スタッフ同士の息も二日目になってとてもよく合ってきました。お互い、観たい競技だとか、誘導したい選手など、融通を効かせてシフトを組めます。
その中の一人、Jちゃんは中学生の時に韓国から一人でやって来た頑張り屋さんで、英語は全くネイティブ並みに上手です。
スケートカナダ(連盟)関係のイベントのボランティアも何度か務め、これが4度目のお仕事だそうです。
すごいのは今年3月のロンドンでのワールド選手権でメディアセンターで働いていた時、そう、かのキムヨナ選手の通訳を仰せつかった、ということです。
スケートカナダの公式HPに掲載されているワールドの記者会見の動画には、Jちゃんの姿が必ずキムヨナ選手の横に映っています。通訳もとても流暢で上手です。
見渡してみるとスタッフの中にはバンクーバーのオリンピック以来、ずっとボランティアを務めてきた人も多かったです。もっと昔からのベテランもいます。
実際、このスケートカナダの大会はボランティアに支えられている、という感じでした。自分の趣味としてボランティアを遠くからしに来る人の他にも、地元のスケートクラブから大勢の人がお手伝いに来ているようでした。
お父さんやお母さんがメディアセンターで働き、娘がフラワー・レトリーバー、あるいはセレモニー係、などと家族ぐるみで参加している場合もたくさん見られました。
日本の記者の方々にも聞かれたことですが、カナダにおいてフィギュアスケートは全国各地の地域共同体と結びついていて、単なる「観戦型スポーツ」ではなく、あくまでも「参加型スポーツ」だということです。
たまたま午前中にちょっと時間のあった広報部長のバーバラ・マクドナルド女史に話を聞く機会がありました。
日本のメディアに対して彼女が説明してくれたのですが、頂点に(ナショナル・レベルの)「スケートカナダ」という組織があり、その下にSectionsと呼ばれる13の下部組織(これらはほぼ、カナダの州の区分に相当しています)、そのまた下にRegions レベルで全国で1200ものスケートクラブが存在しているそうです。
世界でも最も大規模な組織だ、ということでした。
登録されているスケート人口が10万8千人。
なお、これは私が付けくわえたことですが、カナダには人口3000人に対して1つのアイスリンクがあると言われています。単純計算すると、人口3千万人に1万ものリンクがある、ということですね。
これは膨大な数です。
もちろん、一番の利用目的はホッケーです。しかし実際、リンクの数がそれだけあれば、フィギュア・スケートをしたいと思う人にとっても非常にアクセスしやすいということになります。
(そもそも、カナダ人の子供でスケートのレッスンを受けたことがない、というケースの方が少ないと思います。)
そこで気が付いたのですが、1月に観戦したカナダ選手権も、今回のGPスケートカナダも、観客席の大半はそういったスケートカナダのメンバーで占められているようなのです。
自身がスケーターである、その送り迎えをする親、祖父母、コーチ、リンクで常日頃ボランティアをしている人たちなど。
そのため、なんとなく大会の雰囲気が「おっとり」しているのかな、と思いました。
カナダの旗の海を陣頭指揮しているのは。。。。
もちろん、人気選手を目当てに応援に来ているファンもいます。
ヴァーテューとモイヤー組、パトリック・チャン、ケイトリン・オズモンドなどは特に大きな歓声に迎えられて登場します。
でもそこにはおそらく、彼らがそれぞれ地元のスケートクラブでの成長を経て、スケートカナダ全体で育てたエリート選手なのだ、という誇りが根底にあるような気がします。
だからどの選手も
自分の息子、娘、孫、であるという風に暖かい目で見守ろう
とする姿勢があるのでは?
もちろん、日本などでも似たようなしくみ(組織図)があるのだと想像しています(すみません、不勉強なもので、日本の実態は知りません)。
ただ、スケートカナダにはひとつのこだわりがあるようです。
GPスケートカナダという大きな国際大会であっても、セントジョンのような地方の都市で(正直、収益を度外視して)開催すること。
全国各地の少年少女たちにインスピレーションを与えるため、あえてそうしているのだ、とマクドナルド広報部長の説明を聞いていて私は解釈しました。
さて、競技の方に戻ります。
ペアの結果はイタリアのベルトン&ホタレク、中国のスイ&ハン、そしてカナダのデュアメル&ラドフォードという順序に終わりました。
イタリアのペアはとても初々しく、優勝したことが新鮮な驚きだったようです。英語が上手で感心しました。
(この記事の動画は全てスケートカナダあるいはカナダオリンピック協会のHPからお借りしています)
昨日と違って、表彰台に上る選手たちはミックスゾーンでの取材もそこそこに、再びリンクに戻ります。
リンク裏に置いてある表彰台がゴソゴソと取り出され、カーペットも敷かれ、そしてメダルやお花を持つ役目の女の子たちが整列します。
シンプルな黒い上下にタータンチェック柄のマフラーをお洒落に巻いています。これはカナダの東海岸の州がスコットランドと深い関係にあるからですね。
メダルセレモニーが終わるとまた慌ただしく、選手を記者会見場に連れて行かなければなりません。
デュアメル&ラドフォード組はせっかく前日のSPでは首位に立ったのに、二つも順位を落としてしまった彼らにとってはかなりしんどい会見だったと思います。
さてこの間も次の競技が準備され、始まります。
ケイトリン・オズモンドちゃんが棄権するというニュースが入ったのは午前中の練習が終わるころだったと思います。私服姿でインタビューを受け、とても悲しそうでした。
女子では7番目に滑走した鈴木選手がリンクから下がってきて、私が誘導させていただきました。
日本のテレビ局の取材に応え、ミックスゾーンへと進みます。ここで彼女は質問に答えながら、次に滑るリプニツカヤやゴールドの演技とスコアをモニターでチェックしていました。
そしてゴールドのスコアが発表されると
「あ、二番だ。嬉しい!」
と可愛く微笑みます。
ちなみに鈴木選手のフリーの衣装はカナダでも大好評で、広報部長に
「あなたのドレスが今大会のベスト衣装賞に決定よね」
と褒められていました。
確かに鈴木選手の衣装はいつも素晴らしくセンスが良いですね。
女子の表彰式が執り行われ、記者会見が始まります。
日本でもすでに報道済みのようですが、会見の中ごろで
「アキコ、あなたは28歳で、自分の半分の年齢のスケーターと一緒に大会に出ているけど、どういう感想?そして同じく、ユリヤ、自分の倍の年齢のアキコと戦うのはどういう気持ち?」
といったような質問が飛び出しました。
質問したのはこのブログでもすでにご紹介した90歳を超えたイギリス人の女性記者。
これを聞いて私はかなりびっくりしました。
北米では年齢や体型などに関する質問やコメントはタブーとされています。スケートに関わらず、どんな状況でもそれは非常に悪趣味だとされています。
一瞬、関係者がギョッとした雰囲気でしたが、鈴木選手がとってもユーモラスに答えたのが救いとなりました。
「こういう質問をしょっちゅうされるような年になってしまったんですけど」
と笑わせつつも、
彼女は自分の選手生命の長さを普段からの体調管理のたまものであるとして、アスリートとしてのプライドをのぞかせました。
とってもスマートな返事に感心した次第です。
さて、次はアイスダンスといよいよ男子のフリーの競技です。
それで最後のレポート記事にする予定です。