$いまじなりぃ*ふぁーむ-cctl


_+*+_ (21)吐く _+*+_



泣きたくなんかなかった。
俺は……弱みなんか見せたくなかった。

だけど、俺は我慢が出来なかった。

なんだ、こいつら。
俺にはないものをみんな持ってるくせに、それを全部腐らせ
やがって!!

俺が望んでも望んでも絶対得られないものを、湯水のように
浪費して、しかもどぶに捨てる。
そして、ないないないないと文句を垂れ流す。

原型がなくなるまでぶん殴ってやりたい!

だけど。
俺は思い直す。
いつものように思い直す。

俺がそうしたところで、こいつらも世の中も1ミリも変わら
ねー。
そして無駄に怒りをぶちまけたことで、俺のチャンスは少な
くなる。

俺がいいやつに見えるんなら、それは俺が努力してそうして
るからだ。
俺がいいやつになりたいんじゃない。
俺がいいやつでないと、チャンスが来ないからだ。

自分を抑え込んでしまうことであっても、そうすることでも
しチャンスが来るのならば。
俺は喜んでそうする。

そして。
俺は今までそうして来たんだ。

だけど。

今夜だけは、俺は我慢が出来なかった。
卑屈な音沼。
勝手な樅山。
ぐだぐだな鈴野。

二枚のくそったれなクリスマスカードがあぶり出したのは、
そいつらの汚いところだけじゃねえ。
俺の……俺の見せたくなかった、曝したくなかった自己中の
本心もぼろっと出て来ちまった。

ああ……ばかばかしい。
俺がそうしたところで、俺には何にも残んねえ。
残んねえ……。

でも、俺は何も残したくなかったんだ。
全部、垂れ流してしまいたかったんだ。

自分を無理やり抑え込んで、へらへらと好人物を演じ続ける
苦しさから、自分を解き放ってやりたかったんだ。

ふう……。

顔を上げたら、モミが俺をじっと見つめていた。

「なんだ?」

「三村、あんたさ。今まで、誰かと付き合ったことあんの?」

「ねえよ」

「どして?」

俺はでかいポテトをつまんで、口に放り込む。

「俺は自分の生活で手一杯なんだよ。カノジョ作ってデート
する心の余裕がねえんだ」

「カネじゃなくて?」

「カネのことももちろんあるさ。でも、それよりゃ心だな」

「ふうん……」

「考えてみろや。横にいるカノジョに今何考えてるのって聞
かれて、正直に、あんたじゃなくて明日のメシの心配だって
言えるか?」

「う……確かにぃ」

みんなの口から苦笑が漏れた。

「さっき言っただろ? 俺はわがままなんだよ。俺が自分を
全部突っ込んでもいいってやつがもし現れたら、そしたら俺
はそいつにとことん突っ込むかもしんねー。カネのことは後
回しでな」

「うん」

「でも、そんなやつぁいねー。俺は、今は自分のことしか見
えねんだよ。だから今はそういうのは考えらんねー。それ
に……」

「うん」

「俺は受験生だからな」

受験生が恋しちゃいけないなんて法律はない。
出来るやつはすればいい。
だけど、俺には出来ねえな。
チャンスの尻尾を見失わないようにするのが精一杯で、よそ
見してる暇がない。

モミが、なにげにがっかりしてる。
なんだあ?

「あのさ」

モミが俺の顔を見て、何か言い出した。

「なんだ?」

「あたしは……あたしは、何かを本気で好きになったことが
ないんだよね。自分を変えられたくない。そればっか、気に
なって」

「ああ」

「だから、あたしはあんたを好きになることにする」

「おいおい、それを音沼の前で言うか?」

音沼は、少し寂しそうに笑った。

「いんだよ。俺はケリつけたから」

「……」

モミは。
そのあと、ずっと言葉を探してた。

「あたしは……あたしは……そこから自分を変えることにす
るよ。自分が変えられるのはイヤでも、自分で自分を変える
んなら……」

うんと、大きくモミが頷いた。

「それなら……出来るかもしれない」

「それはいいけどよ。俺はおまえを受け入れねーぜ」

今度はモミが苦笑した。

「分かってるよ。あたしは、あんたのタイプじゃないんで
しょ」

「そうじゃねえ。さっき言っただろ? 俺には俺以外を見る
余裕がまだねえんだよ」

「ああ……そういうことかあ」

「んだ」

「いいなあ……」

今度は鈴野か。
指をくわえて、モミを見てる。
ったく。

「おい、鈴野」

「え?」

「うらやむ前に動け。おまえはとろすぎる」

「ひゃっひゃっひゃ」

音沼が笑った。

「音沼ー、あんただって人のことは笑えないだろー?」

モミに突っ込まれた音沼が頭を掻く。

「まあ、そうだけどさ。俺は一応告れたから。次は……もう
ちょっとがんばれっかな」


(三村 悟)




Have Yourself a Merry Little Christmas by Tori Amos