$いまじなりぃ*ふぁーむ-pp30



《まい_すぺーす》

[シーン30 爆発]


どうせシラフじゃでけへんやろ思て、つまみとグラスを用意
しておく。

わたしはいつもはビールだけやけど、今日はウイスキーを開
けよう。
ずっと前に買うたやつやから飲めるかどうか分からへんけど、
どうせやけ酒用や。味なんかどうでもええやろ。

11時過ぎに呼び鈴が鳴った。

「アッコかあ?」

「うん……」

この前のことがあったから、わたしはかなり用心深くなった。
相手をしっかり確かめてからやないと、怖くてよう開けられ
へん。
ドアを開けてアッコを招き入れる。

「まあ、入り」

「うん」

鼻のところにガーゼが絆創膏で止めてある。
この前クリに殴られたとこやな。
あれから泣いてばっかやったんかしらん、目ぇ腫れて真っ赤や。

化粧してへん。髪もぼっさぼさやし、服もど地味や。
今までのアッコじゃ絶対に考えられへん。
何もする気にならへん言うか、相当ダメージでかかったんや
ろな。

「よう家ぇ出してもらえたな」

「でんでんとこ行く言うたら、しぶしぶ」

「少し落ち着いたん?」

「……」

まだ、か。
ふう……。

「なあ、アッコ」

「……」

「最初に言っとく。今度こんな騒ぎ起こしたら、トモダチの
縁切るからな」

「う」

「心臓止まるか、思ったで」

顔をくしゃくしゃにして、アッコがわたしに抱きついた。
わんわんわんわん、声あげて泣くアッコ。

ええやん。
それでええやん。
ちゃんと辛いことは辛い言わな、わたしら分からへん。
へらへら笑ってごまかさんで、ちゃんと言わな。

な?

アッコが落ち着くまで、わたしはアッコの背中をずっとぽん
ぽん叩いてた。
こどもあやすみたいに。


           -=*=-


アッコがお酒はいらへんゆうたから、二人して麦茶を飲む。

「なあ、アッコ」

「ん?」

「わたしな、ずーっとアッコのことで、気になってることが
あんねん」

「何を?」

「アッコがちょっかい出すんは、みぃんな相手がいるオトコ
ばっかや。野崎センセかてそうやろ?」

「……」

「小悪魔とか、ブレーカーとか、節操なしとか、みんなは好
き勝手言いよるけど、わたしの目はごまかせへんで」

「……」

「アッコ、誰かに寄っかかりたいんやろ?」

返事を待つ。
しばらーくしてから、小さな声で返事があった。

「……うん」

やっぱな。

「彼女いる年上のオトコの方がしっかりしてるように見える。
広くて大きく見える。そうなんちゃうか?」

「……」

「わたし一人くらいどっかに置いてもらえる。そういう風に
見えるんちゃうか?」

「……うん」

ふう……。

「そらあ……あかんわ」

「……」

「ゆうたらなんやけど。あんたは今ハエや」

「どういう……こと?」

ちょっと非難の口調が混じる。

「ちょっとええ匂いすると、すーぐそっちに飛んでいきよる。
ぶんぶんぶんぶんこうるさくその周りを飛び回って」

「……」

「それを、いいなあって誰が思うねん?」

「……」

「わたしは、あんたがどれだけ野崎センセに思い入れてるか、
それは知らん。けどな、好きになってくれなきゃ死んでやるっ
てのはハエと同じやないか。逆考えてみ? あんたなら、そ
れで好きになるか?」

「……ううん」

「せやろ?」

「自分がハエになるのは最低や。自分が匂いに釣られて飛ん
でくんやなくて、自分のとこに呼び寄せなあかんやろ。それ
もハエやなくて、もっとましなもん呼ばなあかんやろ」

「……」

「クリにあって、あんたにないもん。それは自信や。それだ
けは、わたしらはどうにもしてやれへん。自分でこさえなあ
かんねん」

「どう……すれば……いいの」

「自分で考え」

「そんなあ……」

「わたしがゆうたら、それはあんたにとって借り物にしかな
らへんやろ?」

「……」

「とりあえず、卒制まじめに考え。ちゃんとそれぇきっかけ
にせなあかんやろ。一人でやるにしてん、誰かと組むにして
ん、アッコがちゃあんと自分持ってへんと何もできひん」

「うん……」

「わたしの分は誰かがやってくれよるやろって。そう考えて
んなら、アッコ」

わたしは指を突き付ける。

「あんたは終わりや」

ばん!
銃を撃つ真似。

「卒制かて、就活かて、そうやで。人の人生やない。自分の
人生なんやで? そこぉふらふらしとったら、自信なんか出
てきぃひん」

黙ってわたしの小言を聞いてたアッコが、ぽつんと漏らした。

「でんでんは……才能あるから」

かっとなる。
一気に頭に血が上る。
唇をぎっと噛み締めて、そこが切れる。
血の味がする。

野崎センセの部屋でも、おんなじこと言いよったな。
あの時は状況が状況やったから、わたしはぶちかましたかっ
た言葉を無理やり飲み込んだ。

今度ばっかは、我慢できひん!

「なんやてーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ?!」

ごん!

げんこをどたまに食らわす。

「だあほーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

情けなくて、涙が溢れる。

「あ、あのなあ、アッコ。才能あるやつがこんなに就活で苦
労するか? 卒制で悩むか? ふざけんのもいい加減にしい
やっ!!」

わたしが涙見せたことで、びっくりしたんやろ。
アッコが顔を伏せた。

「くそったれっ! おまえ、どこまで腐っとんねや! だあ
ほーーーっ!」

拳を握りしめる。
ぶるぶる震える拳で目を擦る。

「アッコ。なんであんたは上を見ぃひんの? なんで、いっ
つも下ばっか見るの?」

「逃げてたって何もできへんで? 頭使えやっ! 手ぇ動か
せやっ! 自分創らへんかったら、何もできひんやろっ!
腐るだけやっ!」

「だあほがあーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

わたしは立ち上がって、手にしてたグラスを力一杯床に叩き
付けた。

ぐしゃっ!
怯えたアッコの横で鈍い音がして、粉々になったグラスが部
屋中に散らばった。

「帰れっ!」

「顔も見とうないっ! 帰れーーーーーーーーーっ!!!」


           -=*=-


わたしは。
ベッドに突っ伏して泣き続けた。

昨日のシンヤといい、アッコといい。
なんで、わたしの足を引っ張るの?
ぐだぐだと、しょうもないへどをわたしの周りに吐き散らか
して。

わたしかて、もがいてるんよ。
見通しの利かへんとこで、手探りでうろうろしてるんよ。

自分の場所はどこやろうって。

そんなもんはあらへん。
それは創るしかあらへん。
そうやって自分に言い聞かして。

もがいてるんよ!

わたしは闇の中で大声で叫んだ。

「わたしを! わたしの場所を勝手に作らんといてーーっ!!」





Explosion by Laurent Wolf