$いまじなりぃ*ふぁーむ-pp12



《まい_すぺーす》

[シーン12 救助]


「うひー。でんでーん……」

べろべろやん。この声はアッコだよなあ。

「アッコ、どないしてん」

「ちょっとさあ、飲み過ぎちった。うー、動けへんのぉ。
何とかしてくれへーん?」

こひつー!
でも、アッコが飲んで潰れるってのは初めてかもしれへん。
なんかあったな。

「今どこにおるん?」

「ビショップ」

ほ?

ビジネス街の中の飲み屋は、とことん庶民派か、むっちゃ高
いか、両極端や。
ガクセイはやっすいとこしか行かへんから、そっち系の店の
名前はみぃんな知ってるけど、高い店なんかよう知らん。

でも、ビショップは別や。
あそこはいろんな会社のお偉いさんが、いーっぱい出入りす
るんよ。会員制やから、会員同伴やないと入れへん。
ガクセイにとっては憧れの店やね。あんなとこで酒飲めるよ
うになりたいなーいう。

アッコんちも結構いいとこやから、会員なんかも知れへんけ
ど。アッコ自身が喜んで行くとこちゃうよなあ。

「すぐ行く」

返事はなかった。
さっきの電話かけるだけで、いっぱいいっぱいだったんかも
しれへん。


           -=*=-


電車を降りて、人気のなくなったビル街の通りを歩く。
街灯はいっぱいあるから暗くはないんやけど、建物ばかりで
人気ないんはほんまに無気味やなー。

専門の先生たちも、卒制根詰めるのはいいけど女の子はあん
ま遅くまで残るなよーって言ってる。
よおく分かるわ。

ビショップは専門のビルの真向かいにある。
うちの教室から見えるんよね。
外車やごっつい黒塗りの車から偉そうな人が降りて、その店
に入っていくのがぜえんぶ見える。

どう考えてん、アッコの雰囲気ちゃうよなー。

お店の入り口には受付がある。
飲み屋に受付やで。かなんなー。
こんなとこで飲んだかて、飲んだ気せえへんわ。きっと。

タキシード着たおっちゃんに、アッコを引き取りに来たって
伝える。

「あのぅ。わたし、浜本さんの友達なんすけど、本人から動
けへんので迎えに来い言われましてー」

おっちゃんが、じろじろわたしを見回す。
なーんか、おまいの来るとこじゃねえよ、とっとと帰れぼけ
えって思われてるみたいな、いやあんな感じ。

「少々お待ち下さい」

にこりともしないで、おっちゃんが店に入っていった。

すぐに、知らない男に寄りかかるようにしてアッコが出てきた。
うわあ、ほんまにぐでんぐでんや。歩くのもしんどい言う感
じやなあ。

「あの、済みません。お願いできますか?」

付き添ってきた男は、ぱりっとした背広姿や。
三十台かなー。野崎センセと同じくらいやろか。
着てる服やアクセサリー見ても、相当おしゃれ。伊達男やな。

「ええと。なんであなたがアッコを送ってあげへんのですか?」

男がうろたえて、首を振った。

「ちょっと、それは……」

ああ。
そういうことかー。

わたしは。
全てを理解した。


           -=*=-


アッコの家まで送ってくにしてん、わたしのアパートで休ま
せるにしてん、ぐだぐだのアッコを歩かせるのはしんどい。
さっさとタクシーに乗せたかったんやけど、アッコが猛烈に
荒れ出した。

「ちっくしょう! ばあかにしくさってえ! あたしを何だ
と思ってんのさー! あたしはトイレじゃねえよっ!!」

手をめっちゃくちゃに振り回す。
おっかなくてしょうがない。

街路樹によりかかっては、そこでお好み焼きを作りぃの。
看板を見つけては蹴りを入れぇの。
最後には、服を脱ぎ出した。

「どーせ、あたしは都合のいい女だよっ。へっ! 上等やん
かあっ! ふ●っくゆー!!」

あかん。
これはもうわたしの手には負えへん。
少し酔いが醒めるまで休ませたらんと、身動きが取れへん。

どないしょ……。

ふと。
隙間のことを思い出す。

あそこなら、3時間休ませても30分ちょいのロスで済むな。
何と言っても、あそこは外から見えへん。
アッコがどんなカッコしてたかて気にしないで済むねん。

めまいがアッコにも出るかもしれへんけど、酒のせいにできる。
どうせこの調子なら、明日は使い物にならへんやろ。

わたしは暴れるアッコを引きずるようにして、リプリーズま
で歩いていった。

夜の隙間は真っ暗で怖い。
でも、そんなこと言ってられへん。

手を引いたまま、まずわたしが隙間に潜り込む。
わめきちらしていたアッコのアクションが止まってる。

ラッキー!
一発で狙ってた方の時間の流れに乗れた。

アッコを引きずり込んで、ビルの壁に寄っかからせる。
もう限界だったんやろ。
アッコはすぐに首を垂れて、荒い寝息を立て始めた。

ふう……。

「えらいこっちゃ」


           -=*=-


真っ暗な隙間。
聞こえるのは、アッコの荒い寝息だけ。
わたしは、その横に三角座りして闇を見つめる。

不倫かあ……。

でも、アッコにとっては遊びやなかったんやろなあ。

アッコの言うことは、半分以上はったりやもん。
自分遊んでるからなにかて平気じゃーって、そういう煙幕を
張る。

けど。ほんまは不安なんやろ。
嫌われたらどないしよう、捨てられたらどないしよう。
そんなんなるくらいやったら、最初からバカのふりして付き
合い浅くしよ。

だから、自分にそんな振り付けせえへんで済む相手には、と
ことんのめってまうんやろなあ。

それはぶきっちょなやり方やと思う。
思うけど、わたしはそれ変えれとはよう言われへん。

ああ。
せやなー。

わたしは、アッコがもやもやしてへんから付き合ってられるっ
て思ってたけど、ちゃうな。
わたしと同じや。同調してたんや。

アッコもまた。
自分の場所を探してるんやろ。


           -=*=-


携帯で時間を確認する。
こっち着いたんが10時やったな。
今午前1時やからちょうど3時間や。

そろそろ起こそう。

「アッコ、起きんか。こら」

「ううー」

頭を押さえて、アッコが首を上げる。

「あたまいてー」

「当たり前じゃ。どんだけ飲んだんだか。ばかたれ」

「バカ、言うなー」

「はいはい。ちょいと着るものなんとかせ。ほとんど裸や」

暗いからよく分からないと言っても、自分がどういう状態か
は分かったんやろ。
アッコがわたわたと慌てる。

「あたし、ずっとこんなかっこ?」

「ここに来る途中で暴れて脱ぎよってん」

「げげーっ!」

だから酔っぱは怖いんや。

身繕いが終わったアッコにペットの水を渡して、口をすすが
せた。少しすっきりするやろ。

「暑いけど、わたしのアパートで休んでくか?」

「うん……」

アッコがしおらしい。

隙間を出たところで、こっそり時間を確認する。やっぱ、
30分ちょっとしか経ってへん。

すぐにタクシーを探す。運良く流しのをすぐゲットできた。

アパートでアッコに先にシャワーを使わせて、その間に布団
を敷く。
あの強烈なめまいが来る前に横になってしまいたい。

アッコと入れ替わりで、わたしもさっとシャワーを浴びて、
すぐベッドに飛び込んだ。

「じゃあ、お休みぃ」

「うーい」





Rescue Me by Hawthorne Heights