$いまじなりぃ*ふぁーむ-p04



《まい_すぺーす》

[シーン04 クッキーの警告]


う……げ……ほ。
が……が……ほ。

声……が……よう……出え……へん。

ちと。
気合い……入れ……過ぎ……たわ。

げほ。

かすれる通り越して、痛い。
喉裂けて、血ぃ出てるんちゃうか。

ええ男現地調達できひんかったのを、なーんでわたしのせい
にすっかなあ。
しょうもないやつしかおらへんかったやろ。ったくぅ。

チキのやつぅ、やけくそでシャウト系ばっか選んでわたしに
歌わせよってからぁ。
酔っぱの時は、大声出しまくっちゃうしぃ。
最後は叫び過ぎでくらくらして、立ってられへんかった。
ったく。

うげ……げほ。

うー、しんど。
ガッコ行かなあかんけど、しんどいなあ。

ひぃ。


           -=*=-


「うーす」

よれよれの状態で教室に入って、すぐにアッコに突っ込ま
れた。

「あやや。でんでん、どしたんそのがらがら声?」

「ちと、昨日カラオケファイトし過ぎたー」

「およ。誰と行ったん?」

「夜中に、チキから誘いがあってん」

「へえ。女子会?」

「一応ね。チキはオトコ現地調達するつもりやったみたいや
けど、みごと空振り三振」

「ほほー。あたしが一緒やったら一発ゲットやったのに」

「あんたが一緒ならエラいことになるわ。乱交ちゃうねんで。
飲みやて」

「ちぇー」

一発の意味、ちゃうがな。
ったく。

午前中は今日は三コマやけど、昼前の長い一コマが製作実習
になってる。実質自習ゆうことやね。

自習って言ってん、就活に忙しい子は学校になんかおらへん。
就職決まった子は、もう卒制にかかってる子が多い。

就職担当のセンセが、わたしらに口酸っぱくして言う。

「今年は厳しいんじゃなくって、今年も厳しいんや。ぎっち
り覚悟して突撃せえへんと、いいとこ取れへんで」

うん。
それはもう、充分分かってるって。
来年卒業を控えてるわたしらの中で、就職決まったんはまだ
半分もいっとらんちゃうかなあ。

去年卒業したセンパイたちだって、予備軍いっぱいやもん。
フリーターなんか絶対したないって言ってたマジメな人です
ら、未だに決まっとらへんくらいやからなあ。

みんな、サボってるわけじゃないんよね。
クソ暑いのに着たくもないリクルートスーツ着て、おっさん
のつまらん会社説明延々と聞かされて。

それでも我慢したるから会社に入れてえなって頼み込んだと
ころで、さらっと門前払いやもん。

暑い中ぁご苦労はん。
人事の人らはみいんなそう言うけどさ。
きっとその後ろには、こっそりこんなコトバが付いてるんや
ないかなあ。

おととい来やがれ、すっとこどっこい!

クソ腹立つ。

でも、なあんぼ腹立てたところで。
おへそが茶ぁ沸かしたところで。
決まらんもんは決まらんのよね。どないしょ。

で、最初に戻ってしまうんやね。

暑いなあ。

ただ、それだけ。


           -=*=-


二コマめ。
クッキーこと、朽木(くつぎ)先生の色彩学。
クッキーは専門の先生の中じゃあトシの方やけど、そんなん
なあんも関係ないなあって思う、人気者のスゴい人。

教室は超満員だ。
この時間だけは、誰も暑いって文句言わへん。
私語も出えへんし、熱気がすごい。
もちろん、わたしもごっつ楽しみにしてる。

今日は、気合い入れて早く来たからわたしとアッコは最前列
ゲットだ。

クッキーの講義は受講制でオープンやないんやけど、設計科
や音響科の生徒までこっそり聞きに来る。
この専門で、クッキーの講義だけでん充分お釣り来るってゆ
う感じやね。それっくらいおもろい。

センセの話は、覚えてナンボってもんやない。
あんたらにとって、色ってなんやねん。
そういうわたしらが普段意識してないところから、どんどん
切り込んでくる。

おまえらの感覚、しまっとったら錆びるでぇ。
ほらほら、がんがん研いで、ぴっかぴかに磨いて、がっつり
振り回さんかい!
そういう先生のど突き。

ぽんぽんと学生を指名し、答えさせ、たっぷりイジって笑わ
せて。でも、最後に考えさせる。
ああ、わたしらまだ自分の能力なあんも使えてへんなあって
思わせる。

熱気むんむんの中、チャイムが鳴って講義が終わった。
ノートを閉じて、思わず感想。

「ぶひー、やあっぱクッキーのはおもろいなあ」

「ほんま。商売間違えてるよね」

「吉本やろ?」

「うん、さっくり乗っ取れると思うねん」

「んだんだ。ぎゃははは」

わたしとアッコが最前列で騒いでるのを、当のセンセに突っ
込まれる。

「あほ。おまいらがさっさと就職決めよらんと、おちおち吉
本にも行けへんわ」

ぎゃははははは。

「ああ、でんでん。おまえ卒制どないすんの?」

は?

「野崎はん、気にしとったで。なんや悩んでる感じやから、
はよ決めて体動かした方がええ言うて」

あだだ。
先生にも、もやもやが見えてしまってるんやなあ。やば。

「うーん。そうなんですよねえ。どうすっかなあ。まだき
らーんって感じのテーマ見つかってないちゅうか」

「うんうん、分かるぞ。なにせ天才でんでんや。きっとわて
らには想像もつかんものを見せてくれるんやろう。爆発の前
の沈黙やな」

せんせー、そんなぷれっしゃあかけんといてー。
ってか、なんでわたしが天才でんでんなんだか。
ほめてんだか、おちょくってんだか。
くっそー。

指をくわえてわたしらを見てたアッコが、突っ込む。

「せんせー、あたしの心配はしてくれへんのですかあ?」

「ああ、浜本の心配はシモの方だけやからな」

ずごーん!
アッコ撃沈。
自業自得やろ。うけけけけ。

にやにやしてたクッキーが、ふっと真顔になった。

「あのな、でんでん。これは純粋な俺の心配や。造形科は毎
年就職に苦戦すんねや。ここでやっとることぜえんぶ放り出
して事務とかやるなら、贅沢さえ言わななんぼでもクチはあ
るねん」

「でもな。そのセンス生かそう思たら、どっかで箔付けな。
最低、学内コンペには出さんとしんどいぞ」

ぐっさあ。
尊敬してるクッキーの口から、これ以上はない残酷な警告。
でも、言ってることはもっともなんよねえ。

わたしのもやもやの一部。全部やないけど。
それは、わたしが何が出来るか分かってへんてことやろな。
可能性は、わたしが放らない限りうんとこさあるんでしょ。
でも、全部生かすことは出来ひんよねえ。

黙り込んじゃったわたしの肩を、センセがぽんぽんと叩いた。

「まあ、野崎はんともよーく相談しぃ。鉛筆は削らな書けへ
ん。おまえもセンスの削り方を考えな」

クッキーらしい、ちょっとひねった言葉を残して。
先生は教室を出て行った。





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