わたしは。
あなたに足りないものをあげようと思う。
だからあなたも。
わたしに足りないものをください。

あなたがいるから、もらえるものがある。
あなたがいるから、わたしはあげられる。

そうしてわたしたちは。
満たされる。




《第十六話 くたばれ、ばれんたいん!》

(2)



金曜日は面会出来なかった、マサトの病室。
今日は、この前と違ってすっごい慌ただしくなってる。

たぶん、お姉さんや親に面会を申し込んでも、絶対に断
られるだろう。
そういう状態になってるってことが、よく分かる。

今日は。
強行突破するしかない。

わたしは、看護師さんの数が少し減るタイミングを待っ
て、その部屋に飛び込んだ!

「き、君は誰だ! 今は面会できる状態じゃないっ! 
出ろっ! 出て行けっ!」

若いお医者さんが、血相を変えてわたしに怒鳴った。

わたしの視線の先に。
包帯で顔中ぐるぐる巻きになってる男の子の顔が飛び込
んできた。

包帯のすき間から見えるあざや傷、やせ細った顔、薄い
まぶた。
鼻や手から何本もチューブが伸びて。
真正面から見ているのがつらい。

ぴーぴーとうるさくがなっているのは、のーはかなんか
計る機械だっけ。

うるさいっ。

静かにしてっ!

そして、わたしは駆け寄ってきた看護師さんを突き飛ば
して叫んだ!

「こんの、こんじょなしーーーーーーーーーーーっ!」

「なあにが、後悔してるだあ? こんのばかあっ!!」

「勘違いしないでよねっ! あんたは、わたしになんか
したと思ってる? あんたのいたずらが、わたしになん
かできたと思ってる?」

「じょーだんじゃないっ!!!」

「いない人からのもんなんか、何も受け取れないよっ!
なんでそんなことも分かんないほどバカなのっ?!」

「あんたさ。自分のためになんかしたことあんのっ?!
あきらめないでなんかしようとしたことあんのっ?!」

「腐ってるよね。自分で自分しばりつけて、ぐじぐじぐ
じぐじ」

「勝手に自爆して、めそめそして、身ぃ引きますだあ?
いい加減にしろーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

わたしのあまりの剣幕に。
取り押さえようとしてた看護師さんたちも、足がすくん
だみたい。

「いたずらする元気があるんだったら、なんでそれを自
分に使わんの?! なんで、それを全部人にあげちゃう
の?!」

「それね。受け取れないっ! そんな、あんたの血がだ
らっだら垂れてるようなん、受け取れないっ!」

「好きだって言うんなら、あんたの口で、その口で、わ
たしの目の前でちゃんと言いなさいよっ! 卑怯者っ!」

「ごめんなさいひゃっかい言った後に、食べ残したしば
漬けみたいに好きって残されたって、そんなん知るか
あっ!」


「ばかあああああああああああああああっ!!!!」


わたしは、自分の持ってるありったけの力を全部ぶち込
んで、思いっきりばかって叫んだ。

マサトが勘違いしてること。
優しさの意味を勘違いしてること。
言葉だけ遺されても、想いの行き場なんかないの。
だったら、最初っからそんな言葉なんか遺さない方がいい!
ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっといい!!

じゃあ、なんでそんなこと言ったの?
生きたいからでしょ?
生きて、やり直したいからでしょ?

本当は、どっこまでもそう思ってるんでしょ?
なのに、どうしてかっこつけるの?
そんなクサい映画のラストシーンみたいなんを、自分で
作っちゃうの?

それは、あんたが弱いからだよ。
強くなりたいって言いながら、何もしないあんたが弱い
からだよ!

わたしだって、人のことなんか言えない。
絶対に言えないっ!
でもね、わたしはずっともがいてきたの。
みっともなくても、ばかみたいでも、ばたばたもがいて
きたの!
だって、それがわたしなんだもん。

かっこ悪くたって、ぶっさいくだって、そうやってきたの!

わたしがかっこよく見えたんなら、それはわたしが犬か
きでちょっぴり前へ進めたから。
でも、わたしは溺れてんの。
まだ溺れてんの!

だから泳がないと沈んじゃう。
そうでしょ?
違う?!

違うかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ?!


        -=*=-


わたしが全身全霊を込めてバカを絶叫したあと。

脳波計が、無情な音を出した。

ぴ。ぴ。ぴ。ぴーーーーーーーーーーーーーーーーー。

わたしは。
その場にへたり込んじゃった。

こんだけ言ってもだめだったか……。

ぼーぜんとしてたお医者さんが、ゆっくり聴診器を外し
て首を振った。

看護師さんたちがすすり泣く。

お姉さんとご両親が。
泣きながらマサトにすがりついた。

ん。

んー?

んんんんーーーーーーーーー?!!!!

わたしは。
また、新たな怒りがふつふつと沸いてきた。

わたしは涙でろでろの顔で、お医者さんの白衣の袖をぐ
いっと引っ張って、脳波計を指差した。

「せんせー、よーーーーっく聞いてください、これっ!」

わたしの言葉に、部屋がしーんと静まり返る。

確かに。
脳波計からは、連続音がぴーーーーーって聞こえてくる。
だけどその音は微妙に揺らいでて、何か他の音が混じっ
てる。

そして、混じってる音がだんだんはっきりして、大きく
なってきた。





















「ぴーーーーーーーーーーーーっ。いーしやーきいもー、
やきいもっ、ほっかほかのー、あまーい、おいもだよっ」




ぶっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!


さいってーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!


命かけてギャグればいいってもんじゃねえぞーーっ!!
ごるあーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!


その最っ低最っ悪のいたずらに激怒したわたしは、脳波
計を持ち上げて床に思いっきり叩き付けちった。


ぐわっしゃあああん!!!


その背後から。
マサトの迷惑そうな小さな声が響いてきた。

「うるっさいなあ。ちっとも眠れないよ」





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