《第十五話 らぶれたー》

(3)



件名:ごめんなさい


みゆへ。


君がいやがってるのを知ってたのに、いっぱいいたずら
をしちゃって、ごめんなさい。

僕はこんなんなっちゃってから、寂しくて、退屈で。
ベッドから早く降りたいなーと思っても、体が動かないし。
どうしようかなーって悩んでたんです。

そしたら、姉ちゃんが僕の横ですっごいコワいこと言っ
てるの聞いちゃったの。

ぶっ殺してやる、とか。

姉ちゃん、僕と違ってやるったらやるから。
僕は、ヤバいと思ったの。

止めなきゃ。なんとかして止めなきゃ。

気が付いたら、ぼくはしっぽにいたの。
あの携帯にぶら下がってる、僕が姉ちゃんにプレゼント
したしっぽに。

そして、しっぽにいれば何かいたずらができるってこと
が分かったの。
一日しか効果がないけど、いたずらができる。

だったら、姉ちゃんの仕事を邪魔しちゃおう。
そしたら姉ちゃんは困って、こわいこと考えなくなるだ
ろうって。
それはうまくいきました。

でも姉ちゃんは、僕をこわがって遠ざけようとした。
ここで捨てられたら、僕はまたひとりぽっちになっちゃう。

だから、必死にしがみつきました。
君が……拾ってくれるまでは。

僕は、最初のうちはおとなしくしてました。
でも、やっぱ気ぃついて欲しい。
僕がここにいるって気ぃ付いてほしい。
だけど嫌われたり、捨てられたりすんのはもっと嫌だ。

だから、ほんのちょっぴりのいたずらから。
影でばいばいするところから。
始めました。

君は、いたずらをこわがらなかった。
単に気付かなかっただけかもしれないけど。
じゃあ、もうちょっといけるかなーと思って。

そのあとなにしよーかなーって考えてたら、君のともだ
ちが変な男に狙われてるのを見つけて。
とっさにしっぽで君にそれを見せて。

僕はね。
びっくりしたんです。
君が男たちとやりあうなんて、考えてもみなかった。
そんなにともだちのことで必死になるなんて、考えても
みなかった。

僕がやられた時には、ともだちはみんな僕を見捨てて逃
げたのに。
君は危ないのを覚悟して立ち向かってる。

僕は。
僕は、そんな君がかっこいいと思いました。
あ、でも、君にまでしっぽつける必要なかったですね。
ごめんなさい。

僕は君と話がしたくなりました。
だから君の携帯に入りました。
だけど君あてにメールを残しても、僕を知らない君は気
味悪がって消しちゃうだけだろなーって。

だから君の打ったメールと、君の学校で聞いたやりとりを
おもちゃにして、こんなんかなーって一人遊びしてました。
携帯汚して、ごめんなさい。

でも、最後に返事くれてうれしかったです。

声取っ替えたのは、うらやましかったからです。
君んちもお父さんお母さんが忙しくて、みんなばらばら
みたいなのに、お互いのこと分かり合って、ちゃんと楽
しく暮らしてる。
ちょっと意地悪しちゃえと思って。

ごめんなさい。

君とにゃんこのは偶然です。
びっくりさせちゃってごめんなさい。

それから、手ぇ握っちゃいました。
もう我慢できなかったの。
君に触れたい。君と話したい。
でも、何か理由がないと君は怒るだろうなーって。
勝手に手ぇ握ってごめんなさい。

先生も、中村さんも、君が元気にしてあげたんだね。
すごいなーって思います。

僕は昔に戻りたいなーって思うことがあります。
いじめられることもなんにもない、ずーっと昔に。
じゃあ、君ならどうするんだろうって。

なんぼなんでも、ちょっと昔すぎましたね。
田植えさせちゃって、ごめんなさい。

君は今でも昔でもおんなじでした。
ちゃんとそこからおみやげを持って帰れる。
思い出だけでないものを、持って帰れる。

勉強しようってしてる君に置いてかれる気がして字ぃ消
しちゃった時も、君は逆にやる気出しちゃった。
勉強じゃましてごめんなさい。

僕はとっても不思議だったの。
どうして。
どうして君はなんでも受け入れちゃうんだろう?
僕のはちゃめちゃないたずらを怒らないんだろう?

正直に言います。
最初に君の携帯のメールみた時に、君はすっごい寂しい
んだろうと思いました。

一人しかともだちいなくて、だからその子を必死につな
ぎ止めようとしてるんだなーって思ったの。

あ、僕とおんなじだ。
そう思ったんです。
だから、僕と仲良くしてくれるかなって。

でも。
ゴミ箱いたずらした時に、君にはあっという間にともだ
ちができちゃった。

悔しかった。
本当に悔しかったです。
君にできることが、なんで僕には出来ないんだろ?

僕はむしゃくしゃして、タロットカードにいたずらしま
した。
いい子ぶってる顔なんか、みんな剥がしちゃえって。

そしたら君は自分のことより、先生のことを心配して身
代わりになった。
服脱がせちゃってごめんなさい。
僕は見てません。パンツの色も知りません。

僕は、自分のいたずらが君をどんどん光らせていっちゃ
うのが悲しくなってきました。
だって、君が前を向いて元気に歩くほど、僕からは遠ざ
かって行っちゃう。
だから、いたずらに紛れて泣くことにしました。

南雲さんに、謝っておいてください。
それと、君に風邪引かせちゃってごめんなさい。

土曜日に君にいたずらした理由は、君が思った通りです。
僕はいたずらをスルーされるのが怖かった。
それだけです。

そして、君も姉ちゃんと同じように僕を捨てようとした。
でも、君は本心からそうするっていうよりは、何かを確
かめる素振りだった。

それを、分かっていても。
僕はすっごく悲しかったんです。
君がそうしたことが、じゃなくて。
僕が君の前にいられないってことが。
いたずらでしか、君の前にいられないってことが。

一日しか効果がないいたずらじゃなくって、君とずーっ
と一緒にいたい。
僕のわがままは次の日爆発しました。
時間分かるもん全部止めちゃった。

だけど君は、その間にともだちにこれまでのことを隠さ
ないで全部話した。
そして、動けない、何もできない、眠っている僕に近付
き始めた。

君は。
たくさんの人のアドバイスを大事にしてる。
出会ったチャンスを……逃がしてない。
ともだちを作って、ともだちに手伝ってもらって。
君が元気になって、君が元気にしてる。

僕は……失敗しちゃったことが分かりました。
僕のいたずらは、全部裏目でした。

君への扉が開くかなと思って、まじめにやってみたけど、
うまくいかなかったです。

最後の力を振り絞って、姉ちゃんへの電話を邪魔したけ
ど、僕にはもう君にいたずらする意味がなくなっちゃった。
だって僕がやってるってこと、ばれちゃったから。

ごめんなさい。

ずっと君のそばにいて。
君にいたずらを仕掛けて。
もう君に何もできなくなってから、気が付いたんです。

僕は失敗したって。
僕も君みたいにすれば、きっとこんなことにはならな
かったのにって。

気付いた時には、もう時間がない。
時間が残ってない。

僕は悔しいです。
自分自身に腹が立ちます。

優しいのと、何もしないのは違う。
それが分かっても、もう時間がないのが悔しいです。

だから。

最後に言わせてください。

ごめんなさい。

もうしません。

いたずらは、もうしません。
だから許してください。

それから。

僕は君が好きです。

元気で優しい、ともだち思いのみゆが大好きです。

こんなこと、メールでないと言えません。

ありがとう。

マサトより。



        -=*=-


それは。

わたしが生まれて初めてもらったラブレターだった。

でもさ。
好き、より、ごめんなさいが多いラブレターなんかある
かよっ!

わたしは悲しかった。
せっかくラブレターをもらったのに、どっこまでも悲し
かった。

マサトの姿。
それはこれまでのわたしの姿。

わたしがしっぽを拾わなかったら、わたしはきっとマサ
トと同じ後悔をしてたんだろう。
ふて腐れて、ふつークラスでタルい、ウザいを連発しな
がら、一人ぽっちでどんより過ごして。

わたしが変わるきっかけ。
そのきっかけをくれたのは、間違いなくあのしっぽ。
マサトだ。

ねえ、マサト。
なんでそれに気付かないの?

マサトがわたしをずっと見ててくれたこと。
それが、わたしに変わるきっかけをくれたの。

なんでそれに気付かないの?

そんな、取って付けたみたいに好きって言わないでよっ!
もう終わりみたいな、馬鹿みたいなメールのしっぽに。
好きってくっ付けないでよっ!

そんないたずらはいらないっ。
そんなん、ちっともうれしくないーーーーーーーーっ!

わたしは机の上のものを全部床に撒き散らし、本棚の本
を全部ぶん投げて、それを踏んづけて大声で泣きながら
暴れた。

悲しかった。
悲しかった。
どこまでも悲しかった。

マサトが、自分は終わりだって思ってることが。
わたしに好きだって言いながら、ばいばいしようとして
るってことが。
そして、それが優しさだって思ってることが。

どっこまでも。


悲しかった。





Eyes On You by Automatic Loveletter