《第十二話 きみのぷろふぁいる》

(1)



「はよー、あずさぁ」

「ちーす、みゆー。風邪引いたんだって?」

「一日で、こんじょで治したけどねぃ」

「おまいはゴリラか!」

「うほっほ」

「すな!」

バスが吐き出す学生の塊。
着膨れたわたしも、ぺっと放り出される。

ありさん、ありさん、寒いからお入んなさい。
バス停から生徒玄関につながるながーい行列。
毎日見慣れた光景。

外から見たら。
ガクセイは、みーんなおんなじに見えるんかなあ?
実際は、そんなことはないよね。
みーんな違う。

どの子も。
なんかかんか抱えてる。

きっとそうだと思う。
それが大きいか、小さいか。
見えるか、見えないか。
それはいろいろだと思うけどさ。

んで。
わたしも、でっかいお荷物しょいしょいしちゃってるわ
けだよ。
そろそろ下ろしたいにゃあ。

さあ、どうすっかなー。

「みゆー、何考え込んでんのー?」

「ああ、南雲さんはどしたかなーと思ってさ」

話しながら教室に入ったわたしとあずさは、いきなし
びっくりした。

「あでえ? 南雲さん、なんでここにー?」

「あの……」

うつむいてた南雲さんが、こそっと言った。

「馬場先生に、1年の間はこっちのクラスにいなさいっ
て」

ああ。分かる。
分かるよ。

南雲さんの反撃で直接手出しはしにくくなったって言っ
ても、あの連中の敵意は変わんないだろーし。
そこに居続けるのはつらいよね。

まあ、どうせ2年生に進級すればコース分けでばらばら
になるんだし、緊急避難でうちのクラスに置こうってこ
とでしょ。

「うん、良かったんちゃうの? くっだらん連中のレベ
ルに合わすこっちゃないよね?」

「そーそー」

あずさもにこにこしてる。
でも、あのにこにこ、まだなんかあるな。

「あずさー。敵、粉砕したのん?」

「とーぜんでしょ。わたしを怒らしたらどーいうことに
なるか……」

にやあっ!
とてっつもなく、こわあいえがお。

「体で分かったでしょ あの親子」

「ちょ、親子……って?」

「あらあ、みゆー。親亀こけたら、子亀もこけるのよー」

ひょえー。
南雲さんと一緒に、どん引く。

手帳を出したあずさ。

「判決」

いきなり裁判すか。

「えびぱぱ。所領没収、御家断絶の上、遠島申し付ける!」

こ、細かいにゅあんすは分かんないっすけど。
とんでもないってことは分かるわ。

「えびむすめ。不届きな所行の数々、断じて許し難し!
放校申し付ける! その配下のものども、その不埒な行
為は不届き千万! 蟄居申し付ける!」

「あずさー、わたしあほやからさー。もっと分かりやす
く言ってくでー」

ぱたんと手帳を閉じたあずさが、つらっと言った。

「職員室んとこの掲示板に出るから、分かるよ」

わたしと南雲さんが顔を見合わせた。
うん。
なんとなくは分かった。

そゆこと、か。

「ま、短い間だけどさ。仲良くやろーよ。わたしは石田
未由。みゆでいいよ。こいつが、生野あずさ」

「あずさでいいよん」

いいんちょがてこてこ寄ってきた。

「よっ、洪水娘」

いっきなしそーゆー突っ込みっすか。

「大村せんせから、話を聞いてまふ。いいんちょーの長
島です」

「ながしめじゃなくって?」

あずさの突っ込み。

「やかあし!」

いいんちょ、軽く流す。

「なんかあったら、なんでも言って」

「あ、ありがとー」

いいんちょは、面倒見いいからねい。
頼りになるよ。

「ちなみに南雲さん、下の名前は?」

いいんちょが聞いたから、とりあえずぼける。

「名前はまだない」

「おまいは夏目漱石の猫かあっ!」

あずさに、ぺんっとど突かれる。

笑顔になった南雲さんが、小声で答える。

「祥子(しょうこ)です。南雲祥子」

もっぱつ、ぼける。

「ほっほー、ショッカーか」

「いー」

「すなっ!」

今度はいいんちょに突っ込まれた。

「しょーこ、ね。おけー」

すたすたすた。
いいんちょが自分の席に戻った。
ほんと、おもしろいよなー、いいんちょも。

田丸さんは、朝っぱらから机の上のカードをにらみつけ
てうなってるし。
にしやんは、今日も不機嫌そうな顔をしてる。

まあ、いろいろあっても。
これがにちじょー。

いつもの朝の光景、ぷらすしょーこ。

……だったはず。





Goodbye Dream Fields by Martin Newell