《第八話 がんこなごみばこ》

(1)



とりあえず、腰が痛いのはなおった。
若いって、いいなあ。うれしいなあ。にょほほ。

英語漬けで、頭が痛いのはなおんないけど。

でも、わたしにしてはがんばったと思うぞ。
補習終わったあとも、家で書き取りやって、単語帳開いて。
いっつも、べんきおは、したふりだけだったから。
ちゃんとやったのは、わたしにしちゃあ進歩だ。

試験終わるまでは、がんばって今のペースをキープしな
いとね。

アズールのおばさんの言う通り。
それはわたし自身のことなんだもん。

将来のことなんか、今はなんも分かんないし想像もでき
ないけど、わたしはちゃんとガッコにいたい。
あずさだけでなくて、他にもちゃんとトモダチを作りたい。

だったら、みんながやってることは、わたしもこなさな
きゃだめだよね。

がんばろっと。


        -=*=-


「はよー」

「あれー? みゆー、あずさと一緒じゃなかったの?」

いいんちょが、不思議そうな顔をした。

「ああ、あずさは今日は休みよん。亡くなったお母さん
の命日で、法事だって言ってた」

「そっかー」

いっつも突っ込み合う相棒がいないと、ちびっと寂しい。
まあ、ずっといないわけじゃないんだし。

席に着こうとして、ふと気付く。

「なによ、これ」

それは、昨日わたしがゴミ箱に捨てたはずのパンのビ
ニール袋。
わたしの机の上に、ぽん、ぽんと乗ってる。

ちょっと待って。
うちのガッコは、いつからゴミの分別を始めることにし
たん?

そんな連絡は来てまへん、聞いてまへん。
だいたい、この市じゃビニール類だって可燃ゴミじゃん。
燃えるゴミで一緒に出していいはずだよー?

って、なんで朝っぱらから主婦なのり突っ込みしなきゃ
なんないんだああああっ!!

むっかあっ!

なーんとなくムカツク感じで、それをゴミ箱へもっかい
捨てようとしたら……。

「なんで、ゴミが残ってんの?」

昨日の掃除当番は、掃除が終わった後でちゃんと大村せ
んせのチェックを受けてるはず。
うちは、そういうのめっちゃうるさいから。

そこで一回空になったゴミ箱に、朝のこの短い時間内に
半分以上もゴミが溜まる?

……変だにゃあ?

「どしたのー?」

いいんちょが、ゴミ箱の前で仁王立ちしてるわたしに気
付いて寄ってきた。

「いやー、これって、昨日当番がちゃんと捨ててるはず
だよねー?」

「ありゃ?」

いいんちょも首を傾げる。

「どゆこったあ?」

「分っからーん」

いいんちょが黒板横の当番表を確認に行く。

「にしやーん、昨日掃除の後で大村チェック入ったんで
しょー?」

「当ったり前でしょ」

西野さんが、不機嫌そうに答える。
まじめにやったのを疑うのかーって感じ。

いいんちょが、その西野さんにこっちゃ来いのポーズ
を取った。

「だからなによ」

ぶりぶりっ!
怒りマークをでこにいくつも貼り付けて、西野さんが
やってきた。

「これなんだけどさ」

「あがあっ?!」

西野さんがのけぞる。

「ちょ、どゆことっ?!」

「え?」

「昨日ゴミ捨てに行ったのはわたしだもん。かっくじつ
にゴミは捨ててる」

「そーだよねー、せんせのチェックも入ってるんだし。
へんだなー」

三人で顔を見合わせて首を傾げた。

「ま、いいや。わたし、ちょいと捨ててくるわ」

いいんちょが、ゴミ箱をひょいと持った。
いいんちょはフットワークが軽い。
こういうのをじぇんじぇん気にしない。

「いいんちょ、ちょっと待って」

「ん?」

「これも入れて」

さっきのパンのビニール袋丸めたの、二つ。

「いいよー」

わたしがそれを中に放り込んだのを。
わたしといいんちょと西野さんは。
しっかり確認した。

で。

いいんちょが教室を出て、わたしが自分の机を振り返る
と。

「なんじゃこりゃああああああああああっ!!」

のけぞって驚く西野さん。

「ちょ、石田さん、どしたの?」

「ね、ねえ、西野さん。今わたしがゴミ箱にこれ入れた
の見てたよねえ……」

わたしは、机の上のビニール袋を指差す。

西野さんが、さっと青ざめた。

「ちょ、ちょ、ちょっとぉ……」

「うげー」

「や、や、止めてよね、朝っぱらから……」

「ほ、ほんと。止めてほすぃ」

二人してがたがた震えているところに、のほーんといい
んちょが戻ってきた。

「おんやー? どったのー?」

わたしが机の上のビニール袋を指差す。

いいんちょが。
あの冷静ないいんちょが。
がたっとゴミ箱を取り落とした。

あわててそれを起こすいいんちょ。
そして……。

ゴミ箱の中を見たいいんちょが、気を失って倒れた。
ばったん。





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