《第三話 わたしのこぴー》

(2)



???『はろー』

わたし『あんた誰?』


メールのやり取りは、こんなひとことから始まってた。
わたしからじゃなかったんだな。
なんでか知らないけど、わたしはちょっとほっとする。

???『マサトどぇーす』

わたし『キモ』

マサト『orz』

わたし『なんの用?』

マサト『用がないとメールしちゃだめ?』

わたし『うざ』


……うーん。こりゃあ、実際に間違いメールとか入った
ら、わたしがひゃっぱしそうな反応だわ。

マサト『暇なの』

わたし『あ、そ』

マサト『何か芸してよ』

わたし『もう寝る』


ぐはは。こらあ、そのまんまだ。
コピーどころか、わたしのまんまだ。

マサト『わあああああっ! 待って!』

わたし『うざ』

マサト『ふざけてごめん。僕は遠野真人(とおの まさ
と)です。高1です』


タメの男か。
まあ、文だけじゃなんにも分かんないけどね。

オトコかオンナかも、トシも、名前も、性格だって。
文の上ではどうにでも作れちゃう。
そんなもん、なーんも信用できない。

欲しかった携帯を買ってもらっても、あずさとしかやり
取りしてないのはそのためだもん。

実際に顔を合わせて、おしゃべりして、そいつがどうい
うやつか分かってからじゃないと、メールでやり取りし
たくない。

出会い系とか、よーやるわと思う。
いくらメールだけのやり取りったって、そこに自分をさ
らすんだよ?

自分なんか、どんなに化けようって思っても続かない。
すぐに化けの皮、はがれちゃう。
自分作るの、めんどいもん。

このこぴー。
出だしはわたしとおんなじだ。
ぎんぎらぎんの警戒心で相手を見てる。

わたしは、メールのやり取りを追っかける。

マサト『あのー』

わたし『だからなに?』

わたしって、意外にツメタい。

マサト『えーと、君の名前』

わたし『知らん』

マサト『え?』

わたし『知らんて言ってんの』

マサト『どゆこと?』

わたし『そのまんまよ』


ちょっと。
これは、わたしじゃないよ。
わたしなら、探り入ったところでぶった切る。
アク拒否設定しちゃう。

書き方わたしでも、書いてるのはわたしじゃない。
こぴーがこぴーでなくなってる。

……。

続きを。
読もう。

深呼吸して。
すーはー。

マサト『記憶喪失?』

わたし『のーこめんと』

マサト『君のことどう呼んだらいいの?』

わたし『好きに呼べば?』

マサト『投げやりなんだね』

わたし『やり投げたことないよ』


うぐぅ、おやぢぎゃぐ。
自分で言ってる時は気にしてないけど、こやって見ると
とほほだにゃあ。
めげ。

マサト『女の子?』

わたし『のーこめんと』

マサト『じゃあ、僕の方で決めていい?』

わたし『かってにすれば』

マサト『みゆちゃん』


げ!
心臓止まるかって思うくらいびっくりしたけど。
考えてみれば、メアドにmiyumiyu-zqnがついてるもん。
なーんのふしぎもない。

わたし『いいけど、ちゃん取って キモい』

マサト『わかった』


ここで。
こぴーは、一方的にアクセスをきょひったらしい。
しばらーく間が空いてる。
向こうも、夜中だから寝たと思ったんかも。

ふーっ。
肩に力が入ってかちかちになってる。
こきこき。

ここまでんとこ。
整理しとこう。

えーと。
相手は一応『オトコ』みたいだ。

自分を僕、わたしを君って言ってる。
ヲレヲレ系、脳まで筋肉系ではなさそう。
でも、少なくとも女の子のトモダチはいなさそうだなー。
ヲタ系か?
なよっとしたキモいくんかも知れにゃい。

だったら、わたしの趣味じゃない。

こぴーのわたしは、ヒマだったらかまっちゃるくらいの
感じなんだろなー。
相手になーんも興味を示してない。
ここいらへんはわたしとおんなじだ。

そっから時間が飛んで。
今度は朝。

学校で携帯の電源切り忘れるのがイヤだから、わたしは
バスに乗る前には必ず電源切れてるか確認する。
ジャストそこから、やり取りが再開してる。

めっちゃ気持ちわりぃ。

マサト『はよー』

わたし『うす』

マサト『なにしてんの?』

わたし『バスの中』

マサト『学校行き?』

わたし『そ』


うわ。
こぴーったら自己申告してるよ。
どっこまでもそっけないけど。

そこで一度切れて。
今度は一時間目の授業中だ。

マサト『なにしてんの?』

わたし『じゅぎょうちゅう』

マサト『メールしてていいの?』

わたし『たるい』

マサト『なんの授業?』

わたし『すうがく』


じいちゃん先生のクソたるい授業だもん。
そのまんまだよね。
でも、わたしはちゃんと起きてたしぃ。
ぐちゃぐちゃだけど、ノートも取ってる。

こんな、メールなんかしてない。

それぞれの授業ごとに、知らない男の子とこぴーが短い
メールを交してく。
でも、それは単に『あったこと』を並べただけ。

気持ちは何も入ってない。
それが……すっごく気持ちわるい。

いや。
気持ちは入ってるね。
ちょびっとだけど。

わたしが。
授業をいやがってること。
つまんないと思ってること。
そこにいたくないと思ってること。

それが、すこーしずつ。
混じってる。

たるい。
うざい。
ねむい。

自分が言っても書いても、何の違和感も感じないコトバ。
いっつも口にしてるし。
あずさへのメールにも書いてる。

でも。
それをコピーが口にしたとたんに。
わたしはどこまでもサムくなる。
こんなコトバを吐き散らかしてたんかと思って、サムく
なる。

他に言い方ないの?
イライラする。

男の子は、自分自身のことを何も言わない。
わたしのガッコの中での姿を組み立てる、部品を探すみ
たいに。
ひたすらこつこつと質問を繰り返す。

わたしは……。
この男の子の中で、どういう女の子として組み立てられ
たんだろう?

わたしは……サムくなる。
どんどん……サムくなる。
気味悪いメールのやり取りに対してじゃなくって。

どう考えたって、がらくたの集まりにしかならない自分
の姿。
こぴーのメールが、本当に自分をそっくりに写してる。
そのことが、どっこまでもサムくて。

ふう……。





Pump Up The Volume by MARRS