決して絶える事の無い水の流れ。
決して汚れ無い水。
それは、神様が流した涙。
それは湖になり、人々を癒した。
そんな話。
「昔、貧しい家に産まれた青年に、神様は恋をしました。
神様は青年に会う為に、決められた夜の短い時間だけ下界に降りて青年を見ていました。
けれど、青年は神様の視線には気付かずお金持ちのお嬢様に恋をし結婚してしまいました。
でも神様の目には幸せには見えませんでした。貧しい家で育った青年と、お金持ちのお嬢様では価値観が違い、夫である筈の青年を、妻は何時しか奴隷扱いしていたのです。
けれども青年は、苦痛の表情等見せずに精一杯妻に尽くしました。
妻は一向に、夫を慈しむ事はありません。
見兼ねた神様は夜中、青年に会いに行きました。
そして、
『ずっと貴方が好きでした。私なら、貴方を幸せにしてあげられます。』
神様は青年に言いました。
そしたら青年は少し困って、けれど優しく微笑んで答えを出しました。
青年はゆっくりと、静かに言いました。
『神様、貴女の気持ちは嬉しいです。
けれど、貴女は神様です。
私はきっと貴女と幸せにはなれません。
貴女はたくさんの人を幸せにしなければならない。
私は人間で、1人の人を愛し、1人の人に愛されたい。
でも貴女は違うのです。
たくさんの人に愛され、たくさんの人を愛す存在です。
私を含め、全ての人を愛してあげて下さい。』
青年がそう言うと、神様は悲しさで胸が一杯になりました。
悲しくて、切なくて、でも愛しくて、神様はたくさん泣きました。
たまりに溜まった怒りは憎しみを生み、
それでも、誰かを愛することが出来た喜びが、強さと優しさを生みました。
神様は青年の前から消えると、青年も愛に触れ、一筋の涙を流しました。
それから、ほんの数日後。
神様はたくさんの優しい気持ちに包まれた涙を流して、この国には恵みの水が永遠に溢れるようになりました。
水の力でこの国の人達の荒んだ心は癒され、青年とお嬢様は、お互いに尊重できる妻と夫となって幸せに暮らしました。
けれど、神様はまだ泣いているかもしれません。
まだ水は流れているのだから…
☆☆
『水の涙国』