音楽でも本でも、一度聴いたり読んだりして

それがとても気に入ったらその後も、同じ人の手による違う作品に

興味が湧くもんですよねえ。多分、誰しも。


市町村合併によって、昨年より市内の全部の図書室がオンライン化されたため

自宅のPCからでも携帯からでも簡単に、蔵書検索したり予約が可能になり

図書館ヘビーユーザーであるオバサンにとっては、この上なく重宝なシステム

として便利に活用させてもらっています。


「賞を取った作品」であるとか「ベストセラーである」とか

そういった情報よりは何となく「口コミ」で、心に引っかかってきた

著作をピックアップしてみる事が、最近は多いです。

一冊読んでみて、それが自分と「相性」があったら

同じ作者の本をまた、続けて読んでみたくなる。



著者の名前をインプットすると、たちどころに数十冊の本たちが

ばばばっと表示されてまいります。

嬉しくなって、あれもこれも!と予約するのはいいのですが

届くのも全部まとめて!なんですよねえ。

15日以内に読んで返却しなくちゃならないのが

結構プレッシャーだったりする。



それでもやっぱり、本を読んでるのは楽しい。

それが優れた小説であれば余計に、日常から全く切り離された世界へと

瞬く間に連れて行ってもらえるのだから。




昨日、図書館から借りうけてきた一冊。

ばんば憑き/宮部 みゆき
¥1,785
Amazon.co.jp


この本、予約したの何時だったかしらん・・・?と忘れるくらいに

長い期間の後で、ようやく手元に届きました。

カウンターで受け取る際に

「あなたの後ろにまだ、26人待っていらっしゃいます。」と脅され、

可及的速やかにさっさと読んで返却してあげなくては!などと

勢い込んで読み始めたところ、あまりにも面白くて止まらなくなって

意気をもつかず読み終えた後、閉館時刻間際の図書館に

滑り込んで、無事に次の方へと廻っていきました。


「貸し本」というのは、実に上手いシステムだなあ、と思います。

書店に行けば確かに、めまいが起きるほどにたくさんの新刊本が

溢れかえっておりますが、その中から自分が読みたい本、

お金を出して購入したい本を選ぶのって、なかなか大変です。

ハードカヴァーであれば最低1500円くらいするし、

かといって同じ本を繰り返し、何回も読むこともないし。

たとえ文庫本であったとしても、本ってかさばるもんだから

置き場にも往生するんだよなあ。



人によっては「どんな人がどんな場所で、読んだかわからないから

気持ち悪くて、図書館の本は読みたくない。」

といった潔癖な方もいらっしゃるようですが、

私自身は一冊の本が、見も知らない多くの人たちの手を伝わって

その人たちの生活のひとときを、その文字と言葉で潤してきたで

あろう歴史を積み重ねてきたのであれば、

一度読まれたっきりで本棚に仕舞われたまんまの本よりは

はるかに実のある、尊い働きをしてるのではないか、と

手に取った本が古びたものであればあるほど、

そのような感慨に浸るのであります。



今回読んだこの「ばんば憑き」も、未だに書店では平積みになっているし

アマゾンのレビューを読むにつけても、多くの読者の方々から

心に沁み入る名作、と大絶賛の評を勝ち得ておられる。

宮部さんの作品についても、刊行されたものは殆ど図書館で

借りて読んでいますが、特に気に入ってるのは江戸時代の下町を

描いた「人情もの」です。


宮部さん、といえば「ミステリー作品」がまず一番に思い浮かびますが

アニメの原作にもなった「ブレーブストーリー」などのSFもあったり

ホラーの要素も大いに含まれた「時代もの」もあったり、と

その作品のジャンルは実に多様です。

それでもやはり、ミステリーを発信とされてる方ですので

ストーリーの構成、人物描写の細かさ、登場人物の相関関係などの

描写説明が実に巧みで、読者を惹きつけて離さない筆力と

魅力に溢れています。


短編が6つ、そのうちのいずれも「妖し」の世界と現世を

重ね合わせたかのように、ある意味幻想的であって実は

どの出来事も現代の世の中にあっても少しも古びることなく

時代を超えて通じるシンパシーに、多くの読者の心を切なく

震わせてくれていることでしょう。



最も恐ろしいのは、この世ならぬ者たちの存在ではなく

知らず知らず行いのうちで、暗く悲しい想念の中で

それらを生み出し、大きく育て上げてしまってきた

人間たちの業、そのものであるのかもしれない。


心の奥底に住まうものは、その当人でさえ知ることはない。

闇の部分にひっそりと巣を作り、何重にも覆いを掛けて

暴れ出さないように、身を晒さないように

その人自身が壊れてしまわないように

影を作って身を潜ませている。




表題作「ばんば憑き」で、そのラストシーンでの

主人公の男性が感じている、心の奥底でうごめく何者かは

これからの彼の半生を、どう変化させていくのだろうか。




どの時代においても、子供たちは明るく力強い未来の象徴であったと同時に

愛を与えられることなく、虐げられ捨てられる儚い存在であったことを

この作品ではいくつか取りあげられている。

虐待の末に親に殺された5才の幼女の、成仏しきれなかった「影」が

笹の船に乗せられて、西方浄土に帰っていくお話の結末には

胸が熱くなりました。



なかなか順番が回ってこないかもしれませんが、

忘れた頃に届くかもしれませんので

図書館に予約、してみてはいかがでしょうか?