高齢者に抗がん剤は…の誤報を正す | がん治療の虚実

高齢者に抗がん剤は…の誤報を正す

高齢者に抗がん剤は…の誤報を正す

2017年4月27日に発表された「高齢者へのがん医療の効果にかかる研究報告」についてのマスコミの誤解を招く報道を検証します。

 

先に結論を書きます。

・「末期高齢者に延命効果なし、効果少なく」というのは曲解

・「後方視的な研究でかつ、国立がん研究センター中央病院の患者層が、日本全体のがん患者の集団を代表していない」ということを無視していませんか?

・抗がん剤とQOLを対立軸に持っていくのは間違っている

・抗がん剤と緩和ケアを選択肢として並べるのは間違っている

・そもそも大規模研究のための予備調査であることを留意すべき

・過度に抗がん剤を使わないのは全患者に言えること

・がん種を無視した結論は意味がない

 

では中立的なマスコミの報道を見てみましょう。

 

----------以下各リンクの文面は一部引用です----------

■ 高齢患者への抗がん剤の効果 大規模調査へ

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170427/k10010963081000.html

 

国立がん研究センターが平成20年までの2年間に受診した末期の肺がんの患者およそ200人を対象に、抗がん剤治療を受けた患者と受けなかった患者の生存期間を調査したところ、75歳未満では抗がん剤治療を受けたほうが生存期間が長い一方で、75歳以上では差が見られなかったということです。

 

しかし、75歳以上の調査は対象が19人と少なく、科学的な根拠は得られていないとして、厚生労働省はさらに大規模な調査を行う方針を固めました。

 

■ 抗がん剤効果など治療指針作成へ 厚労省、患者調査

http://digital.asahi.com/articles/ASK4W3CH3K4WUBQU009.html#

 

 

■ 抗がん剤治療の効果調査へ 延命効果検証

https://mainichi.jp/articles/20170427/k00/00m/040/143000c

 

■ 国がん 進行がん高齢患者で抗がん剤治療の有効性評価が必要 予備調査で指摘

https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/57469/Default.aspx

国立がん研究センターは4月27日、進行がんの高齢患者での適正な治療を検証するために行った予備調査の結果を発表し、進行がんの高齢患者での抗がん剤治療について有効性の評価のため大規模調査が必要と指摘した。

 

■ 高齢者の抗がん剤治療 古いデータでは?

http://blogos.com/article/220346/

----------ここまで----------

 

それでは国立がん研究センターのオリジナルの発表を見てみます。

 

※ 高齢者へのがん医療の効果にかかる研究報告

-進行がんにおける抗がん剤治療と緩和治療との有効性及びその適正使用- 今後、全国がん登録などを活用した大規模調査が望まれる

http://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/press_release_20170427.html

----------以下一部引用----------

調査では、2007年から2008年に中央病院を受診した肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんの患者さんのがん登録データを用いて、進行がんにおける抗がん剤治療と緩和治療(放射線治療含む)での生存日数を非高齢者と高齢者でと比較しました。その結果、今回の検討では、臨床的、統計的に意味のある結果を得ることが出来ませんでした。

今回の解析対象では70歳以上の患者は全体の21%を占めるのみで、解析対象者に関する集団の代表性という課題を含んでいます。即ち、国立がん研究センター中央病院の患者層が、日本全体のがん患者の集団を代表していないという問題があり、今回の解析には限界があり、科学的エビデンスの有無を問える成果を出すことができませんでした。このため、国立研究開発法人国立がん研究センターとしては、高齢者へのがん医療の効果について明らかにするには、今後、全国がん登録などのデータベースと死因統計を用いた大規模調査により解析を行うことが必要と考えております。 

本研究のような後方視的な研究において、各患者のデータを二次資料から得た場合にはバイアスを排除できず、エビデンスレベルという観点からの研究の質は前向き研究より明らかに劣ります。

ーーーーーーーーここまで引用ーーーーーーーー

 

ここからは、各メディアの誤解を招く表現を指摘してみます。

----------以下各リンクの文面は一部引用です----------

× 高齢者がん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO15800570X20C17A4MM8000/

患者が少しでも希望する暮らしを送れるように、抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向だ。

抗がん剤の治療を続けるのか、生活の質(QOL)を優先した治療をするのかは難しい判断となる。

 

 

× 高齢者のがん、治療指針なぜ作成 オプジーボ登場、国の財政に影響

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO15852730X20C17A4EE8000/

 厚生労働省は高齢のがん患者を治療する際の指針(ガイドライン)の作成に乗り出す。治療データの大規模な調査により、抗がん剤を投与した場合の延命効果などを検証し指針に反映する。世代を限った治療方針を初めて検討する背景には何があるのか。

 Q なぜ新たに指針を作成するのか。

 A 国の財政に影響を与える抗がん剤が登場したことが一つのきっかけだ。2014年に承認された抗がん剤「オプジーボ」は年1兆7500億円必要との試算も出た。効く患者と効かない患者もいる中、医療現場で「どこまで高額の抗がん剤を使っていいのか」と悩む声も出ているからだ。

 Q 対象を高齢者にした理由は。

 A 若い世代に比べ高齢者は体力の衰えなどで亡くなってしまうこともあり、抗がん剤による延命効果は低くなる。もし延命効果がなければ患者の生活の質(QOL)を上げるため苦痛を和らげる緩和ケアという選択肢もあるためだ。

 Q どうやって調べるのか。

 A 新たに高齢者を対象にした臨床試験で結果を得るには数年以上かかる。国立がん研究センターがこれまで治療した高齢者約1500人の蓄積データを分析したが、がん種別では対象人数が少なく延命効果を確認できなかった。そのため膨大なデータを遡り大規模調査に乗り出すことになった。

 Q 患者にはどんな影響があるのか。

 A 延命効果がなければ高額の抗がん剤を保険適用で使えなくなる可能性がある。財政が限られる中、医療費の削減につながるメリットはあるが英国でも年齢による抗がん剤の使用制限を持ち出した際、患者などから大きな反発があった。今後、大規模調査の結果と厚労省が策定する指針は大きな議論を呼びそうだ。

 

 

× 高齢者のがん治療が大きく変わる? 過度に抗がん剤は使わないという流れに

https://thepage.jp/detail/20170502-00000014-wordleaf

 

苦しい抗がん剤治療に耐えても延命効果があまりないということであれば、無理に抗がん剤は投与せず、生活の質を重視する方がよいという考え方があります。医療の世界ではQOL(クオリティ・オブ・ライフ)と呼ばれていますが、高齢者のがん治療は、QOLを重視するという方向に変わっていく可能性があります

 

 

× 抗がん剤、高齢患者への効果少なく、肺がん、大腸がん、乳がんの末期は治療の有無で生存率「同程度」

http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/170427/plt17042708180003-n2.html

政府は調査結果を基に、年齢や症状ごとに適切な治療を行うための診療プログラムの作成を図る方針。抗がん剤治療の副作用で苦しむ患者のQOL改善に役立てる考えだ。

 

× 末期高齢者に延命効果なし 抗がん剤治療、ガイドライン作成へ

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170427/mca1704270500008-n1.htm

75歳以上では10カ月以上生存した割合は抗がん剤治療を受けなかった患者の方が多く、生存期間も長かった。

 

 

× 高齢の末期がん患者への抗がん剤治療に効果があまりない可能性が分かりました。

http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000099580.html

 

 

× 「抗がん剤、進行がんの75歳以上に効果なし」…不要投薬抑制に向け指針

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170427-OYTET50005/

 

 がんが進行した高齢者では、抗がん剤を使っても効果がない可能性を示す分析結果が出たためだ。今年夏に策定する第3期がん対策推進基本計画の柱に、高齢者の治療法研究を掲げる。不要な投薬を控え、副作用に苦しむ患者を減らし、医療費を抑えることにつながると期待される。

 

 医療現場では、体内で薬を分解する機能が下がった高齢のがん患者には、若者より量を減らすなどして抗がん剤を使う。副作用で体が弱りやすく、抱えている他の病気にも配慮する必要がある。こうした中で、抗がん剤による延命効果がどの程度あるのか、これまで十分な情報がなかった。

 

 厚労省は来年度、関係学会の協力を得て全国の病院の大量のデータを用い、様々な種類のがんで高齢者に対する治療成績の研究を始める。抗がん剤治療や痛みを軽減する緩和ケアを行った際の生存率や生活の質を調べ、高齢者に合う治療法を指針にまとめる。

 

 堀田知光・がん研究振興財団理事長の話「抗がん剤治療に適した高齢患者と適さない患者を見極め、それぞれに合う治療法を確立するべきだ。高齢者によく見られる、遺伝子の働き方を分析し、新治療法を開発することが重要になる」

ーーーーーーーーここまで引用ーーーーーーーー

 

後半取り上げた×印の7個のリンクの間違いを以下に指摘する。

国立がん研究センターの元の発表と見比べてみてください。

 

・「末期高齢者に延命効果なし、効果少なく」というのは曲解

元の発表では「今回の検討では、臨床的、統計的に意味のある結果を得ることが出来ませんでした」と書いているではないか。

しかも「進行がんの非高齢者と高齢者」という表現を、勝手に末期高齢者と書き換えている。

進行がんと末期がんの定義は明らかに違う。それどころかステージIV(遠隔転移ありの意味)を末期がんと誤認している節がある。

 

ウィキペディアの悪性腫瘍の説明も間違っているから頭が痛い。

https://ja.wikipedia.org/wiki/悪性腫瘍

より一部引用

大間違い→---末期(4期)がんの治療は現在でも困難を伴う。----

 

もともと末期がんの定義は調べてみても決まったものがなさそうだ。

医療行政上一応

「末期」の定義については、「治癒を目指した治療に反応せず、進行性かつ治 癒困難又は治癒不能と考えられる状態と医師が総合的に判断した場合」とす ることが適当である。

とされている。

http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000027612.pdf

 

しかし慣用的には、治療に反応しないがん増大で、日常生活機能が低下の歯止めがきかず、余命が1〜3ヶ月ぐらいと推測される状態といった表現がしっくりくるだろう。

 

全がん協生存率サイト調べたらわかるが、

https://kapweb.chiba-cancer-registry.org

全がん種のステージIVの10年生存率は10%以上(約1万人のデータ)

前立腺がんステージIVの10年生存率は40%(約500人のデータ)

甲状腺がんステージIVの10年生存率は50%(約162人のデータ)

という結果もあるくらい。

これでステージIV = 末期がんと言えるはずがない。

 

新聞やニュースサイトなどに見出しで「末期高齢者に延命効果なし、効果少なく」とか載ってしまったから、多くの人が鵜呑みにして、またまた誤解を招くイメージが刷り込まれてしまったに違いない。

 

 

・「後方視的な研究でかつ、国立がん研究センター中央病院の患者層が、日本全体のがん患者の集団を代表していない」ということを無視していませんか?

 

受診している高齢患者さん自体が、相当絞り込まれた患者層(場所、金銭的な意味だけでなく、残存体力の強さや本人家族の強い治療意志など)であり、かなり片寄った集団だろう。

また東京築地のがんセンターにたどり着けた患者さんの経過をカルテで調べたという後ろ向き検討だから、解析しやすい患者さんだけセレクトされている。

登録したらどんな理由でも解析から外れない「前向き観察研究」よりもずっと信頼レベルは低い。

 

・そもそも大規模研究のための予備調査であることを留意すべき

 

じゃあなぜ調べたのかというと、いきなり大規模研究するわけにはいかず、その前の実態調査、つまり必要性を示すたたき台が必要だったと言うことだろう。

 

・抗がん剤とQOLを対立軸に持っていくのは間違っている

・抗がん剤と緩和ケアを選択肢として並べるのは間違っている

 

がん種によっては、術後再発予防で抗がん剤を使う事はある。再発するしないで、患者さんの人生は全く違ってくるため、抗がん剤の副作用で多少QOLを犠牲にする場面はあるだろう。

また白血病や悪性リンパ腫のように、抗がん剤で治癒する例が少なからずあるがん種でも、一定期間QOLが多少低下してでも、強力な抗がん剤治療をするのはありえる。

しかし、今回のような固形がんに対する抗がん剤は、基本的に「緩和療法的化学療法」と言って、現在あるがん症状を緩和する目的でおこなう。

よって抗がん剤治療の第一目標は「副作用対策」なのだ。

 

どんなに腫瘍縮小が得られても、消えないことがほとんどなので(一部の卵巣がんや精巣がんなどの例外を除く)、副作用がきつすぎて継続できなければ、治療失敗となるからだ。

 

そしてがんを縮小させることよりも、苦痛を少なくして、今までの生活を続けることが、抗がん剤治療の本当の目的といえる。

 

抗がん剤臨床試験でも、QOLの最も信頼できる指標は全生存期間をどれほど延長できるかとされる。

これはQOL保てないで、延命できるはずがないという発想から来ている。

 

そして抗がん剤の副作用を軽減する治療を支持療法と言うが、本質的には緩和ケアと同じである。

 

がんの症状を、まず緩和ケアで軽減してこそ、きつい抗がん剤治療を受けられる。

そしてがんが縮小すれば、がん症状が軽くなるのだから、抗がん剤は「間接的痛み止め」とも言える。

よって、抗がん剤治療と緩和ケアは同時並列が当たり前。

 

もっと言えば、固形がんのステージIVではほとんどが緩和延命治療と言えるが、期間は限定されない(個々のがん種、患者さんによる)。

 

そして抗がん剤治療は緩和ケアの一つの手段に過ぎないと言っても良い。

 

これがわかっていないから「抗がん剤は効かなくなったら緩和ケアへ言ってください」と医師が表現してしまい、患者さんの緩和ケアという言葉のイメージが悪くなるのだ。

今回のマスコミの紹介の仕方も、それに拍車をかける質の悪い記事だ。

 

・過度に抗がん剤を使わないのは全患者に言えること

 

これは高齢者に限らない。全患者さんに言えることだ。

まあ、高齢者では往々にして過量投与となってしまうことを言いたいのかもしれないが。

 

・がん種を無視した結論は意味がない

 

国立がん研究センターの元の発表には

ーーーーーー

IV期では抗がん剤治療を施行した患者の方が手術でとりきれた患者よりも生存時間も短く、いずれの年齢でも同様の傾向であった。大腸がんではIV期の患者においても手術治療で治る患者がいるために同じIV期であっても生命予後が患者毎に大きく異なる。

ーーーーーー

とあるように、同時に検討した肺がんとはまたぜんぜん違う。

 

通常、状態の悪い患者さんに抗がん剤治療を行うのは禁忌だ。

 

しかし近年出てきた分子標的薬イレッサのように特定の遺伝子変異のある肺がん患者さんでは、ラザロの復活(注)に例えられるほど、劇的にQOLが改善することもわかっている。

(注「聖書の新約聖書において、イエスはベタニヤのラザロを死者の中から甦らせたという逸話)

 

実際に高齢者にたくさん抗がん剤治療している実地医療者としての当方が伝えたい結論としては、

 

・高齢者は虚弱(フレイル)で、体力の予備能力が低いため、予想外の副作用や体力低下が進行しやすい。

個々の患者さんをよく見て、抗がん剤治療をするかどうか、するなら何をどのくらいするか、どこを引き際とするか、かなり考えぬく必要がある。

 

・がん縮小ではなく、本人の生活と快適さを守る事を目標とし、結果として延命につながるかもしれないと言う姿勢で臨むべきだろう。

 

ということです。

※長くなるので高騰する医療費については省略しました。

 

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当日は女性看護師も出席しますので、女性の方々もどうぞ。

ご自身あるいは当該がん患者さんの診療情報をお持ちください。

セカンドオピニオンほどではなくても、応用の利く助言ができると思います(ただし個別相談ではなく、出席者全員の前での助言となります)。

日時場所:2017年5月27日(土曜日)  13:00 ~ 17:00

東京都JR大崎駅近く 

13時~14時 自己紹介と近況報告

14時~16時 レクチャーと質疑応答(ライブ動画配信あり)

16時~17時 グループに分かれたおしゃべり会

この後懇親会あり

開催概要
https://sites.google.com/site/miyazakigkkb/