悪心嘔吐対策の落とし穴⑮その吐き気は本当に副作用? | がん治療の虚実

悪心嘔吐対策の落とし穴⑮その吐き気は本当に副作用?

化学療法に吐き気はつきもの、あるいはしかたがないと思い込んで陥る落とし穴にがんそのものから来る悪心・嘔吐がある。

今までの連載では抗がん剤治療からくる吐き気という前提で書いていたが、がんの影響から来る吐き気も注意すべきだ。
というのは、今行っている治療法が効かなくなって、がんが進行してくると色々な症状を伴ってくるからだ。
その中でも吐き気症状は抗がん剤治療によるものと区別しにくい場合があるため、事前に心がけておく必要がある。
がんの増大による物理的圧迫からおこるものとして頻度が高いのは
・消化管の狭窄、閉塞、大量腹水⇒食後に嘔吐する、胆汁を嘔吐する、排ガスがなくなる
・脳転移⇒頭蓋内圧亢進により慢性的な悪心・嘔吐が持続
というのがある。

他にも高カルシウム血症、低ナトリウム血症、血液電解質バランス異常などがんによる病態で吐き気が出現することもある。

ある程度治療を継続していると吐き気にある程度慣れてしまい、がんの進行を見のがすことにもつながる。
特に今は外来通院化学療法が普及しているため、患者さん自身が注意して、いつもと違う吐き気のきつさを感じたら、すぐにでも病院に相談する事だ。

個人的には受持患者さんで何回か痛い目に遭ったことがある。
ある患者さんは吐き気がいつもと違い強すぎるのに抗がん剤の副作用によるものだと本人が思い込み、がんの進行を察知するのが遅れた。
またある人では小腸の奥で狭窄、閉塞が緩やかに進行したため、遷延する嘔気に対応が遅れた。
抗がん剤治療が無効となったある膵がんの患者さんはどんな制吐剤も通用しなかったため血液ガス分析(動脈血採血が必要)をしてみると電解質バランスが極端に酸性に傾いていた。
ある大腸がん患者さんは抗がん剤スケジュールと合わない慢性的な吐き気を訴えていたが、頭部CTを撮影した所、多発脳転移が見つかった。

吐き気は自覚症状のため、患者さん本人が察知しないとどうにもならない。
いつもと違う強い吐き気、抗がん剤投与から時間がたっても改善しない慢性的なむかむか感、制吐剤が効かない嘔吐などが出てきたら、早急に主治医に相談するべきだろう。