悪心嘔吐対策の落とし穴①予告 | がん治療の虚実

悪心嘔吐対策の落とし穴①予告

がん性疼痛に対するモルヒネなどの医療用麻薬の使い方は、処方する方も使用する患者さんもそれなりの熟練を要するので、話題にもなるし研究会や書籍も多い。

ところが悪心、嘔吐対策はそれを中心とした講演会や書籍が余りない。
医療用麻薬ほどではなくても、結構使い方が難しいはずなのだが、あまり認識されていないのが実情だろう。

その理由としてはがん疼痛対策が緩和ケア医を中心に行われているのに対して、悪心嘔吐対策が外科系(婦人科、泌尿器科を含む)医師が主体になっているためではないかと邪推したくなる。

前者の主目標は苦痛緩和だが、後者のそれは抗がん剤の治療効果(延命)としていることが多い。

もちろん数少ない腫瘍内科医でも十分な対策をとっているとは限らないが、外科医は患者さんの苦痛にやや鈍感になっている割合が多いような気がする(失礼)。

その理由は手術を生業とし、その成功を主眼としているため、患者さんの苦痛はある程度やむを得ないと思っている、あるいはよけいな鎮痛剤を使いたがらない(血圧低下など術後経過に変な影響が出てほしくない)思想がじゃましているのではないかと思う。

これは決して苦痛緩和に消極的ではないとしても、自ら患者さんにしつこく問いかけて副作用対策をしようという姿勢までは感じられないと言う意味だ。

外科系医師から化学療法を受けている患者さんは多いだろうから、こういう発言を見ると不安に感じる人も多いだろう。

しかし悪心、嘔吐は本人にしかわからない自覚症状の世界なので、どちらにしても患者さん本人がしっかり学習して働きかけないとどの医師が担当でもうまくいかない。

このシリーズではガイドラインの重要部分に焦点を当て、かつ抜け落ちている部分を補い、医療者患者とも勘違いしやすい思考を正していく予定だ。

以下に主要項目を列挙する。刺激的なタイトルもあるが、おいおい解説する。

・悪心、嘔吐は実は緊急事態と気づいている人はいるだろうか
・悪心嘔吐対策が不十分だと治療は必ず失敗する⇒寿命は短くなる
・悪心嘔吐の簡単なメカニズム
・悪心嘔吐対策の原則は「先手必勝」
・悪心嘔吐のつらさは医師に伝わっていない
・悪心嘔吐の問題はそれから派生する問題の方が大きい
・悪心嘔吐対策の基本方針
・悪心嘔吐対策のガイドラインで手薄な所
・悪心嘔吐対策の奥の手
・悪心嘔吐対策がうまくいってないのは患者さんの責任だ
・EBMだけでは嘔気嘔吐にうまく対処できない。


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