炭水化物摂取とがん⑧がん治療で糖質制限食を推奨できない理由 | がん治療の虚実

炭水化物摂取とがん⑧がん治療で糖質制限食を推奨できない理由


がん細胞のえさとなる糖質を制限することで抗がん作用を期待できるにもかかわらず、まだ本格的な臨床試験の結果が出てないために推奨できない理由を前回書いた。

しかし数々の動物実験、小規模ながら人間を対象とした臨床試験で有望な結果が出ているのだから、どうしても試してみたいという患者さんがいてもおかしくはない。
そこでもう少し解説する。

実際民間療法や代替療法は基礎実験の結果と理論を基にがん治療に効くだろうという「希望的観測」で行われている事が多い。
これは現代医学でも珍しくなく、むしろ確固たる臨床試験での結果に裏打ちされた医療はそれほど多くはない。
臨床試験というのは多額の費用と人的資源を必要とするため失敗は許されない。
そのため条件のそろった状態のいい患者さんだけに参加してもらうことになる。

となるとその臨床試験の結果を適用できる患者さんは相当限られてしまう。

しかし実際には高齢者の多い抗がん剤治療においても糖尿病や心不全、栄養不良などの合併症を持っている患者さんが珍しくないので、臨床試験の結果を参考にするには多少無理しなければならない。

そこが主治医の力量が問われる所だろう。

医師が貴重な臨床試験の結果とそれに準じたガイドラインを無視して代替医療に与する気になれないのは「希望的観測」よりも「事実」を基に治療した方が確実に患者さんのためになると信じているからだ。

話を元に戻すと、糖質制限食が抗腫瘍効果を持つ可能性は非常に高いとしても、実際のがん治療戦略上では不確定要素が多すぎるのだ。

今までの抗がん剤治療効果は栄養状態をある程度保っている前提で証明されている。
たとえ糖質摂取が腫瘍増殖作用のあるインスリン抵抗性を悪化させたとしても、患者さんの食欲を刺激し栄養状態を良好にするとなれば、抗がん剤の抗腫瘍効果のパワーの方が大きいため、腫瘍縮小と生存期間延長につながるという事実が積み上げられている。
これは理論や単純な動物実験では簡単には覆せない。

米国で進行中の糖質制限食による抗腫瘍効果を証明する臨床試験の結果は非常に興味深いものの、実際の治療現場に応用できるまでにはまだ相当越えなければならないハードルがあると考えても良いだろう。

つづく...