抗がん剤ジレンマ症例①-1 | がん治療の虚実

抗がん剤ジレンマ症例①-1

38歳の彼は平滑筋肉腫と言う比較的稀な悪性腫瘍に対する治療依頼で紹介されてきた。
原発巣は手術ですでに切除されていたが、胃、十二指腸、小腸粘膜面、全身の皮下、筋肉内に無数の転移があり腫瘍からの消化管出血を繰り返していた。
平滑筋肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、血管肉腫などは軟部悪性腫瘍と総称され、稀なため標準治療が十分には確立していない。その中でも海外で比較的使われているアドリアシン、イホマイド、ダカルバジンを併用するMAID療法を行うつもりでいたが、困ったことに39度の発熱が頻繁に起こる。
感染源はないかと色々調べてもわからず、本人は割とけろっとしてる。腫瘍熱というがんが原因で起こる発熱の可能性は大きいが、すべての発熱の原因が否定されて初めて疑うものなので、本当にそうなのか迷っていた。
化学療法は体が耐えられるぎりぎりの量を設定しているので、もしどこかに感染があった場合は骨髄抑制から急激に白血球が減少して、感染菌が全身に広がりあっという間にアウトとなるので踏み切れないのだ(特に緑膿菌)。
鎖骨下静脈ポートを使っているので、それに菌がとりついていたら抜去して再度手術で挿入するしかない。しかしもう待てる状況ではない。
あぶなすぎて治療は無理とすると肉腫の進行であまり後がない。
何か手段はないかと結構悩んだが抗生剤を投与しながら抗がん剤を開始しすることにした。ただし白血球が極端に減少しないように標準量の半分とした。
治療開始しても白血球はあまり下がらず、状態も悪化せずに経過した。次のコースから徐々に投与量を増やしたがいつの間にか発熱はなくなり、本人はやはりけろっとしている。全身の腫瘍は縮小し始めていた。やはり腫瘍熱だったのだ。
ただ問題は小腸粘膜に転移していた腫瘍からの出血が続き輸血を繰り返さなければならない。どうすればいいか.....