近藤誠氏の文藝春秋記事「抗がん剤は効かない」への反論① | がん治療の虚実

近藤誠氏の文藝春秋記事「抗がん剤は効かない」への反論①

文藝春秋2011年1月号近藤誠氏の記事「抗がん剤は効かない」は衝撃的な記事でした。一般人、がん患者さんに抗がん剤治療への疑心暗鬼を生じさせる一方、癌治療医からみてこんなひどい記事があの文藝春秋に載るのかという驚きは並大抵ではありません。
かつて15年以上前に「がんと闘うな」といった本を出版されていた時はそういう見方もあるのかと感心したこともあります。しかし今になっても現代がん治療の進歩を直視できない有名著者の世間一般への悪影響は無視できないので一がん治療医としての反論をさせてもらいます。
相手は有名で慶応大学医学部の講師、こちらは臨床腫瘍医の落ちこぼれに近い立場ですから業績的には全く太刀打ちできない状況ですが、それでも真面目にがん治療を行っている医師ならすぐにわかる誤謬を指摘すべきと考えました。
文藝春秋の記事の内容は学会で披露しようものなら集中砲火を浴びてすぐさま崩壊するでしょう。しかし専門的なことに疎い一般人相手にいかにも学問的な事を主張しているように錯覚させ、多くのがん患者さんを不幸に導きかねないため反論する義務があると考えました。
本来なら臨床腫瘍医の大家が学術的に反論することを期待したいのですが、そのような方々は日々がん治療開発に忙殺されているので後方の地固めをしている筆者が難しい理論を避けつつ誰でもわかるように論破したいと思います。
最初に近藤誠氏の記事の概要を箇条書きにします。
・抗がん剤に患者を延命させる力はない
・抗がん剤治療の最重要事項である生存曲線の形がおかしいのは人為的操作の可能性が高い。
・胃がん術後に免疫製剤「クレスチン」の生存率向上の論文は有名医学雑誌に載ったがインチキが暴かれ、見向きもされなくなった。
・抗がん剤治療した患者群の生存期間が延長しているのは抗がん剤の進歩でない。抗がん剤を使わなくても手厚いケアをすると生存期間が延長するという論文があり、抗がん剤使用患者群が数ヶ月生存期間が長いのはそのためではないか
・胃がんstage IVに使われるエスワン(商品名ティーエスワン)は最初の成績発表時の報告で完全寛解例のデータに誤りがあったのに訂正されず認可された。こんないい加減な薬剤は認可を取り消すべきだ。
・昔と比べるとCTなどの画像診断が発達して肝転移などが10mmからでも発見できるようになった。以前は触診でしかわからず8cmの転移などもあった。同じ著者の同じ治療法が数年で数ヶ月生存期間が延びたのはこれで説明できる。
・高額な製薬メーカーに癒着した研究者が行った試験は操作されており利益相反の事実だけを通知すればすべてOKと言うことに間違いがある。これを排除すればこの20年間の新規抗がん剤はほとんど認可取り消しとなるはずだ。
次回よりこれら全て間違いということを解説します。(他にも反論すべき事があるので随時追加予定)