そこから見えたのは、明日を未来を見据えるしょーちゃんのまっすぐな目。
その目はうつしてる。
いつだってうつしてる。
迷うことなく、ぶれることなく。
僕と、花を。
行ってらっしゃい。
だから僕はそうやって送り出す。
僕も見たいから。僕も見てるから。
しょーちゃんと、花を。
階段を勢いよく降りて行くしょーちゃんの足音は軽やかで、どこまでもどこまでも翔けていくように、聞こえた。
しばらくしてトイレに行こうって起き上がって、朝よりも身体が楽になってるかなって、思った。
これなら多分明日はお店を開けられる。
しょーちゃんが頑張ってるんだから僕も頑張りたい。
頑張りたいよ、一緒に。
「あれ?」
いつもしょーちゃんがお弁当と一緒に持っていくお茶の水筒が紙と一緒に置いてあるのが見えて、何だろうって思った。
『ココア作った。帰ったら片付ける。ごめん』
しょーちゃんの字。
急いでたのか、走り書き。
帰ったら片付ける?
何か違和感を感じてコンロや流しの方を見ると、ココアを作るのに格闘したらしい痕跡がこれでもかってぐらい残っていた。
ココアの粉がたくさん飛び散ってる。開けるときにバーンってなったのかな。
しょーちゃんならやりそうな気がする。
牛乳も。点々とこぼれてる。今朝開けたばかりだったからね、たくさん入ってたせいだね、きっと。
注ぐときにこぼしたのかな、ココアの水たまりもできてる。
ずいぶん大きいお鍋で作ったんだね、しょーちゃん。
これ、パスタを茹でたりするときに使うお鍋だよ?
フライパンも出てるのは何でだろう。
見れば見るほどだんだんとおかしくなってきて、思わず笑っちゃって。
でも、一生懸命作ってる姿がそこからすごく見えてきて、僕は水筒の蓋を開けて、しょーちゃんが僕のために作ってくれたココアを一口飲んだ。
「おいしいよ、しょーちゃん」
しょーちゃんが僕のために多分初めて作ってくれただろうココアは甘くてあったかくて。
僕の心に、身体に、愛しさと共に染み込んだ。
僕はしょーちゃんに愛されてる。
本当に本当に愛されてるね。
分かってるけど、もう十分すぎるぐらい知ってるけど。
改めてまた知って、分かって、満たされて、充たされて。
何でだろう。
涙が、溢れた。
『雅紀さん』
しょーちゃんの声が聞こえる。
好きだよ。
僕を呼ぶしょーちゃんの声が好き。
花の声より、サクラガイの声より、大地の、生命の声より。
僕は僕を呼ぶしょーちゃんの声が、一番一番、好きだ。
不器用なしょーちゃんが格闘して一生懸命作ってくれたココアを、僕は大事に大事に、飲んだ。