櫻井さん?
あの日のあの夜みたいに、櫻井さんが僕を見てた。
ほっぺた、触れて、耳を撫でて、髪に、手を、入れて。
熱を帯びて、熱がこもる目。
これあげるって、櫻井さんに選んだ、僕が思う龍の首の珠を、1歩近づいてネクタイにつけた。
あのときと同じ、いいにおい。
赤。
櫻井さんは赤。炎みたい。
すごい熱量であの日も僕を見てた。僕にキスしてくれた。
手も身体も熱くて、その熱に溶けてしまいそうなぐらいだった。
櫻井さん、本当に僕のこと、覚えてない?
離れた手がまた僕に触れた。
熱い、手。
「また、来てくれる?」
聞いた僕に、櫻井さんが、櫻井さんが、櫻井さんの唇が。
覚えてる?
思い出した?
あの日もこんな風にキスをされた。生まれて初めてのキスだった。
だって僕は帰る身で、だって僕は、向こうに許嫁も、居るから。
あと少しで、触れる。
と、思ったのに、櫻井さんは急に僕を引き離して、慌てて、焦って、行ってしまった。
嫌われてはいない。それは分かる。
キレイって、僕を見て言ってくれる。
どうやったら近づける?どうやったらもっと。
『相葉ちゃん、そろそろ戻って来ないとー』
インカムからおーちゃん店長の声が聞こえた。
「あ、はい。戻ります」
『うん。あんまり外に居ると、キレイになりすぎて変なおじさんたちに絡まれちゃうよ』
「…………え?」
あんまり外に居ると、キレイになりすぎて?
おーちゃん店長の言葉に、え?って思ったけど。
戻ってすぐこれ7番テーブルねって言われて、そのあとも忙しくて、僕はそう言われたことさえすっかり忘れた。