「おそらく、家屋内には一匹のシロアリもいませんよ」
業者さんは、してやったりという表情でニコリと笑った。
さっきまで、まだまだシロアリの駆除に紆余曲折が予想されるとの前提で話が進んでいたのに、突如そういわれて、私はぽか~んとしてしまった。
きっかけは私の
「去年は全くそんなことはなかったのに、今年は兵蟻が梁のところから、ぽろぽろと落ちてくるんです」
という言葉だった。
私は、ただ、シロアリがたくさん落ちてきて掃除が大変という意味合いで言ったのに、業者さんとその研究グループのお一人が、見上げていた天井の梁の方へ二三歩進んで
「ほ~お」と小さく叫んだ。
そして、すぐに助手に床下をチェックするように言った。
その助手は、10分ほどででてきて、業者さんに合図を送った。
その合図を見て、私に冒頭の台詞を言ったのだった。

兵蟻がそのように、てんでバラバラになって蟻道をはずれてまで行動するのは、もう巣からのコントロールがきかなくなっている証拠なのだそうだ。
ここは、もう居ては危険と判断して撤退したということらしい。

それで、シロアリの動向を見るため梁にセットしてあったモノを取り去ってくれた。
かなしいくらい痛んだ木の表面が現れ、その奥は固い繊維のみを残して、幾つもの細い複雑な空洞がたくさん絡まるようにできていた。
脚立に登って覗いてみたけれど、そのとおり一匹のシロアリもいなかった。
それは、全部をのぞいてみなくても、もうその気配で感じ取ることができた。
いない、と。
ジンワリと安堵と喜びが広がっていった。

ありがとうございます。なんど繰り返しても足りないくらい嬉しかった。

hari


食害梁