オバマ米大統領は演説の名手だといわれている。たしかに

 演説をしているその姿は魅力的だ。明確なキーフレーズを

 繰り返す語り口はもちろん、目の配りや手動きなども

 スムーズに流れるような感じで、美しささえ感じる。

 それが好印象につながって大統領に選ばれた面がある

 しかし、今回のオリンピック開催地の選考では、思ったほどの

 インパクトを与えなかったようだ。シカゴは最初に姿を消した。

 大統領一人の力だけでは、どうすることもできなかった。

 政治的な取引を含めていろいろな要素が影響したのだろう

 そう思いながら、一方で私は、流ちょう過ぎる話口が

 かならずしも有利に働くわけではないということを考えていた

 あまりに立て板に水のように話されると、言葉だけが

 浮いてしまって、深みが感じられなくなってしまうことがある

 むしろ、訥々(とつとつ)とした話し方が、熱心さが

 伝わってきて、心に響くことだってある。

 国際舞台に限らず、日常生活の中でもよく体験することだ。

 私たちはともすれば、気持ちを伝えるという会話の本来の

 意味を見失ってしまって、上手にしゃべることに気をとられ

 過ぎることがある。
 
 それでは本末転倒だ。スムーズにしゃべれなくても、かりに

 口ごもることがあったとしても言葉に気持ちを込めてしゃべる

 それが会話の基本だということを、改めて感じた。

 (慶応義塾大学保健管理センター教授  大野 裕