四方より花吹き入れて鳰(にお)の海
松尾芭蕉
「鳰の海」は琵琶湖の別称
その琵琶湖に四方から桜の花が吹き込んでいる
琵琶湖をかなり上空から俯瞰している感じ
あっちの岸、こっちの岸から花が散っており
湖面では水鳥の鳰(カイツブリ)が遊んでいる
この句、「鳰の海」を「鳰の波」とする本もありますが、
私は「鳰の海」を採ります
大景としての琵琶湖は「鳰の海」であり、
「鳰の波」では風景に広がりを欠く、と感じるからです
要するに、琵琶湖という大きな器に
桜が四方から散り込んでいるのです
そういえば、歌人の河野裕子さんに
「たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を
近江と言えり」があります
祐子さんは芭蕉の句の寸前の景を詠んだのか
あるいは花の散り果てた景だろうか
芭蕉は1694年、祐子さんは2010年に他界
2人は今頃、あの世から花の散り込む琵琶湖を
眺めているかもしれません