向田邦子さんのエッセーは、
何気ないエピソードの中に味わい深い人生の機微が
滲み出ていて、引き込まれてしまいます
彼女が脚本家の駆け出しだった時の話
山道のセットで使う植木代が、
自身の脚本料と同額でした
以来、「私の書くものには、滅多に木が出てこない」
と書いています
しかし、木を書かない理由は、
本当は費用の問題ではなかったのです
父が転勤族だった向田さんは、子供時代、
家の庭で木が育っていく過程を
見る機会がなかったのです
自分と一緒に成長し、悩み潰されそうな時に
抱きついて泣く、”心の故郷”となるような大木がない、
と真の理由を綴っています
人間は、木の存在に人生を重ねるものです
先日、東日本大震災の被災地で、
復興への願いを込めた植樹式が行われました
司会はプロと思われる女性
式典はよどみなく進み、植えた木に、
地元の子らが水をやる場面に移りました
「ではどうぞ」と合図を発した直後、
司会の女性は涙声で叫んだのです
「大きく育ってね!」
未来を託す子供達への思いが溢れ出たのでしょう
少しの風に揺れる若木でも、
大樹と育てば嵐にも耐えられます
我も人も、木のように忍耐強く、
大きく成長していく人生でありたいですね