海の見える駅で待ち合わせ | 旅ノカケラ

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駅
PowerShot A710 IS


「海を見たいね」
あの人に言うと、ある町の駅を告げられた。
てっきり車で迎えに来てくれると思ったら、駅で待ち合わせしようだって。
高台にある木造の小さな駅舎。
ホームに降り立ち、所々ペンキがはげた階段を上がった。
長い通路が改札口まで延びている。
岬のように山の斜面から突き出した通路からは海が広がっている。
あまりにも広くまぶしい、そして暖かな太陽。
無人の改札口を出たけれども、あの人の姿が見えない。
駅前で採れたてのみかんを売っているおじさんがFMラジオをかけっぱなしにしてうたた寝している姿が見えた。
近寄ると、目を覚まし、笑顔でひと言「甘いよ」と告げた。
日に焼けたおじさんの真っ黒な顔とつややかなみかんを交互に眺めながら、ちょうど喉も渇いていたのでみかんを買って近くのベンチに腰掛けた。
みかんを頬張りながら、春の暖かさを運んでくる風に身を任せながら、改札口から見える海を眺めていた。
やがて単気筒のエンジン音が遠くから聞こえてきた。
きっとあの人だろう。