​*この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 

「はい、阿久間です。お疲れさまです」
「アナタベです。先ほど、終わったんだけど、ほぼ予定どおり」
「よかった。じゃ、明日、常任理事会ですか。お忙しいですね」
「うん、まあ午後からだから。俺の出席は会議の冒頭で採決してくれるっていうから、最初は応接室で控えていることになった。予想どおりだよ」
「そうですね。ミウ九段の不正行為は、皆さん納得しましたか」
「ああ、ミウを黒認定するってところまでは行かなかったよ。疑わしいっていうのは全員認めさせたんだけど、どうも年寄りは危機感がなくってさあ。決断力がないっていうか、はっきりしないんだよなあ」
「天野先生は99%、言ってくれたんですか」
「天野はもちろんだよ。0.9%増えて、99.9%って言ったぜ」

 

「藪先生とかがはっきりしないんですね」
「そうそう、志茂さんがねばって藪さんの発言を引き出そうと頑張ってくれたんだけど、疑わしいねっていうとこまでしか行かないんだ。ま、阿久間さんの見立てどおりだったね」
「志茂先生はもう理解してくれて、頑張ってくれたんですね。谷上会長も、じゃ、了解済みっていうことでいいんですか」
「会長は何も言わないよ。志茂さんが説得してくれているみたいだから、問題ないと思う」
「万田先生は結局、連れて行ったんですか」
「うん」
「どうでしたか、説明の効果はありましたか」
「ううん、どうだったかねえ。一応は、一致率の高さということで、出席者全員驚いてくれて、志茂さんなんか今更って感じで、疑惑が決定的になりますねえなんて言ってたけど、でも、万田の話し方ってさあ、ミウを追及するっていうより、なんか、だめなんだよなあ。悪人を見つけて怒らなきゃいけないところなのに、すごいですねえ、90%超えていますなんて調子でさあ」
「ほう。万田先生らしいと言えばらしいんですかねえ」

 

「で、そうすると、覇王戦の挑戦者の変更の話もうまくいったんですか」
「もちろん。だって、そんな疑惑の人を相手に七番勝負なんてありえないでしょう。藪さんや里安さんの方からなんか言いそうな気配もあったからさあ、ちょっと声を張り上げたんだよ。怒ってみせて。そしたら、志茂さんが、まあまあって口を挟んで、谷上さんがやむなしって決めてくれるって、ま、シナリオどおり」
「じゃ、読上新聞社の方の志茂先生の調整、覇王戦の挑戦者の変更の話はうまく進んでいるっていうことですか」
「それは、今日の昼に志茂さんのところに内諾の返事が来たって聞いている」
「お見事でした。覇王の方は、それでは万事順調ということで、じゃ、私の方の報告をしてもよろしいですか」
「うん。どうだった?」
「週刊誌の方なんですが、文泉の中田さんには今日の午後、詳しく説明しておきました。やっぱり覇王に直接会って取材したいと言っています。すぐに覇王に会いたいっていう勢いです。海潮の方は、少し反応は鈍かったけど、動きがあればすぐに取材するでしょう。他は、せっかくご紹介いただいたのに、どうも喰いつきが悪い感じでした」
「新聞社はどうだったの」
「新聞の方は、読上新聞の東条さんは先週報告しましたが、電話でお話ができたので、疑惑があるという話を匿名でしたところで止めています。毎朝新聞は担当者が電話に出てくれないようなので、事前の情報提供はもう間に合わないだろうと思いますが、いいんじゃないでしょうか」
「読上の東条さんと電話で話したのはいつだったっけ?」
「水曜日に相談してすぐに電話を入れたんですが、話ができたのは翌日でした」
「ああ、そうだったよね。今日の話の中で、志茂さんが言っていたんだけど、金曜日に志茂さんが東条さんのところに打診にいったら、話を聞いても東条さんが驚かなかったって言うんだ。やっぱりそうか、っていう顔をしていたってね。うまく話がつながって、よかったよ」

 

「順調ですね。覇王のお考えのとおり進んでいますね」
「何を言ってるの。半分以上あなたの筋書きでしょう」
「いえいえ、ま、それはともかく。覇王、今、思い付いたんですけど、今から志茂先生のところにもう一度行って、藪先生のことをもう一度相談したらどうでしょうか」
「今からまた?」
「ええ、やはり覇王といっしょに谷上、藪といった名棋士が黒認定したということになったほうが、話はスムースに進んで、周囲にご迷惑をかけることも少なくなります。できれば、志茂先生からもう一度、藪先生にメールで聞いてもらったらどうでしょう。白黒つかない灰色だとしても、黒に近い灰色ですか、白に近い灰色ですか、って問い合わせてもらうのは出来ませんか。もちろん、黒に近い灰色って答えてもらうような文面で」