キミキミ ~夕暮れに笑う天才娘 (Pt.2)~ | まだまだキミキス妄想BLOG

キミキミ ~夕暮れに笑う天才娘 (Pt.2)~



☆ Pt.1はこちら(4月14日分)



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 結局、食堂の中の席には座れず、食堂の外のテラスで食べることになった。
 今日は季節外れの暖かさで、日なたにいると汗ばんでしまうくらいの陽気なので、本当は中で食べたかったんだけど・・・
「やっぱりテラスは暑いわね」
「でも、二人ともお弁当ですから、屋外のほうが美味しく感じるかもしれませんよ」
「フフッ、そうかもしれない」
 そういえば私、祇条さんと話すときはあまり緊張してない・・・
 花壇で会ったときにたくさんお話したから、慣れたのかもしれないけど。
「では、頂きましょうか」
「ええ、そうね」
 二人一緒に、お弁当箱のふたを開けた。
「あ、祇条さんはサンドイッチなのね」
「ええ。といっても、ハムサンドにタマゴサンド、ツナサンドと、ごく平凡ですが・・・」
 たしかに、こう言っては祇条さんに失礼だけど・・・お嬢様っぽくはないと思う。
「ところで、星乃さんは部活をしていないのですか?」
「ええ。そのかわり、図書室に行くことが多いわ。私、図書委員だから」
「あ、そうでしたね。では、放課後にも図書委員の仕事があるのですか?」
「そうなの。当番制だから毎日じゃないけど・・・でも、当番じゃなくても、図書室で本を読んだり借りたりしてから帰ることが多い・・・かな」
「フフッ・・・本がお好きな、星乃さんらしいです」
「そうね。私にとっては、図書委員が部活のようなものだと思う」
 自然に、笑みがこぼれた。
「祇条さんは、部活は何もしていないの?」
「時々、茶道部にお邪魔しています」
「あ・・・なんか、わかる気がする」
「似合っていますか?」
「ええ」
「フフ・・・よく言われます。それから、放課後だけではありませんが、音楽室でピアノを弾くことも多いです」
「えっ、そうなの?」
「先生に、時間があったら弾いてあげてと言われてますから」
「へえ・・・一度聴いてみたい」
「いつでも聴きに来てくださって、かまいませんよ」
「じゃあ、本を持って行っていい?祇条さんのピアノを聴きながら本を読んでみたいの」
「いいですけど、ピアノの感想も聞かせてくださいね」
「ええ、もちろん」

 祇条さんが相手だと、本当に話しやすい。
 きっと、彼女が会話を引っ張ってくれているからだと思うけど・・・ほかの子とこんなに話が弾むのって、珍しい。

「それで、話を戻しますが・・・今日は、放課後に図書委員のお仕事はありますか?」
「ううん、今日は午前中の当番だったから・・・」
「でしたら、今日一緒に下校しませんか?」
「えっ!?」

 びっくりした。
 一緒に帰ろうなんて言われたの、輝日南高校に入ってはじめてだったから・・・
 しかも、祇条さんに誘われるなんて、夢にも思わなかったし。

「だめ・・・ですか?」
「う、ううん、そんなことない・・・あ、でも少しだけ図書室に寄る用事があるの。そのあとでもよければ・・・」
「ええ、かまいませんよ。では、約束ですよ」
「え、ええ・・・」
 
 一緒に帰る約束、か・・・
 あまりにも久しぶりで、なんだか不思議な気分だった。



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「お、おまたせ・・・」
 すぐに用事が終わるはずだったのに、図書委員になりたての1年生の子につかまってあれこれ質問されてしまい、祇条さんをかなり待たせてしまった。
「ごめんね、待たせちゃって」
「いいえ。本を読んでいたので、大丈夫です」
 そう言って、祇条さんは微笑んでくれた。
「では、まいりましょう」
「ええ」
 二人で図書室から廊下に出た時――

「・・・あら?」

 急に祇条さんが立ち止まった。
「どうかしたの?」
「今・・・窓の外を何かが飛んでいたような気が・・・」
「え?」
 私と祇条さんは廊下の窓から外を覗いた。
 とりあえず視線を動かしてみる・・・けど、何も目に入ってこない。
「何も飛んでいないみたい・・・あっ!」
「あ・・・」
 突然、斜め上の方から白いものが飛んできた。
「本当だわ・・・」
 その白いものは、空中でゆるやかなカーブ描きながら向きを変え、開いていた窓から廊下に入ってきた。
「これ・・・紙飛行機だわ」
 私は廊下の壁に当たって床に落ちたそれを拾い上げながら言った。
「紙飛行機?」
 祇条さんが首をかしげた。
 あ・・・紙飛行機を知らないのね。
「えっと、紙飛行機っていうのはね、紙を折って空を飛ぶようにしたものなの」
 我ながら、説明になっていないと思う・・・
「ほら、これを広げると普通の四角い紙に・・・えっ!?」
 これって・・・
「・・・数学の小テストだわ」
 紙飛行機だったそれは、少し前の授業で解いた覚えのある数学の小テストだった。
 しかし、その答案は白紙で、採点は当然ながら0点。

 あ・・・1か所だけ鉛筆で記入された欄がある。
 名前の欄。

「二見・・・瑛理子?」
「えっ!?」
 私は祇条さんにその答案を見せた。
「本当ですね。どうして二見さんの答案が飛んでくるのでしょう?」
「でも、二見さんが白紙で答案を出すなんて・・・これ、本当に二見さんの答案なのかな?」
「言われてみれば・・・」
「それに・・・そもそも、いったいどこから紙飛行機を飛ばしてるのかな?」
「この上から飛んできたということは・・・屋上でしょうか?」
「きっとそうね。どうしよう、祇条さん・・・行ってみる?」
「そうですね。気になりますし・・・行ってみましょう」

 祇条さんとふたり屋上へと向かっているあいだ、私は図書室や食堂で見かけた二見さんのことを思い出していた。
 なにを思っているのか、まったく読み取れないような無表情で。
 誰も寄せ付けないような雰囲気の二見さん。

 二見さんには失礼だけど・・・正直言って、彼女が笑っている姿なんて、想像できない。

 そう思いながら、屋上に出た私の目に映ったのは・・・



「ずるるるるるる・・・」



 給水塔の壁にもたれて。

 本当に。

 本当に、美味しそうな笑顔を浮かべながら。



 カップラーメンをすすっている、二見さんの姿だった。



「・・・!!」
「あ・・・」
 彼女――二見さんと、目が合った。



 その瞬間。
 
 二見さんの口から、ぴゅっと麺が一本飛び出した。